これまで数々の「伝説」を生み出してきた、国内最大級の野外音楽フェス<FUJI ROCK FESTIVAL>(以下、フジロック)。昨年は入場人数を減らし、全面的に「酒類販売禁止」の措置を取るなど感染予防対策を徹底し、「国内アーティスト中心のラインナップ」というフジロック史上初の試みを無事に成功させた。今年は2年ぶりに海外勢も参加することが決定し、初登場組の中には意外なメンツを迎えながらも全体的には「フジロックらしいラインナップ」となりそうだ。
7月29日(金)出演
D.A.N.
昨年8月、前作『Sonatine』からおよそ3年ぶりのアルバム『No Moon』を発表し、コロナ禍の混沌とした世界を生きる私たちに一つの指標を指し示したD.A.N.。櫻木大悟(Gt,Vo,Syn)、市川仁也(Ba)、川上輝(Dr)の3人により2014年の夏に結成され、「フジロック出演」を一つの目標に掲げていた彼らは2015年の「ROOKIE A GO-GO」への出演から数えると、DJ出演もあわせて今年で5回目の登場となる。ある時は朋友の小林うてな(black boboi)をサポートメンバーに迎え、またある時は3人だけでミニマルかつサイケデリックなサウンドスケープを展開。今年の苗場では新たにサポートドラマーを迎えるとのこと。これまで以上に骨太なグルーヴを聞かせてくれるのは間違いないだろう。
WONK
架空のSFストーリーに基づいた壮大なコンセプトアルバム『EYES』を昨年6月にリリースした4人組エクスペリメンタル・ソウルバンドWONK。その後に開催された、生配信フル3DCGバーチャルライブ<EYES SPECIAL 3DCG LIVE>では、アバターとなった4人が仮想空間で生ライブを行うなど、型破りな活動でシーンを賑わせてきた。今年は⾹取慎吾とのコラボ曲“Anonymous(feat.WONK)”をリリースしたかと思えば、前作『EYES』とは打って変わって等身大の日常を綴る楽曲を集めた原点回帰的なアルバム『artless』をリリースするなど、常にこちらの予想を華麗に裏切りながら進化し続けている。アカデミックかつ肉体的な彼らのアンサンブルが、苗場でどう響き渡るのか、今から期待が高まる。
幾何学模様(KIKAGAKU MOYO)
シタール奏者を迎えた変則的なバンドスタイルや、その一風変わった名前でも知られる彼らは祖国・日本では知る人ぞ知る存在だが、ブラック・エンジェルズ(BLACK ANGELS)が主催する<AUSTIN PSYCH FEST>や、過去にテーム・インパラ(Tame Impala)やマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(My Bloody Valentine)などが出演したサイケの祭典<Desert Daze>などの常連で、コロナ前にはクルアンビン(Khruangbin)やコナン・モカシン(Connan Mockasin)とともにツアーを回るなど、インディバンドとして理想的な活動を続けている。もともとは2012年の夏、高田馬場の路上でひっそりとスタート。楽器演奏もビギナー同然だった彼らだが、拠点をオランダはアムステルダムに移してインターナショナルな活動スタイルにシフトすると、ガレージサイケやジャズ、インド古典音楽、民謡などをミックスしたカテゴライズ不能な存在へと大きく進化を遂げた。世界中どこにいても「オルタナティブ」であることを貫いてきた彼らのパフォーマンスは必見だ。
▼インタビュー
幾何学模様を突き動かすリビドー「好きな人たちが楽しめる遊び場を」
7月30日(土)出演
Cornelius
小山田圭吾(元フリッパーズ・ギター)のソロプロジェクトとして1993年にスタートし、寡作ながらアルバムをリリースするたびに世界中の音楽ファンを虜にしてきたコーネリアス。2017年6月には、実に10年半ぶりのスタジオアルバム『Mellow Waves』を発表し、その先鋭的なサウンドはもちろん、自らの「愛」や「死生観」を色濃く投影した歌詞世界で新境地を切り開いてみせたのも記憶に新しい。その後も日本科学未来館にて開催された<デザインあ展>や、21_21 DESIGN SIGHTで開催された<音のアーキテクチャ展>の音楽を担当するなど、音楽以外のフィールドでも活躍してきたコーネリアスが、およそ8ヶ月ぶりに活動を再開。あらきゆうこらを迎えたバンドサウンドと、凝りに凝った映像をシンクロさせた唯一無二のライブパフォーマンスをぜひ体験してほしい。
アーロ・パークス(Arlo Parks)
ナイジェリア、チャド、そしてフランスの血をひくアーロ・パークスの名が、早耳の音楽ファンの間で話題になったのは2018年。デビュー・シングル“Cola”がリリースされた頃だった。シンプルかつオーガニックなブレイクビーツに乗せ、たゆたうように歌うハスキーボイスと官能的なメロディは瞬く間に拡散され、以降も断続的にシングルが配信されては様々なジャンルのプレイリストで紹介されるようになっていく。そして2020年12月、満を持してリリースされたデビュー・アルバム『Collapsed Sunbeams』は、彼女の類稀なる歌声とメロディを存分に生かしながらも、バラエティ豊かなアレンジで彩られた12曲が並ぶ意欲作。今年4月に開催された第64回グラミー賞では、最優秀新人賞とともに最優秀オルタナティブミュージックアルバム賞にノミネートされている。ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)やフィービー・ブリジャーズ(Phoebe Bridgers)、マッシヴ・アタック(Massive Attack)らも称賛する「ミュージシャンズ・ミュージシャン」のステージを、ようやくこの目で確認する瞬間が訪れる。
どんぐりず
