ORCHESTRION – “An Excerpt from The Orchestrion Project”
ちなみにこのオーケストリオンは、様々なテクノロジーを駆使し、メセニーのギターや、足元のフットペダルにより、リアルタイムでの操作も可能になっている。メセニーは、この装置をコントロ-ルしながら、それに合わせて自身でギターを奏でる。いつも通りのテクニックを見せつけながらも、オーケストリオンを操作しながら、いつになくせわしなく演奏するメセニーの姿も見所のひとつ。
このWOWOWの番組で放送されるスタジオライブをフルバージョンで見ていると、最初は視覚でオーケストリオンの面白さに惹き込まれ、次々に映る楽器たちに目を奪われるが、装置とは思えない完成度の高い演奏が次第にオーケストリオンの存在を忘れさせてしまう。廃屋のようなスタジオで、演奏者のいない楽器の山と、その中で黙々とギターを弾くメセニーが、淡いライトで照らされるどこか現実感の無いファンタジックな映像もあいまって、ライブを見ていることさえ忘れてさせてしまうような不思議な感覚が魅力だ。MVのような完成された美しい映像作品としても、楽しんでいただきたい。
最後に、パット・メセニーの紹介を少し。メセニーは現在も世界最高峰のプレイヤーが所属するパット・メセニー・ユニティ・グループを率いて活動しており、ジャズギターのトップランナーであり続ける巨匠なのだが、そのキャリアはかなり特殊だったりもする。
もともとジャズとフォークやカントリーの要素を融合させたサウンドで、高い評価を得ていたり、その後もブラジル音楽を大胆に取り入れたりと音楽性はジャズの中ではかなり異端。80年代の初頭にはギターシンセサイザーを導入し、賛否を巻き起こし、90年代には突如、ノイズアルバムをリリースし、ファンを困惑させたりと、その動向が、常にジャズシーンを驚かせてきた。
Pat Metheny –“Zero Tolerance for Silence(Pt. 1)”
一方で、ジャズの外からの再評価が幾度と無く起こっていることでも知られる。例えば、このコズミックな“As Falls Wichita,So Falls Wichita Falls”はテクノやハウスの世界でのクラシックス。クラブで聴いたことのある方も多いのでは?
Pat Metheny and Lyle – “As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls”
また“Slip Away”はニック・ホルダーのブラジリアンハウスの大ヒット曲“Summer Daze”のサンプリングネタとしても御馴染みの超爽やかな名曲だったり。
Pat Metheny Group – “Slip Away”
と、ジャズの枠とか完全無視なメセニーには、奔放にジャンルを横断する音楽性の例はいくらでもある。オーケストリオンはそんなメセニーが2010年代に始めた壮大な遊びの一つと言えるのかもしれない。是非、映像で、このプロジェクトの不思議なプロジェクトを見て確認してもらいたい。
(text by Mitsutaka Nagira)
Program Information
オフビート&JAZZ パット・メセニー オーケストリオン・プロジェクト
2014.05.20(火)21:00
放送チャンネル:WOWOWライブ