ポストEDM世代の中でも唯一無二。SF映画を思わせる壮大なサウンドスケープ。

彼らの音楽の最大の特徴は、多くの楽曲が長編SF映画を連想させる壮大なサウンドスケープを持っていること。アルバムの1曲目には毎回作品の雰囲気を決定づけるイントロ的な意味合いを持つ楽曲が配置され、全編を通してひとつの世界観が大切に描かれる。

また、サウンド面ではエレクトロに留まらない幅広い影響を咀嚼。この辺りは、彼らとともに10年代以降人気を集めつつある様々なDTM系アーティストの楽曲と比べると分かりやすい。

Porter Robinson & Madeon – Shelter

Louis The Child – Love Is Alive feat. Elohim

Snakehips – All My Friends feat. Tinashe & Chance the Rapper (Wave Racer Remix)

たとえば、デュオとして2組でツアーを回ったポーター・ロビンソンやマデオンの音楽はダフト・パンクを筆頭にした00年代エレクトロの系譜。一方でシカゴを拠点に活動するルイス・ザ・チャイルドや、豪シドニーのフルーム、同じくシドニー出身でフューチャーベースの始祖として知られるウェーヴ・レーサー、イギリスでチャートを席巻するスネークヒップスなどは、それぞれヒップホップやR&Bなどからの影響が色濃い。

それに対して、オデッザの音楽は米〈Cascine〉のジェンセン・スポータグやユミ・ゾウマといった、チルウェイヴからドリーム・ポップ以降の流れを汲むインディ・ダンス勢に近く、『Summer’s Gone』のサンプルネタにインディ・ロック系の楽曲が多く並んでいたり、『In Return』にシャイ・ガールズのようなインディ・アクトを招いていたりすることからも、そうした独自性が伝わるはず。

オデッサは冒頭のカルヴィン・ハリスや<ULTRA JAPAN>の変化にも通じる、クラブ・ミュージックだけにとどまらない多様性を、キャリアの初期から持っていた。

Yumi Zouma – Persephone

Jensen Sportag – Mapquest

何しろ、2人の地元シアトルは、街の小規模レーベル/レコード店が点在するインディ・ロックのメッカのひとつ。最新作『A Moment Apart』も、前作『In Return』を引っ提げて向かった世界各地でのツアー/パーティーに出演後、その日々から逃れるように地元で制作が開始されている。

彼らは今回、エレクトロニックな音楽性はそのままに、よりポップ・ミュージックとしての間口の広さを加えるため、自身のルーツでもあるインディ・ミュージック的な音楽や荘厳なオーケストラを楽曲に加え、音楽性の幅を広げていった。

最新作『A Moment Apart』は壮大なSF風サウンド・ジャーニー!

ODESZA – A MOMENT APART

そうして完成した最新作『A Moment Apart』は、彼らがこれまで大切にしてきたシネマティックな音が壮大なスケールで花開いた、キャリアの決定打とも言える作品になっている。なお、最新の9月20日(水)付け「BILLBOARD 200」では初登場3位を記録している。

1曲目“Intro”ではSF映画『アナザー・プラネット(原題:Another Earth)』の劇中で主人公ローダが語る宇宙飛行士にまつわるエピソードを引用。宇宙船内で異音に気づいた飛行士が、不安を克服するためそれを「いい音色」だと捉えた瞬間、船内に美しい音楽が流れはじめる――。いわば人間の想像力を全肯定するフレーズで全16曲の幕を開ける。

カルヴィン・ハリスや<ULTRA JAPAN>の変化にも通ずる。オデッザ ポストEDM世代の中でも唯一無二 odesza-pickup2-700x467

その後はナオミ・ワイルドを迎えた3曲目“Higher Ground”で恋の高揚感を重力から逃れ宙を舞う描写で表現し、浮遊感たっぷりのエレクトロニック・ビートや綺麗に重ねたコーラス/音のレイヤーによって、どこか宇宙や銀河を思わせるサウンドが広がっていく。

ODESZA – Late Night

また、本作のもうひとつのポイントは、前作『In Return』ではデータのやりとりで進められたヴォーカリストとの作業が、多くの場合実際にスタジオに集まって行なわれたこと。そのため、彼らのソングライター的な側面がより押し出され、大々的に導入したストリングスの音色と相まって、楽曲そのもののよさを引き出すような雰囲気が生まれている。

新作に際してのインタビューによると、こうした変化にはやはり、彼らが地元シアトルのインディ・ミュージック=自らのルーツに改めて向き合ったことが影響を与えているそうだ。インディ・シーンの歌姫として知られるレジーナ・スペクターを迎え、彼女がシアトルに来た際にホテルの一室でボーカルを録音した“Just A Memory”はその象徴だろう。

カルヴィン・ハリスや<ULTRA JAPAN>の変化にも通ずる。オデッザ ポストEDM世代の中でも唯一無二 odesza-pickup3-700x467

また、リオン・ブリッジズを迎えた“Across The Room”ではオーガニックなソウルにも接近。同時に世界ツアーを回った経験も反映させ、“Everything At Your Feet”ではスパニッシュな雰囲気を楽曲に追加。より幅広い音楽を取り込みながら、全編を通してひとつの像を結んでいる。

この『A Moment Apart』は、サンプリング主体の音楽性だった初期を経て徐々に生音や外部とのコラボレーションを作品に導入してきた彼らが、いよいよポップ・ミュージックとしての巨大なスケール感を手に入れためくるめくSF風サウンド・ジャーニー。作品全体のコンセプトが強固になったことで、楽曲ごとに想像力を刺激するような雰囲気も増している。ひとたび再生ボタンを押せば、1曲目“Intro”からRY Xを迎えたラストの“Corners of the Earth”まで、イマジネーションを全開にした音がいっぱいに広がっている。

カルヴィン・ハリスや<ULTRA JAPAN>の変化にも通ずる。オデッザ ポストEDM世代の中でも唯一無二 odesza-pickup1-700x467

RELEASE INFORMATION

A Moment Apart

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2017.9.8(金)
Odesza
BRC-559
¥2,200(+tax)
COUNTER RECORDS/Beat Records
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text by 杉山仁