2日目
ジャイルス・ピーターソン
とはいえ今年の注目は、何と言っても多数のブラジル人アーティストが出演すること。中でも2日目の「恵比寿ザ・ガーデン・ホール」に登場する「ソンゼイラ・ライブ・バンド」は、ジャイルス・ピーターソンが10代の頃から愛してやまないブラジル音楽の魅力を再解釈したプロジェクト「ソンゼイラ」の世界観を伝える、<モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン 2016>のために特別に編成されたスペシャル・ユニット。映画『ブラジル・バン・バン・バン~ジャイルス・ピーターソンとパーフェクトビートを探しもとめて~』にも登場したリオ拠点のカシンやガブリエル・モウラ、そしてUKからかの地を訪れたロブ・ギャラガー(ガリアーノ、トゥー・バンクス・オブ・フォー他)らが集結し、ブラジル国内外の才能がひとつになって音楽を紡ぐこのプロジェクトならではの貴重なセットを繰り広げる。親日家として知られるジャイルス・ピーターソンだが、ソンゼイラとしての公演は今回が初。そういった意味でも注目のライブと言えるだろう。ボサノヴァやクラブ・ミュージック、ジャズ的要素などありとあらゆるサウンドを飲み込んだ、ブラジル音楽の最新形が楽しめるはずだ。
ジャイルスは同日にDJとしても「恵比寿ザ・ガーデン・ホール」に出演。アシッド・ジャズ・ムーヴメントの立役者のひとりであり、世界屈指の目利きでもある彼のセンスを生かしたジャズ解釈にも期待したい。80年代からあらゆる音楽を横断するプレイで支持を集めてきた須永辰緒も、彼とともにこの日のメイン会場のDJを務める。
Gilles Peterson // Sonzeira // Introduction to Brasil Bam Bam Bam (album trailer)
Sonzeira // Brasil Bam Bam Bam Interactive Album Trailer
他に2日目では、「ベルギーのビリー・ホリデイ or ニーナ・シモン」とも言われる「メラニー・デ・ビアシオ」にも注目を。彼女はジャズ的な音楽をルーツに持ちながら、同時にポーティスヘッドからジェイムス・ブレイクらにも通じる音響的なジャズを展開。ジャズ・アーティストでありながらリミックス・アルバムをリリースするなど、クラブ・ミュージック的な要素も取り入れた活動を展開している。また、イギリス出身のSSW/マルチプレイヤー、ピート・ジョセフは、元アンダーワールドのダレン・エマーソンと組んだザ・ホワイト・ランプでダブステップ以降のベース・ミュージックを代表するレーベルのひとつ、英〈ホットフラッシュ〉から作品をリリースしたり、ドラムンベースのレジェンド、ロニ・サイズやマット・ゾーの作品に参加したりしてきた人物。一方で15年の初ソロ・アルバム『Colour』ではソウル・ミュージックを中心に様々な音楽をブレンドし、オーガニック・ソウルとクラブ・ミュージックとの中間点とも言えるサウンドを生み出している。
Melanie De Biasio – The Flow (HEX RMX) [Live at Montreux Jazz Festival, Tokyo]
Pete Josef – Colour (Album Snippets)
また、この日は最近Seihoのライブ・バンドに参加したことも話題になったKan Sanoや、音楽とのコラボレーションを積極的に行なうタップダンサーの熊谷和徳、ボサノヴァ・ギタリストの伊藤ゴローなどが揃う「Worldwide:Japan Project」のステージにも注目を。加えてドイツのディープ・ハウス新世代オスカー・オファーマンや、Kyoto Jazz Massiveの沖野修也らが多数出演する「代官山UNIT」でのステージも加えれば、ヒップホップやR&B、クラブ・ミュージックといった様々な音楽を取り入れて進化し続ける現代のジャズ・シーンの開かれた雰囲気を感じられるはずだ。
Kan Sano / Improvisation Session feat. Jumpei Kamiya [Live at Motion Blue yokohama]
Shuya Okino (Kyoto Jazz Massive) • DJ Set
3日目
カエターノ・ヴェローゾ
そして3日目には、ジルベルト・ジルやガル・コスタ、オス・ムタンチスらとともに1960年代後半のブラジルの音楽シーンに旋風を巻き起こしたムーヴメント「トロピカリア」を牽引したレジェンド、「カエターノ・ヴェローゾ」の出演も決定! 彼が日本でライブを行なうのは実に11年ぶりで、今回はギターと歌声のみで勝負するソロ・セットを披露する。また、同じくブラジルからはリオが生んだラパ系新世代サンバ・ムーヴメントの女王、テレーザ・クリスチーナも出演。彼女の作品にはカエターノ・ヴェローゾが詩を提供しているため、両者のステージ上での共演もあるかもしれない。
Caetano Veloso – Sozinho
Teresa Cristina – Corra e Olhe o Céu
加えて3日目では、自身のホームである演歌から歌謡曲を軸にしながら、ロックフェスにも出演するなど様々なジャンルとの交流も積極的にこなす八代亜紀が、「八代亜紀&クリヤ・マコト・クインテット」としてスタンダード・ジャズに挑戦。ジャズ・ピアニスト、クリヤ・マコトの演奏に乗せて、独自の解釈をほどこしたジャズ・ヴォーカルを披露する。セルジュ・ゲンスブールの息子ルル・ゲンスブールが、名建築家フィリップ・スタルクの娘、アラ・スタルクを迎えて行なうセットも見逃せない。彼は11年にリリースした父のトリビュート作品『フロム・ゲンスブール・トゥ・ルル』でデビューを果たすと、昨年2月に自身作曲のオリジナル楽曲を集めた2作目『Lady Luck』をリリースしている。
八代亜紀 – ライヴ・イン・ニューヨーク (ダイジェスト)
Lulu Gainsbourg – Lady Luck
14年にはレマン湖で開催される本家でスイスと日本との国交樹立150周年を記念して「Japan Day」が開催され、上原ひろみや布袋寅泰らが出演するなど、日本との繋がりも深い<モントルー・ジャズ・フェスティバル>。その日本版<モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン 2016>にも、ジャンルを超えて大人が楽しめる上質で洗練された音楽や、自由闊達な精神を宿した演奏こそを「ジャズ」と捉えるこのフェスティバルならではの、様々なコラボレーション/ラインナップが揃っている。深夜帯の公演として7日(金)と8日(土)に「代官山UNIT」で行われるエレクトロニック・ミュージック主体のクラブイベント、<モントルー・ジャズ・ラボ>でもその精神を味わう事が出来るだろう。ジャズを基調にしながらも、多種多様なジャンルを飲み込んだ出演アーティストの雰囲気は、ジャズに明るくないリスナーにも刺激的なものとして受け入れられるはずだ。
様々な音楽がシームレスに繋がることで新たな魅力が生まれていく現代の音楽シーンの空気をそのまま閉じ込めるかのように、世界三大ジャズ・フェスティバルのひとつを母体にしたフェスティバルでありながら、洗練された音楽を好むあらゆるリスナーを受け入れる間口の広さを持った<モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン 2016>。その魅力を会場で感じてみてはどうだろうか。
text by 杉山仁
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