Floating Points at KEWL 2nd Anniversary Party。ダンスミュージックへの初期衝動を想い返した夜

2019年12月21日(土)、表参道VENTの人気パーティー<KEWL>のアニバーサリーパーティーが開催された。

2017年のローンチ以降、Hunee、Tom Trago、Legoweltなど海外の人気DJを招聘し、そのブッキングセンスにも評価が集まる<KEWL>。10月にはBradley Zeroを招聘し、初のオープンエアーパーティーも成功を収めている。彼らが2周年パーティーのゲストに迎えたのは、エレクトロニック・ミュージック・シーンにおける唯一無二の奇才・Floating Pointsだ。

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2015年リリースのデビューアルバム『Elaenia』によって、世界にその名を大きく轟かせたFloating Pointsは、今年〈Ninja Tune〉と契約し、4年ぶりの新作アルバム『Crush』をリリースしたばかり。日本では<FUJI ROCK FESTIVAL>や<SUMMER SONIC>での出演歴もあり、幅広いリスナーから絶大な支持を受けている。

作曲・演奏・エンジニアリング・ミキシング、そしてレーベル運営まで手がけ、マルチなスキルを遺憾無く発揮しているFloating Pointsだが、この日は約3時間のDJ Setを披露。数万枚のレコードコレクションを持つ“ディガー”としても知られている彼が繰り広げた、縦横無尽なミュージックトリップは、超満員のフロアをノンストップで盛り上げた。

熱狂と興奮に満ちた、享楽的な夜の様子をお届けしよう。

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開催2週間前に前売り250枚が完売、当日券は限定数のみ販売という状況の中始まったKEWL 2nd Anniversary Party。23時の開場時点で、入り口には長蛇の列ができていた。「なんとしてもFloating Pointsの音で遊びたい!」気温10度を切る寒さにも関わらず、根気よく列に並ぶ人々の様子から、そんな気合いすら感じられた。Floating Pointsは国内の大型フェスへの出演歴もあるためか、通常のVENTの客層よりも若い層が多かったのも印象的だった。

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パーティーの幕開けを飾ったのは、KEWLのレジデントDJであるFrankie $。彼が紡ぐダークで洗練されたディープハウスは、まるで深海にいるような妙な安心感を与えてくれる。緩やかなメロディとシンプルなビートは、寒さに耐えながら長時間並んできたオーディエンスの身体を暖めながら、フロアを起動させていた。

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終電を過ぎた頃から入場規制がかかり、フロアに人が溢れ返る。5分踊っただけでも汗だくになってしまうほどの熱気にやられてしまい、クールダウンするためにサブフロアのROOM2へ向かうと、こちらもかなり盛り上がっていた。バーカウンターの横で仲間との会話を楽しむ人もいれば、ミニマムな空間を最大限に使って揺れる人もいる。

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会話も音も楽しめる、心地良い空間を演出していたのは、SAYOだ。モデルとして第一線で活躍する彼女は、だが、その美貌を良い意味で裏切る骨太なディスコ・アフログルーヴで、オーディエンスを唸らせていた。蓄積されたスキルでROOM2のピークタイムを盛り上げたHiroshi Kinoshita、若干21歳ながら渋い選曲で大人のハートを掴んだbungoなど、耳の肥えたKEWLクルーによって厳選された東京のローカルDJが揃ったROOM2。この日、その完成度の高さを讃える声も多かった。

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ROOM1に戻ると、ブースにはFrankie $からバトンを受けたKnockの姿が。KEWLオーガナイザー、レジデントである彼は、アムステルダム発のレーベル〈Sound of Vast〉の主宰でもあり、名門〈Rush Hour〉と日本の架け橋にもなっている存在だ。レーベル運営を通してフラットな視点を培い、良質な音楽を発信し続けてきた彼のセットは安定感抜群。浮遊感あるハウスやテクノを自由に行き来し、ピークタイムに向けて浮き足立つオーディエンスのテンションを巧みにコントロールしていた。

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隙間がないほど人が溢れるフロアでのダンスは断念したものの、ROOM1バー前の音の鳴りも良く、思う存分音に身を預けることができた。バーの上に映し出されていたのは、<KEWL>のアートワークを手がけるアーティストAkari Uragamiの映像作品。まるで細胞のようにうごめく色彩は、規則正しく刻まれるビートへの集中力を高めてくれた。

