M83のこれまでと最新作『ジャンク』について

マイブラ、シガー・ロス、ディアハンター。シューゲイザーの歴史からM83最新作『ジャンク』を紐解く music16048_m83_3

(c) Andrew Arthur

さて、M83は2003年にセカンド・アルバム『Dead Cities, Red Seas & Lost Ghosts』をリリース後、ニコラが脱退し、実質上アンソニーのソロ・プロジェクトとなった。分厚いシンセのレイヤーと、メランコリックなメロディ、下世話なビートを融合させた彼の作風にはどこかフレンチポップの香りが漂い、アンソニーが敬愛してやまないセルジュ・ゲンスブールの後年のアルバム、『ラヴ・オン・ザ・ビート』や『囚われ者』からの影響も見え隠れする。2007年には、よりアンビエント路線へとシフトした『Digital Shades Vol. 1』をリリースするが、2008年の通算5枚目『Saturdays = Youth』では、シガー・ロスやコクトー・ツインズを手がけた大御所ケン・トーマスと、ラプチャーやトレイシー・ソーンの作品で知られるイワン・ピアソンの2人をプロデューサーに迎え、バンドサウンドへと大きく舵を切る。とりわけヴォーカル&キーボードで参加したモーガン・キビーがこのアルバムで果たした貢献は大きく、プリファブ・スプラウトばりの名曲“Kim & Jessie”や“Too Late”など、数曲ではアンソニーと共作もおこなった。『Saturdays = Youth』で開花した、アンソニーのソングライティング能力をさらに突き詰めたのが、2011年のアルバム『ハリー・アップ・ウィ・アー・ドリーミング』である。2枚組という大作で、プロデューサーにはベックやナイン・インチ・ネイルズ、ガービッジらの作品で、重要な役割を果たしてきた敏腕ジャスティン・メルダル・ジョンセンを起用。アレンジの幅は一気に広がり、もはや「エレクトロ・シューゲイザー」というカテゴリーでは語り尽くせないほど、飛躍的な進化を遂げている。

M83 ‘Kim & Jessie’ Official video

M83 – Too Late

そしてリリースされるのが、通算7枚目となるアルバム『ジャンク』だ。前作のリリース後におこなったワールド・ツアーの最中に、ヴォーカリストとしての限界を感じたアンソニーは、今作ではフロントマンを降りて様々なゲスト・ヴォーカルを起用することにした。例えば、『オブリビオン』でもフィーチャーしたノルウェーの妖精スザンヌ・サンドフォーが、ムーディーなバラード“For The Kids”で美しい歌声を聴かせている。かと思えばフランス人女性ヴォーカリスト、メイ・ランは“Go!”、“Bibi The Dog”ほか数曲に参加。また、2011年にバンドの公式サイトでメンバー募集し、採用が決まったジョーダン・ロウラーも、“Walkway Blues”でジョージ・マイケルばりのファルセット・ヴォイスを披露している。さらに、あのベックが“Time Wind”でフィーチャーされていることを、意外に思う人もいるかも知れない。が、アンソニーと同様セルジュ・ゲンスブールの大ファンであり、ジャスティンとともにセルジュの娘シャルロットのアルバムをプロデュースした経験を持つベックが、M83の音楽を気に入らないわけがない。ちなみに今作にも、セルジュばりの妖艶なナンバー、“Bibi The Dog”が収録されている。

M83 – Go! feat Mai Lan (Audio)

こうして集められた多彩なヴォーカリストによって、メロディ展開に制約がなくなったのか、アンソニーのソングライティング能力はさらに向上。メランコリーでノスタルジックな世界観はそのままに、60〜70年代のポップミュージックやソウルミュージックのエッセンスを散りばめたような、カラフルな楽曲が多く目立っている。本作を作るにあたり、子供の頃に親しんだファミリードラマ『パンキー・ブリュースター』や、『Who’s the Boss?』のオープニングに流れていたような、他愛のない80年代ポップからも彼はインスパイアされたそうだが、人を食ったようなアートワークや(ガチャピンとムック??)、軽薄なほどにポップでファンキーなサウンド・プロダクションには、前作の成功によるプレッシャーを払い飛ばし、いい意味で期待を裏切る作品を作り上げようという“パンクな心意気”さえ感じる。スティーヴ・ヴァイの早弾きギターソロなど、笑ってしまうほどカッコイイ。

マイブラ、シガー・ロス、ディアハンター。シューゲイザーの歴史からM83最新作『ジャンク』を紐解く music16048_m83_6

『ジャンク』ジャケット

5月には来日公演も決定しているM83。前作を最後に脱退したモーガンに代わり、テキサス州ダラス出身のカエラ・シンクレアがヴォーカル&キーボディストとして加入したという。彼女もまた、ジョーダンと同様ネットのよる募集で採用が決まったようだ。新しいメンバーとともに、今作『ジャンク』のサウンドをどう再現してくれるのか。今から楽しみで仕方ない。

M83 – Do It, Try It (Audio)

EVENT INFORMATION

M83 来日公演

2016.05.26(木)
OPEN 18:00/START 19:00
新木場 STUDIO COAST
ADV ¥6,500
Support Act:Seiho

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RELEASE INFORMATION

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