*東京での単独公演の模様をレポート、本日の大阪公演を楽しみにしている方は、以下ネタバレ含む本文の閲覧にご注意下さい。

「ブラック・エンターテインメント」の伝統を
今に受け継ぐ見事なショウ

カマシ・ワシントン(9月2日 リキッドルーム)

Text by 村井康司
Photo by Masanori Naruse

9月2日、午後7時30分。リキッドルームのフロアはすでに超満員だ。オープニングDJは柳樂光隆さんで、なかなかにアグレッシヴな選曲(インド風「テイク・ファイヴ」には笑った!)で会場を少しずつ盛り上げていく。そして8時30分ぐらいだったろうか、いよいよカマシたちがステージに登場した。左右に設置された高さ1メートルほどの台の上はドラムスで、向かって右がロナルド・ブルーナー・Jr、左がトニー・オースティン。二人の間にウッド・ベースを持ったマイルズ・モズレーが立ち、フロント・ラインは右からBIGYUKI(キーボード)、ライアン・ポーター(トロンボーン)、カマシ、そしてヴォーカルのパトリース・クインだ。
 

Kamasi Washington ライブレポート|「ブラック・エンターテインメント」の伝統を今に受け継ぐ見事なショウ music190903-kamasiwashington-12

Kamasi Washington ライブレポート|「ブラック・エンターテインメント」の伝統を今に受け継ぐ見事なショウ music190903-kamasiwashington-3

Kamasi Washington ライブレポート|「ブラック・エンターテインメント」の伝統を今に受け継ぐ見事なショウ music190903-kamasiwashington-4

大歓声の中、「こんにちは、トーキョー」というカマシの挨拶でギグが始まった。1曲目は「Street Fighter Mas」。テーマの後、ライアン・ポーターが短めのソロを吹き、続いてカマシのロング・ソロが始まった。いつも思うことだが、カマシのサックスは音が明晰でフレーズのメリハリがくっきりとした、ある意味とても正統的なものだ。コルトレーン的なモーダルなフレーズも、フリーキーにシャウトすることも難なくできるけど、基本はビバップ、そしていわゆる「テキサス・ファンク・テナー」の伝統を受け継いでいるのでは、と思う。ここでもフレーズの端々から、クルセイダーズのウィルトン・フェルダーを思わせる味わいが感じられるなあ、などと思って聴いていたら、ある時点で何かのスイッチが入ったらしく、カマシのプレイがどんどんアグレッシヴになっていく!
 

実は前日の「東京JAZZ」でのステージも僕は観たのだが、広範囲の「ジャズ・ファン」を意識してか、彼らの演奏は比較的おとなしいものだった。しかし今夜のカマシは、音色がダーティになり、同じフレーズを何度も繰り返して興奮をあおり、最後はほとんどアーチー・シェップか! というぐらいの絶叫を楽器から絞り出す。会場の規模や雰囲気、観客の乗りなどを察知して演奏を変化させるカマシたちの見事な対応は、実に「プロのエンターテイナー」を感じさせるものだった。
 

Kamasi Washington ライブレポート|「ブラック・エンターテインメント」の伝統を今に受け継ぐ見事なショウ music190903-kamasiwashington-5

Kamasi Washington ライブレポート|「ブラック・エンターテインメント」の伝統を今に受け継ぐ見事なショウ music190903-kamasiwashington-6

2曲目からは、「マイ・ダッド! ポップス!(おとうちゃん!)」というカマシのコールで、カマシの父であるリッキー・ワシントンがメンバーに加わる。ソプラノ・サックスとフルートを持ってステージに登場したリッキーは、小柄で痩せたいい雰囲気のおじちゃん。Tシャツの文字が「風林火山」なのが実に渋い。そして2曲目は、パトリース・クインのヴォーカルをフィーチュアした「The Rhythm Changes」。この曲ではリッキーのソプラノ・サックスとBIGYUKIのローズのソロがパトリースの歌の間に入り、なぜかエンディングはカマシがマイルス・デイヴィスの「ザ・テーマ」を吹くという展開に。
 

