10年にリリースされたシングル“Pumped Up Kicks”が全世界で1000万枚に迫る大ヒット曲となり、一躍人気バンドの仲間入りを果たしたLA出身バンド、フォスター・ザ・ピープル。彼らが3年振りの最新アルバム『セイクレッド・ハーツ・クラブ』を完成させた。

シングル1曲で一躍人気アーティストに。フォスター・ザ・ピープルのこれまで。

フォスター・ザ・ピープルはマーク・フォスター、マーク・ポンティアス、カビー・フィンクの3人で09年に結成。10年にシングル“Pumped Up Kicks”を発表すると、全米シングル・チャートで最高3位/10週連続トップ5入りし、全世界で900万枚を突破。その後リリースされたデビュー作『トーチズ』も全世界で200万枚を超えるヒット作となった。

Foster The People – Pumped Up Kicks

以降は世界中の様々な大型フェスに出演し、14年にはポール・エプワースやグレッグ・カースティンらをプロデューサーに迎えた2作目『スーパーモデル』をリリースすると、この作品も全米チャート3位に。その後日本でも夏フェスに出演して会場を盛り上げると、ソールドアウトとなった単独来日公演などを経て、15年にはカビー・フィンクの脱退も経験した。

とはいえ、バンドはその後もアメリカ・ツアーなどを精力的に続け、今年1月には長年サポートとして10年からバンドにかかわってきたアイソム・イニスとショーン・チミノが正式メンバーとして加入。アイソムは、実は前作の“Coming Of Age”や“The Truth”にも作曲者としてクレジットされていた。今年4月にはデジタル配信EP『Ⅲ』を発表。そして今回、4人体制になって初めての『セイクレッド・ハーツ・クラブ』を発表する。

Foster The People – Coming of Age

ポップからエレクトロ、ヒップホップまで――。古今東西の要素を詰め込んだ音楽性。

フォスター・ザ・ピープルの最大の魅力は、ポップ・クラシックへの憧れが伺える普遍的なソングライティングと、インディ・ロックからエレクトロニック・ミュージック、ヒップホップまでを取り込んだ多彩なアレンジ能力。ソングライターのマーク・フォスターはビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンを自身の最大のヒーローと公言していて、同時にカニエ・ウェストやエイフェックス・ツインらにも大きな影響を受けている。

サウンド自体は正面切ってポップでありながら、同時に聴き込むと深い意味が浮かび上がる楽曲も多く、たとえば“Pumped Up Kicks(=流行りのスニーカーのこと)”は、アメリカで起こった複数の無差別銃撃事件との関係性がファンの間で取りざたされ、ネットを中心に大きな話題になった。そこで彼らが逆説的に表現していたのは、愛が欠落してしまうことの怖さ。

そもそも、フォスター・ザ・ピープルというバンド名は「フォスター・“アンド・ザ・ピープル”」の略で、彼らは繰り返し「人のために音楽を作りたい」と公言している。フォスター・ザ・ピープル特有のひねくれたセンスと人懐っこくキャッチーなメロディは、ポップ・ミュージックの魔法を本気で信じてしまうような、ピュアすぎるほどピュアな彼らの音楽観に基づくものなのだろう。

また、彼らの場合、“Helena Beat”でパーカッション合戦を繰り広げたり、“Pumped Up Kicks”でエレクトロ・ジャムを加えたりと、音源よりもパワフルさを増すステージ上での姿も大きな魅力のひとつだろう。

Foster The People – Helena Beat

3年ぶりの新作は、ポップ・ミュージックの力で傷ついた人々を癒す「聖心クラブ」?

そうしたライブを支えてきたメンバー2人を迎えたこの3作目『セイクレッド・ハーツ・クラブ』では、バンドはさらに新しい挑戦を繰り広げている。まず、今回最も印象的なのは、メイン・ソングライターのマーク・フォスターに加えて、新メンバーのアイソム・イニスが多くの楽曲にソングライターとして深くかかわり、全編においてヒップホップ的なバックビートが導入されていること。その詳しい過程についてはアイソムのインタビューを読んでいただくとして、アルバムは“Pay the Man”やワンリパブリックのライアン・ティダーを迎えた“Doing It for the Money”といったヒップホップ・ビート全開の楽曲でスタートし、3曲目“Sit Next to Me”では近年のオルタナティヴなR&Bにも通じるプロダクションを通過。

Foster The People – Doing It for the Money (Audio)

その後も全編において、ヒップホップ、ベース・ミュージック、オルタナティヴなR&Bといった昨今の音楽シーンのトレンドを取り入れた最新鋭のポップ・ミュージックが詰まっている。“SHC”やマーク・フォスター節のメロディが印象的な“I Love My Friends”“Harden the Paint”などでは、ビートやグルーヴを強化することで、メロディもよりリズミカルになり、続くインタールード曲“Orange Dream”ではサイケに接近。

Foster The People – SHC (Audio)

“Static Space Lover”ではそうした60から70年代サイケの要素とボトムが太いヒップホップ・ビートとを融合させている。中でも作品のハイライトは“Loyal Like Sid & Nancy”で、ここでは1曲の中でどんどん姿を変える複雑な楽曲構成と途中挿入されるホーンが、『セイクレッド・ハーツ・クラブ』に込められた音楽的な冒険の中でも、最もアブストラクトな魅力を伝えてくれる。

Foster The People – Static Space Lover (Audio)

けれども全編を通して何よりも印象に残るのはやはり、彼ららしいポップなメロディの数々。『セイクレッド・ハーツ・クラブ』についてマーク・フォスターは「朝起きてニュースの見出しを見ると、何かしら大惨事が起きていたり、悲しいことが起きていたり、誰かを失ってしまったりしていた。だからこのアルバムでは、喜びを感じられる作品を作りたかった」と語っているが、本作を貫いているのは、傷ついて疲れ切った人々が寄り合うようにして音楽に身をゆだね、徐々に明るい光が差していく様子を眺めるかのような――ポップ・ミュージックならではの魔法を連想させる独特の雰囲気。全編において彼ららしさが新鮮な形でアップデートされているため、過去2作との変化を比べてみるのも楽しいはずだ。