2月19日に世界同時でリリースされた新作『ニード・ユア・ライト』からのファースト・シングル、“Water”を最初に耳にした時、ラ・ラ・ライオット(Ra Ra Riot)というバンドに抱いていた「いかにもニューヨークらしいチェンバー・ポップを奏でるバンド」というイメージが完全に覆された。現行シーンの中でも稀有な才能を持つウェスリー・マイルズ(以下、ウェス)の伸びやかなヴォーカルとトライバルなリズムがメインに据えられた楽曲のスケールは、今までの彼らになかった魅力だ。

Ra Ra Riot – Water

2011年に<フジロック>に出演した際のステージはレッド・マーキーだったが、今はホワイト・ステージかグリーン・ステージが似合うはず。更に、「あれ、『モダン・ヴァンパイア・イン・ザ・シティ』の始まりっぽいよね?」と思ったあなた。正解です。これは、元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタム・バドマングリとの共作(ロスタムは他にも数曲に参加)。だが、更に驚くべきは2曲目“Absolutely”。これ、久しぶりに耳にしたパワー・ポップの傑作だと思う。少し古い引用で申し訳ないけれど、いわばサード・アイ・ブラインド“Semi-Charmed Life”の東海岸バージョン。これだけで、今作における彼らが「ヴァンパイア・ウィークエンドが好きなら聴くべきバンド」という枠には収まらないことは明白だと思う。

Ra Ra Riot – Absolutely

ここで、彼らの歴史をざっと振り返ってみる。2006年、ニューヨークのシラキュース大学で一緒だったメンバーは卒業間近にバンドを結成。ヴァイオリン担当のレベッカの家で行われたパーティーが彼らにとっての初舞台だった。それからたった半年でメディアの注目の的となり、バウ・ワウ・ワウなど有名バンドの前座を務めるようになったというから、正にトントン拍子。2008年にはデビュー盤の『ザ・ラム・ライン』をドロップ。日本ではアジカンのゴッチが個人的にファンだったことから、2010年に同アルバムの日本盤がリリースになったタイミングで自らのイベント<NANO-MUGEN CIRCUIT>に呼んでいる。また、同年はフレンドリー・ファイアーズやケイジャン・ダンス・パーティ、フォールズなどがアルバム・デビューを果たした奇跡的な新人豊作の年。当時、彼らはその中で特別大きなインパクトを放っていたわけではないが、今でも安定したリリースペースを守り続けていることを考えると、むしろハイプとして消費されなかったことを幸運に思うべきかもしれない。その後リリースされたセカンド『ジ・オーチャード』は全米チャート36位に輝き、バンドは商業面でも評価を受け始める。サード『ベータ・ラブ』ではオーケストラルな要素を後退させて、4つ打ちを前面に打ち出したフロア仕様のサウンドに大胆な方向転換。ただ、このあたりが彼らにとっての過渡期だった。焼き直しを嫌って新しいことに挑戦した野心は評価すべきだが、楽曲の出来に関して会心の一撃とは言いがたく、アッパーなシンセサイザーやダンスビートは意外性よりもチグハグさを印象づける結果に。しかし、この作品を作った本当の意味はこの新作で表れる。

アジカン・ゴッチも魅了!ラ・ラ・ライオットの歴史を紐解く music160222_raraiot_2

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