群馬県は桐生市出身のラッパー森と、トラックメイカー・プロデューサーのチョモからなる音楽グループ。結成は彼らが中学の頃で、バンド編成で活動していた時期を経てセカンド・アルバム『愛』(2018年)より現在の2人編成となる。2020年8月にリリースされたシングル“マインド魂”では、ジャズやソウル、ダブなどをブレンドしたプログレッシヴなトラックと、文学的でありながら語感の心地よさも追求したリリックによって中毒者を続出、Apple Musicの2020年ベストソング100に選出されるなど各所で絶賛された。昨年から今年にかけては、ジャンルの異なる4部作のEPリリースが国内外で大きな話題となり、川谷絵音や蔦谷好位置といったアーティスト/プロデューサーからも高い評価を経ている。圧倒的なスキルを誇るラップとジャンルをクロスオーバーするエクスペリメンタルなトラック、そしてJ-Popにも通じるポップセンスを兼ね備えたどんぐりず。今後、さらなる飛躍を遂げること必至の彼らのステージを見逃すわけにはいかない。
GLIM SPANKY
ジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)を彷彿とさせる松尾レミの圧倒的な歌声と、往年のクラシックロックから90年代以降のオルタナティヴロックまで幅広く吸収した亀本寛貴の歌心あふれるギターを主軸としつつ、ファッション、アートワークなど60年代カウンターカルチャーに影響を受けたそのマニアックなセンスをメジャーフィールドでも遺憾なく発揮するGLIM SPANKY。2014年にメジャーデビューを果たすと、ドラマや映画、アニメの主題歌など多数手掛け、さらにはももいろクローバーZや上白石萌音、DISH//などにも楽曲提供をするなど活動の幅を大きく広げながらも、自らの「美学」を貫き通す姿はひたすら頼もしい。フジロックにも様々な形態で出演し、2018年にはグリーンステージにも降臨するなど今や欠かせない存在となっている。今年5月には中期ビートルズを彷彿とさせる新曲「形ないもの」をリリースした彼らの「今」を見届けたい。
スネイル・メイル(SNAIL MAIL)
16歳の時にリリースしたEP作品『Habit」(2016年)がピッチフォークやニューヨーク・タイムズといったメディアから賞賛を受け、その2年後にデビューアルバム『Lush』をリリースすると、フィービー・ブリジャーズやジュリアン・ベイカー(Julien Baker)、サッカー・マミー(Soccer Mommy)らと並ぶUSシンガーソングライターの代表格に躍り出たスネイル・メイルことリンジー・ジョーダン。ソニック・ユース(Sonic Youth)やダイナソー・Jr.(Dinosaur Jr.)、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインらの遺伝子を受け継ぎながら、ローファイかつ美しい楽曲を紡いでいた彼女だが、昨年リリースされた最新作『Valentine』では、共同プロデューサーにブラッド・クック(Brad Cook|ボン・イヴェール、ワクサハッチー)を迎え、よりリッチでソングオリエンテッドなサウンドへと進化を遂げている。前回の初来日公演では、真っ赤なフェンダー・ジャガーを抱えて情感あふれる弾き語りを披露したリンジー。今年のフジロックでは、さらに大きく飛躍した姿を見せつけてくれることだろう。
7月31日(日)出演
モグワイ(MOGWAI)
モグワイが苗場に戻ってくる! ピンと張り詰めた静謐で透明感溢れるアルペジオから、地獄の釜の蓋が開いたかのようなフィードバックノイズまで、静と動を行き来しながらドラマティックなアンサンブルを奏でる彼らのライブをコロナ以降、ずっと待ちわびていたのは筆者だけではないはずだ。1995年にスコットランドはグラスゴーで結成され、1997年のデビューアルバム『Mogwai Young Team』で早くもポストロックの代表格としてシーンを牽引してきたモグワイ。以降も作品をリリースするたびに「インストゥルメンタルミュージック」の可能性を拡張し続け、2021年2月にリリースした通算10枚目のアルバム『As The Love Continues』はマーキュリー・プライズにもノミネートされるなど、今なお第一線を走り続けている。フジロックでも様々な伝説を作り続けてきた彼ら、今年は一体どんなステージを見せてくれるのだろう。
角野隼斗
このところ若者を中心に盛り上がりを見せているクラシック音楽。そのブームの一端を担っている一人が「Cateen(かてぃん)」こと角野隼斗であることは間違いない。1995年生まれの彼は、東京大学大学院在学中に『ピティナピアノコンペティション特級グランプリ』を受賞。これをきっかけに本格的に音楽活動を始め、昨年開催された『第18回ショパン国際ピアノコンクール』ではセミファイナリストに選出されるなど、めざましい活躍を遂げている。また、クラシックを軸足としつつもジャズやポップミュージックなど様々なジャンルのアーティストと積極的にコラボを続け、「Cateen(かてぃん)」名義でのYouTubeチャンネルは登録者数が95万人超、総再生回数は1億回を突破するなど規格外の人気を集めている。まるで音の粒子が見えるような、その繊細かつきめ細やかな彼の演奏が大自然の中でどう響き渡るのか。今から楽しみでならない。
以上、今年のラインナップから気になるアーティストを10組紹介した。他にも国内アーティストではYOASOBIやずっと真夜中でいいのに。、Kroiなど、国外アーティストではジャパニーズ・ブレックファスト(JAPANESE BREAKFAST)やブラック・カントリー・ニュー・ロード(BLACK COUNTRY, NEW ROAD)、ドーズ(DAWES)など、紹介しきれなかったアーティストは枚挙にいとまがない。コロナ以降、初めて海外アーティストを迎えて開催されるフジロック。新たな歴史の1ページを是非ともこの目で目撃したい。
Text by 黒田隆憲