憧れのレッド・マーキー
3日目AM6:00、PAで同行してくれた安保さんの「みんな、頑張ろうな!」というエールの動画で起きた。成順が昨晩撮ったらしく、その2秒ほどの動画を聞かせるべく、眠るメンバーの耳元にそっと押し当てている。なぜかみんなの寝覚めが悪い気がするが、それはここ2日間楽しんで疲労が多少たまっているからだろう。寝起きの特に悪い竹田が布団にくるまりながら「みんな先行ってて」と言ってた気がするが全然意味がわからなかった。顔を洗って、みんなでコーヒー飲んで、足並み揃えてレッド・マーキーへ向かった。
誰もいない朝のレッド・マーキーは涼しかった。サウンドチェックを安保さんたちと進めながら、本番が刻々と近づいていることに高揚を感じる。僕はあまり緊張しない質なのでヘラヘラしていたが、朝早くからお客さんが集まってレッド・マーキーの外で待ってくれている光景を目の当たりにして、それでもなおヘラヘラしていた。リハーサルも終えて、楽屋で話していると、開場したようで女性の悲鳴にも似た歓声とともに一部の人たちがフロア最前に走っていく音が聞こえた。知らない間に、熱狂的なファンが誕生してくれていたのかとシンミリ。気分も高揚したところで、成順がみんなの背中をトンっと押して、それぞれ舞台袖に上がっていく。
AM10:20、バックドロップに<フジロック>仕様のバンドロゴが表示され、憧れのステージに上がる。温かい声援とともに、「セイジューン!」と黄色い歓声が聞こえる。ソッコーでそっちの方に俺が手を振る。死ぬほどスベる。ただそれさえも僕のモチベーションをあげる要素にしかならなかった。人がこんなにたくさんいる前で演奏するのは初めてだし、お客さんも眠いだろうに楽しそうにしてくれてるし、メンバーも楽しんでいる。それだけで十分だった。俺は終始心地良さそうな顔をしていた。
暖かな拍手に包まれながらステージを後にして、荷物をまとめ、宿に戻った。その道中で、開場時の悲鳴が、僕らの次にレッド・マーキーで演奏する韓国のバンドグッカステンに向けられたものだったと知る。<フジロック>の公式パンフレットに「韓国では数万人規模のアリーナを埋める」的なことが書いてあった。シンミリ。でも、最前でグッカステンを待機してた人たちも楽しそうにしてたから、いい出会いだったな。いわゆる「○○地蔵」というものを僕も問題視していたし、だから自分は地蔵と呼ばれる行為をしないけれど、それで目当てと違うバンドも好きになったり、新しい出会いがあるなら、悪くないかも知れないと思った。
その後、苗場プリンスホテルの食堂で、他の出演者に混ざりながら昼食をとった。ステージ後に食べるものは全て美味しかったし、十数種類も並ぶドレッシングの充実度に世界を感じた。食べ終わると、感傷に浸るでもなく豊が席を立つ。「観に行きたいバンドがいるんだ。時間だから行くね」みたいなことを言って。ストイックすぎた。豊は去年が初めての<フジロック>だが、タイトなスケジュールで見たいアーティストをくまなく見ており、4年間<フジロック>に訪れている僕より、ライブ見た総アーティスト数がすでに多い。僕もそろそろかな、と箸のペースを上げて、ふと見ると竹田がチーズケーキ取りに行ってる。マイペースすぎる。個性豊かな面々とひとまずここまでこれてよかったです。応援してくれた方々、ありがとうございました。
一緒にYUKIを見たのち八丈島の友人は帰ったため、休憩がてら森で鳥さんたちとお話をして、機材メンテナンスでお世話になっている山本さんが所属するトリプルファイヤーを見に苗場食堂へ。ファーストアルバム『人生、山おり谷おり』のリリースパーティにも出演してもらって、個人的に大ファンのバンドだが、苗場食堂でもボーカル吉田くんのヘロヘロ加減と鈍い輝きに変わりはなかった。《棒を突き刺す!》と行っただけで客が盛り上がるのはおかしい。《銀行に行った日!》と言っただけで吉田くんがヒーローに見えるのはおかしい。が、格好良かった。演奏陣もタイト極まりないから、俺は自然と体を揺らしたし、その場にすごく馴染んでいた。
そして、かなり楽しみにしていたビョークを観にグリーン・ステージに向かう。もうぬかるみはウンザリという人々の選択により左前方のぬかるみゾーンが丸ごと空いている。僕はそこに立ち、感動していた。ガッツリ映像を使っていて、その映像と曲とが昇華しあって意味を持つような感じ。本当にフジロックに来て良かったなと、感無量の面持ち。ただ、友人の話によるとほぼ白目をむいて立ちながら眠っていたらしい。思い過ごしであればいいのだが・・・。
このまま<フジロック>が終わってもいい、というくらいの気持ちだったが、実は、一方的に指切りしてまだ果たせていない約束があった。ヤシの木フラミンゴ。俺の<フジロック>はまだ終わらない。不思議と体が軽くなり、自然と足が苗場食堂に向かった。そして、見れなかった。人パンパン。なぜこんなに人がいるんだ。夏がそうさせたのか? またしてもnever young beach人気を全身で感じながら聴いた。結局演奏しているところは見れなかったが、視力がどうでもよくなるくらい耳だけで楽しめるライブだった。
苗場食堂を後にしたところで、まだ会う予定の人がいたが、携帯電話の電池が切れたので一旦宿に戻った。俺の<フジロック>は終わらない。パンツを干し、着替え、携帯電話を充電器に差したところで僕の充電が切れ、起きたら朝になっていた。窓から眺めれば、皆、来年の<フジロック>に向けてテントを片付け始めている。彼ら<フジロック>ファンたちの熱意によって、<フジロック>は支えられているということを目の当たりにした。僕も来年のルーキー・ア・ゴーゴーに向けて一旦東京に戻ることにした。まるで年3日だけ現れる、ふるさとである。また来年も還ってこよう。
今回の<フジロック>出演は、まず昨年のルーキー・ア・ゴーゴーに選出してもらえたこと、そして投票をしてくれた方々、何よりバンドを応援してくれる皆さんのおかげで実現されました。本当にありがとうございます。
そして、写真撮影で同行してくれたマスダレンゾにも感謝を。本文中の写真は全て彼が撮影してくれたものです。記憶力0.2の脳を持つ僕ではフジロックのことを克明に思い出せなかったので、レンゾくんの写真を見ながらそれを中心に文章を書きました。
<フジロック>の天候さながらに人生いろいろですが、いつだって今がサイコー! と心から思えるフェスでした。今後も大きいステージに立てるよう精進してまいりますので、皆様方におかれましても、何卒、応援のほどよろしくお願い致します。
3日目の#俺のタイムテーブル
MONO NO AWARE→苗場プリンスホテル→スロウダイヴ→YUKI→トリプルファイヤー→ビョーク→水曜日のカンパネラ→ヤシの木フラミンゴ→パンツ干す
RELEASE INFORMATION
人生、山おり谷おり
2017.11.02(木)
MONO NO AWARE
LP + ZINE
PLP-6894
¥3,750(+tax)
CD発売中
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詳細はこちら
text by 玉置周啓
photo by マスダレンゾ