Interview:アイソム・イニス
アイソム・イニス=キーボードやパーカッション、そしてマーク・フォスターと共にソングライティング&プロデュースも担当するメンバー
——今作はあなたとショーン・チミノが正式メンバーになって初のアルバムですね。4人体制になって、これまでとの変化を感じる部分はあると思いますか?
オフィシャルメンバーとしてアルバム作りに参加したのは今回が初めてだけど、演奏活動自体は11年から一緒にやっているから、僕たち自身は特に変化は感じていないんだよね。ライブではもうグループとしてずっと一緒にやっていて、それが僕たちにとってとても大切なことだった。だから、いつもの通り仕事をしている感じだよ。強いて言えばショーン(・シミノ)と僕がジャケットに登場するようになったくらいだね(笑)。人によってはそっちの方が重大かもしれない。でも、バンドの中での心境は変わらないんだ。4人とも今回のアルバムには本当に力を注いだから、ようやく出ることになってワクワクしているよ。
——ずっと一緒にいただけあって、今回のアルバムには既に一体感が感じられますね。
もちろんさ。一緒にプレイし始めてからもう7年近く経っているしね。一緒に世界中を回って、とても親しくなって、僕は前作『スーパーモデル』にも参加した。もうみんなファミリーなんだ。ただ、今回「バンドとして」一緒に作品を作れたのはやっぱり大きいと思う。
——本作であなたたちがやろうとしたように、世の中のムードが厳しい状態にあるときに人々を元気づけたり、楽しさに目を向けるものを作ることは、音楽やアートの魅力のひとつだと思います。たとえば僕は、『奥様は魔女』がベトナム戦争やその反戦運動が巻き起こっていた時代にエンターテイメントを提供して人々を癒したというエピソードが好きなんですが、そういった意味で、あなたたちが好きな音楽やアートがあれば教えてもらえますか?
もちろんあるよ。ものすごくたくさんある。そう言ってくれて嬉しいよ。君が言うとおり、音楽は確かに人の心を元気付けてくれるものだと思うから。僕たちが音楽をやるのは、愛のため、喜びのため。そして素晴らしい音楽は、聴き手を別世界に連れて行ってくれる。「世の中には(目の前にある厳しい状況とは)別のものがあるんだよ」って教えてくれると思うんだ。まず、僕にとって、『セイクレッド・ハーツ・クラブ』の制作プロセスの中で、J・ディラの『ドーナツ』は大きなインスピレーション源だったね。ここしばらくずっと、何度も立ち戻って聴いているんだ。他にはトーキング・ヘッズの『リメイン・イン・ライト』、ジョイ・ディヴィジョンの『アンノウン・プレジャーズ』、ジョン・マウスの“Hey Moon”。ビートルズの『マジカル・ミステリー・ツアー』……。挙げたらきりがないよ。(笑)
J Dilla – Last Donut of the Night (Donuts) Official Video
——だからなのか、アルバムには独特のマジカルな雰囲気が宿っているように思えますね。
雰囲気作りは本当に大切だった。今回のアルバムはビートやグルーヴが主体なんだ。クラシックなヒップホップのプロダクションでは、何時間も素材を掘り下げてドラムのループやブレイクを見つけて、それを何度も繰り返し使ったりするでしょ? そうするとそのループが催眠術みたいな効果を持つようになる。僕たちの場合はバンドだから、そこでメンバーが出す音をサンプリングしていったんだ。今回はその作業がすごく楽しかった。マーク・ポンティアスが出したドラムの音や、ショーン・シミノのギターをサンプリングしてね。ショーンは雰囲気作りの魔術師だよ。ギターをモジュラーと繋げて色んな音を出してくれる。それを僕が色々サンプリングして、自分で作ったビートの上に乗せていった。そのビート自体にもマーク・ポンティアスの音のサンプリングを沢山使ったよ。それに合わせてマーク(・フォスター)が曲を書いていった。……って、ちょっと話がずれたね(笑)。とにかく、雰囲気作りはこのアルバムの中ですごく重要な位置を占めているんだ。
——今回の影響源としては、60’sの音楽、サイケデリックな音楽、ヒップホップ、エレクトロニック・ミュージックが挙げられています。それぞれ具体的に共感したり、刺激を受けたアーティスト/作品を教えてもらえますか? 先ほどの話と重複する部分もありますが。
そうだね。ヒップホップ的なプロダクションでは何と言ってもJ・ディラの『ドーナツ』。あのアルバムのサンプリングをとことん分析したんだ。“Waves”では10ccのサンプリングをしていたりするし、あのアルバムの曲をじっくり聴くと、色んなジャンルを縦横無尽に駆け抜けているんだよね。中でも“Family Tree”という曲は、僕にすごく訴えかけてくるものがあった。60年代のサイケデリック・バンド、ティン・ティン(Tin Tin)の音がサンプリングされているんだ。ヒップホップのビートの上にギターが流れているのが催眠術みたいですごくパワフルで、魅力的なビートだと強く思った。ただ、今回のアルバムはコンセプト・アルバムではないんだ。いざレコーディングに入ったときに、自分たちに何の制限もかけないことにした。「どんな音になろうと構わない」ってね。だから何か影響が出ていたとしても、それは無意識的なものだったんだ。「よし、J・ディラみたいなアルバムを作ろう」なんて話し合ったわけじゃなくて、みんなでアイディアを出し合って点と点を繋げてみたら「あれ、この辺はディラの影響が感じられるね!」って気づいたような感じ。アフロっぽいビートにはトーキング・ヘッズのリズム・セクションみたいなヴァイブも感じるよ。
——その結果、全編はとてもカラフルなアルバムになっていますね。中でもあなた自身がお気に入りの曲を3つ選ぶなら、どの曲だと思いますか?
