その中心にいつもいた男。US新世代フォークいぶし銀、M・ウォード。
今回の主役M・ウォードは、99年のデビュー以降、そのすべての時代を渡り歩きながら存在感を増してきた人物。彼の特徴は半径数メートルの小宇宙とでも言いたくなる、語彙豊富なリリックと卓越したソングライティング。自身名義の楽曲はもちろんのこと、『(500)日のサマー』でインディ・リスナーのミューズとなった女優ズーイー・デシャネルと結成したシー・アンド・ヒムでは、ズーイーが作曲を、彼がアレンジを担当。07年の『アンダー・ザ・ブラックライト』で“現代アメリカのフリートウッド・マック”と称されたライロ・カイリーの元歌姫ジェニー・ルイスらとも歩幅を合わせ、フォークをよりモダンな場所へと連れ出す契機を作っていきました。
She & Him – Stay Awhile
Jenny Lewis And The Watson Twins – Rise Up (With Fists!!)
09年には、マイ・モーニング・ジャケットのジム・ジェームスやコナー・オバースト、マイク・モギスとのスーパーユニット、モンスターズ・オブ・フォークを始動。ここではジム、コナー、M・ウォードが持ち寄った楽曲をアレンジし、US新世代フォーク勢のキーパーソンによる化学反応を真空パック。決して派出ではないけれども、関わるアーティストとのケミストリーを何よりも大切にする彼らしい方法論で、人脈的にも音楽的にも、00年代~10年代のアメリカの重要なキーパーソンとしての評価を確固たるものに。最近のインタビューでは、シー・アンド・ヒムやモンスターズ・オブ・フォークの次作の可能性も匂わせているだけに、彼の多彩な活動はまだまだ続きそう。
Monsters of Folk – The Right Place
「雨」がテーマの最新作『モア・レイン』が完成!
そしてリリースされた今回の最新作『モア・レイン』では、毎朝新聞をめくるたびに目にする悲劇的なニュースの数々を「雨」になぞらえ、音楽的にはゴスペルやドゥーワップを影響源に。加えてピーター・バック(元R.E.M.)、ニーコ・ケース、k.d.ラング、シークレット・シスターズ、ジョーイ・スパンピナート(NRBQ)といった錚々たる面々を迎えて、モダンと古典の中間を行くような作風にその魅力を閉じ込めることに成功しています。
R.E.M. – Losing My Religion
Neko Case – Man
k.d. lang – Constant Craving
作品は雨の音で始まるタイトル曲“More Rain”で幕を開けると、続く“Pirate Dial”では早速ドゥーワップやゴスペル由来のコーラスを全開に。また、4曲目“Confession”ではトランペットを筆頭にホーン隊が躍動。“I’m Listening (Child’s Theme)”ではストリングスを導入し、以降もあくまで冗長にならないコンパクトなポップ・ソングの形式を取って、最後まで一気に聴かせてくれます。その雰囲気は、前述のテーマとは裏腹に、あくまで軽快かつポジティヴ。それだけに、ウィットやユーモアを大切にする彼らしさは感じつつも、今回のテーマ「雨」とは、一体どう繋がるのだろう……? そう思った人も多いはず。ここではドリー・パートンの、こんな名言を引用してみましょう。
《The way I see it, if you want the rainbow, you gotta put up with the rain》
(もしも虹がほしいのなら、雨を我慢しないとね)
M・ウォードが本作で表現したかったのも恐らく、「いいことも悪いこともすべて繋がっている」「それが世の中/人生だ」ということ。全編にはまるで雨上がりの小道をスキップしているかのような、珠玉のポップ・チューンがずらり。キャリアを経てたどり着いた、M・ウォード流のウィットに富んだポジティヴネスをお試しあれ。
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