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フロアから突如歓声が上がった。いよいよFloating Pointsがブースに登場したのだ。Knockのパスをそのまま繋ぎ、洗練された美しいディープハウスで幕を開けた約3時間に及ぶセットは、圧巻そのものだった。冒頭で述べたとおり、数万枚のレコードを保有するFloating Pointsは、世界中でディグし続けている。(ちなみに彼に「最後にレコードを買ったのはいつ?」と聞いたところ、「昨日だよ」という答えが返ってきた)テクノ、ハウス、ディスコ、ダブステップ、クラシック、サイケロックやブラジリアン・ポップまで、ジャンルにとらわれることなく、「良い音楽」を集めているのだ。その姿勢は、「ジャンルレスにセレクションされた音楽を提供する」という<KEWL>のテーマとリンクしている。まさに2周年を祝う場にふさわしいゲストだったと言える。

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タイトなベース音が徐々に強くなり、自然とステップをとる足にも力が入る。テクノ〜バレアリック、そして気づくと流れてたのは、60年代のサイケデリック・ロック。言葉の通じない異国で感覚に従って歩いていたら、思わぬ出会いと発見があったーー彼の選曲は、そんな嬉しい偶然を誘発してくれた。

縦横無尽に音楽を放つFloating Pointsは完全にフロアをロックした。興奮と熱気が立ち込める中、The Pharaohsの“Freedom Road”が流れると、オーディエンスからは雄叫びが上がり、フロアの温度は最高潮に。否が応でもDNAが反応するアツいパーカッションのリズムに、身体の奥底から突き動かされてしまう。隙間がないほど人が溢れているのにも関わらず、開放感に満ちたフロアは、満面の笑顔で溢れ返っていた。最高……!

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「もっとくれ」と言わんばかりに沸き立つオーディエンスの期待に応えるかのように、Floating Pointsが流したのはソウル・ファンクのクラシック・チューン。この日のオーディエンスは比較的若く、普段ダンスミュージックシーンで見かけないファッショニスタも多かった。故に恐らく、70年代ソウルの名曲を初めて聞いた人もいただろう。そんな彼ら/彼女らが気持ち良さそうにビート刻む姿を見て、音楽の素晴らしさを改めて感じさせられた。

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ブースに立つFloating Pointsが、終始楽しそうにプレイしていたのも印象的だった。トレードマークの眼鏡を外し、全身でリズムをとりながら子どものような笑顔でVinylをターンテーブルに乗せていく。そんな彼の姿から、純粋な音楽への愛が伝わってきた。躍動感溢れる黒いグルーヴでオーディエンスを絶頂に導いた後は、ハウス、ラテン、アシッド、そして漆黒のテクノやグライムへ。<KEWL>を率いるEITAにバトンタッチをして、3時間に及ぶプレイを締めくくった。ジャンルの境界線をかき消した彼のセレクションは、聴き手の世界を大きく広げ、新たな気づきを与えただろう。SpotifyやYouTubeをディグるだけでは絶対に感じることのできない、圧倒的な音楽体験。長蛇の列に並んででも体感する価値は、間違いなくあった。

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当日のDJ Set音源はNTS Radioで公開中!(ここから聴く

パーティーのクロージングを担ったEITAは、ハイエンドなパーティーからアンダーグラウンドシーンまで、様々な場所で経験を積んできたDJだ。彼もFloating Pointsと同様に、ジャンルにとらわれない選曲スタイルを貫いている。躍動感溢れるハウス・ディスコを軸に、自身でRe-EditしたというPENNYや山下達郎のヒットナンバーなども織り交ぜながら、アニバーサリーパーティーのラストにふさわしい、祝祭的なラストを飾った。

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550人を超える集客となり、大成功を収めたKEWL 2nd Anniversary。もちろんこの成功は、Floating Pointsの力も大きいだろう。しかし、グローバルな視点を持ち「ジャンルレスに良い音楽を提供する」というKEWLの純粋な音楽愛が、パーティーという形で体現されていたからこその成功だと、強く思う。初めてダンスミュージックに触れた時に感じた抗えないほどの初期衝動や、クラブで聴いた曲が忘れられず、必死で音源を探した純粋な探究心を思い返させてくれるーー<KEWL>はそんなパーティーだ。

新年のキックオフパーティーは、1月18日(土)にVENTで開催し、ゲストにはUKハウスの草分けMr. Gが出演。3年目を迎える<KEWL>の更なる進化から、目が離せない。

Text by Azusa
Photo by Ki Yuu

Mr. G at KEWL

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2019.01.18(土)
OPEN 23:00
DOOR ¥3,600|FB discount ¥3,100ADV ¥2,750

=ROOM1=
Mr. G -LIVE-
Knock(KEWL/Sound Of Vast)
EITA(KEWL)
Frankie $(KEWL/N.O.S.)
LIGHTING:MACHIDA

=ROOM2=
YAMARCHY(DISKO KLUBB)
Satoshi Matsui(NO HOUSE?/R.S.A.)
DJ FGR
NASTYBOYZ(Michead & Chuckroll)
Leo Gabriel & Mizuki

Installation by Akari Uragami

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