1つじゃなくてよかった(笑)。1つに決めるなんて至難の業だからね! たとえば、“Loyal Like Sid & Nancy”は重要な曲のひとつ。あれはレコーディング・プロセスの中でも軸になる曲だった。僕が作ったビートをマーク(・フォスター)に聴かせたところからはじまった曲なんだ。僕たちはそれぞれがプロデューサーだし、いつも音楽を作っているから、特にフォスター・ザ・ピープル向けに作っていたわけじゃなかったんだけどね。僕が最初に用意したものはもっと無調の原始的なエネルギーを感じさせるようなダンス・ビートだった。それをマークに聴かせたら、素晴らしいコード進行を加えてそれをソングライターの世界に引っ張ってくれたんだ。同じ部屋でその一部始終を見届けて、すごくインスパイアされたよ。無調のビートではじまって、ブリッジのところでバーナード・ハーマンみたいな往年の……ガラッと雰囲気が変わる、クラシックを真似たクレッシェンド的な展開が出てくるでしょ? そこからまた無調のビートに戻る。とても重要な曲だね。この曲ができてから、色んなアイディアを繋ぎ合わせるのがそれまでよりずっと楽になったんだ。
Foster The People – Loyal Like Sid & Nancy (Lyric Video)
——そうすると、レコーディング作業の中盤辺りにできた曲だったということですか?
いや、もっと早い段階だった。ただ、完成させるのにすごく時間がかかったんだ。マークがいないから代弁していいかは分からないけど、あの曲は彼の詞の中でも最高傑作の部類に入ると思う。素晴らしいよ。あいつがものすごく考えて思考を注入する過程を見たんだ。最終的には20ページ分くらい書いていたんじゃないかな? 別バージョンやボツにしたヴァースが沢山あるから、いつかディレクターズ・カット版が作れたら面白いよね(笑)。
——(笑)。あと2曲挙げるとしたら、どうしますか?
そうだった、喋りすぎちゃったね(笑)。他には “Pay the Man”お気に入りなんだ。あのビートも僕が作ったよ。それをマークがハード・ドライヴに保存していて、レコーディングの中盤よりやや初期の頃だったかな? マークがクリーヴランド(オハイオ州)の実家の地下室にスタジオを移したんだ。「ルーツに戻ってやってみよう」って感じになってね。それでポータブル・レコーディング・スタジオを地下室に置いた。あいつが引っ越す1日か2日前にこのビートをマークに送って、クリーヴランドに着いた彼が1から2日くらい経って送り返してきたのが“Pay the Man”だったんだ。僕の受信箱に届いて、聴いてみたら……すごくパワフルで感激したよ。何か特別なものができるんだって直感で分かったね。
Foster The People – Pay The Man (Audio)
——この曲には身体を揺らしたくなるようなヒップホップ・ビートがあって、1曲目にぴったりですね。
そう言ってくれると嬉しいよ。1曲目は本当に重要だからね。“Pay the Man”はサウンド的にも歌詞的にも『セイクレッド・ハーツ・クラブ』の世界を紹介するようなものになっていると思う。あとは、“Sit Next to Me”も好きだね。あの曲をかけると別世界に行けるような感がするんだ。このキーボードは僕じゃなくてマークが中心になって作ったものだよ。それからオリヴァー・ゴールドスティーンがかかわってる。彼は僕たちのいい友だちでもあり、素晴らしいプロデューサーでもあるんだ。今回のアルバムでは4から5曲を彼が手がけているよ。
Foster The People – Sit Next to Me (Audio)
——今回のアルバムには様々なタイプの楽曲が詰まっているだけに、ライブもかなり楽しみですね。アルバム・リリース以降のツアーはどんなものになりそうですか?
やっとアルバム3枚分のネタができたから、今回のツアーでは初めて毎晩違うセットリストを組むことができそうなんだ。1回のショウじゃ全部収まらないからね。セットを一新するのはとてもフレッシュだよ。その街のムードを感じ取って、その日自分たちが感じたエネルギーを反映させたものにしたいと思ってる。毎晩違う楽しみを提供できればいいね(笑)。
——それは楽しみですね! では最後に、日本のファンへのメッセージをお願いします。
日本は僕たちのお気に入りの国のひとつなんだ。日本の音楽ファンは、自分たちの好きな音楽に対する情熱がすごい。音楽をすごく大切に思ってくれていることが伝わってくるから、そんな世界に行って没頭するのが好きなんだ。早くそっちに行ってプレイしたいよ!