次はマイルズ・モズレーの実にかっこいいヴォーカルが聴けるファンク・ナンバー「Abraham」だ。このあたりになってくると、こちらも落ち着いてバンド全体のアンサンブルに意識が及ぶんだけど、いや実にまとまりのある、そして達人揃いのバンドだ。ロナルドとトニーのツイン・ドラムスは、ビートを刻む部分とフィルをパーカッション的に叩く部分を巧妙に分け合い、安定していて、しかもカラフルで重層的なリズムを供給する。中央奥のマイルズのベースは、視覚的にも音楽的にもバンドの要で、エフェクターを使ったソロの見事さは言うまでもない。そしてBIGYUKIの加入は、カマシのバンドに音楽的な広がりをもたらした。オルガン、ローズ、ピアノ、シンセの音色を場面によってすばやく使い分けて反応のいいバッキングを提供し、ソロになると思いっきり切れ切れになる彼のパフォーマンスは、すでにしてカマシ・バンドに欠かせないものになっているのだと思う。テクニカルでソウルフルなトロンボーンで存在感を示すライアン、歌とダンスでバンドの「スピリチュアル度」を上げているパトリース、「この人がカマシをここまで育てたのだなあ」と思うだけでうれしくなるリッキーの存在も素敵だ。
 

Kamasi Washington ライブレポート|「ブラック・エンターテインメント」の伝統を今に受け継ぐ見事なショウ music190903-kamasiwashington-7

Kamasi Washington ライブレポート|「ブラック・エンターテインメント」の伝統を今に受け継ぐ見事なショウ music190903-kamasiwashington-9

2つのコードが繰り返される上で、5つの異なったメロディが同時に演奏される「トゥルース」の前に、カマシは「みんなが違うけど、みんな一緒でひとつだ」とコメントした。キーボード、テナー、ヴォイス、トロンボーン、フルートが美しく絡み合い、ディレイを使ったカマシの無伴奏ソロからカリブっぽいリズムが入り、それに乗ってのカマシの長いソロはソニー・ロリンズを想起させるものだった。
 

さあいよいよクライマックスに向けてのヒートアップが始まる。5曲目は『Heaven And Earth』に収録されていた「Will You Sing」だ。荘重なテーマの後にライアンのトロンボーン・ソロ、ピチカートからアルコ(もちろんディストーションかけて!)に移行するマイルズのベース・ソロの後、パトリースがクラウドに向かって何度も「Will you sing?」と呼びかけ、ホーンズのリフが延々と繰りかえされる。そしてそのリフに時々「たっ・たっ・た・たたっ」という聞き覚えのあるフレーズが混じってきて、そうです、最後は「フィスツ・オブ・フューリー」だ!
 

単なるジャズ・バンドの演奏というよりも、よく構成されたソウル・ショウのようなカマシたちのステージングは、ブラック・エンターテインメントの伝統を今に継承している。イリノイ・ジャケーに始まるテキサス・ファンク・テナーの系譜、よりワイルドなビッグ・ジェイ・マクニーリーのホンク・テナー、それをモードやフリーと接続させたローランド・カークやアーチー・シェップといった先達たちのプレイや、ジェームス・ブラウンやPファンクの執拗な反復による盛り上がりなど、ほぼ1世紀にわたって蓄積されてきたアフリカン・アメリカン音楽の財産を、カマシは21世紀にふさわしい新しいかたちで提示しているのだ。

Kamasi Washington ライブレポート|「ブラック・エンターテインメント」の伝統を今に受け継ぐ見事なショウ music190903-kamasiwashington-13

Kamasi Washington ライブレポート|「ブラック・エンターテインメント」の伝統を今に受け継ぐ見事なショウ music190903-kamasiwashington-2

Text by 村井康司
Photo by Masanori Naruse

BEATINK Live Set List:Kamasi Washington

RELEASE INFORMATION

『Heaven & Earth』

Kamasi Washington ライブレポート|「ブラック・エンターテインメント」の伝統を今に受け継ぐ見事なショウ music180531_kamashiwashington_01-1200x1200

<国内盤2CD>
2018.06.22(金)
¥3,000/高音質UHQCD仕様/歌詞対訳・解説冊子封入/YT176CDJP

<輸入盤4LP>
¥OPEN/YT176

詳細はこちら