──生楽器の温もりが詰まったサウンドからは、音作りと機材選びに妥協しないスタンスを感じました。

三船 機材を工夫することやスタジオワークが好きなんです。今回はバイオリンの弓でノコギリを弾いたり、古いメーカーのプレートリバーブっていう鉄板に音を流し込んで自然のリバーブを作ったり。生楽器だから出来ること、デジタルではないものとかに興味がありますね。

中原 プレートリバーブだったり、ドラムのサウンドをテープマシーンに通してみたり、そこから得られる音はすごく面白いなと思いますね。まだまだ知らないことだらけです。

三船 録音は生ものというか。その瞬間をフィーリングの余白として取っておきたいと思うから、せーので録ったときの即興感を大事にしたいんです。独特の生々しさは出ているのかもしれませんね。

──2人とも研究熱心なんですね。

三船 いや、勉強家というよりはフィーリングがはまるかどうかという基準で、機材を選んでレコーディングをしているんだと思います。

中原 古いからいいものということではないですし、それが万人にとっていいものかというより、決していい音ではないけれども、僕らにとって大事な音なのかという視点が重要なんです。この曲は立派なグランドピアノの音がいいなと考えることもあれば、学芸会で使うようなピアノの方がいいなと考えることもあります。

──なるほど。ちなみにアルバムの録音をフィラデルフィアのスタジオで行っていますが、ブライアン・マクティアが数曲のプロデュースと録音を、冒頭に出たナショナルを手がけるジョナサン・ロウがミックスを担当していますよね。

中原 はい。僕らからオファーしてやってもらいました。時差を考えて夜にメールしたんですけれど、その日のうちに連絡が返ってきて。

三船 日本以外で録音しようと思ったきっかけは、単純に僕が外国に行ってみたかったからで。前から暖めていたスタジオのリストが20個ぐらいあって、それを投げたらみんなで盛り上がったんですよね。最終的に絞った中からいろいろ連絡を取り合って、単純にファンであるエンジニアにお願いしたら、向こうもすごく乗り気になってくれて。1年ぐらいコンタクトを取り続けて、やっと実現したという感じですね。

中原 結構大変だったね。

The National – “Bloodbuzz Ohio (Live Directors Cut)”

──フィラデルフィアにはどれくらい滞在したんですか。

三船 1ヶ月ぐらいですね。

中原 途中でライブをやったりしました。

三船 カリフォルニアの方にもスタジオの候補があったんですけど、山奥なんですよ。山小屋もいいなと思ったけれども、ストイックすぎるのかもしれないのと、もうちょっと人と出会いたいなと思って(笑)。

中原 色んな人に会って、街に触れたかったんですよね。

──音楽的な意味で、海外で録ろうと思った理由としては何が大きいですか。

三船 自分がやりたい音像を作れる人がたまたま海外にいたというか。日本にそういう人がいれば会えばいいですし、テレビのPVとかに出て来る日本のスタジオも、たしかに良く録れるんですよ。でも、僕らには空気が良くないというか。あまり長くいると、楽しくなくなってしまって。

──たしかに、人によっては閉塞感があるかもしれない。

三船 音に関しては良い環境なんだけれど、人が生活するところじゃないというか。レコーディングではそういう空気も記録されると思いますし、今回のアルバムにはそういったものは入っていないですね。

中原 僕らのアルバムは、分かる人が聴いたら「音、良くないじゃん」って思うのかもしれないけれど、そこには自分たちの趣向が反映されていますから。

──フィラデルフィアのレコーディングスタジオはどんな環境でしたか。

中原 普通の住宅地の中にあって、もちろん家と家の間は離れているんですけど、外から音が聴こえるんですよ(笑)。でも、音漏れしていても、まったくそれを気にせず、レコーディングに集中できる環境でした。

三船 国内の既存の場所でも、納得のいくレコーディングをするためのアイデアはあると思うんですけれど、これからもそうやって自分たちに合う場所と方法にはこだわっていけたらいいなと思います。それこそ、スタジオに行っているばかりじゃなくて、ゆくゆくは自前のスタジオを作りたいなと考えていて。逆に、僕らにコンタクトを取ると、日本でレコーディング出来るらしいぞとか、海外のミュージシャンが噂を聞きつけてくれて、遊びに来られるような場所が作れたらいいなと思いますね。国外でのレコーディングではあるけれども、日本国内とアメリカを分け隔てがない感じで考えたいかなと。

中原 僕らはそこに対してのハードルを設けてないんです。ステップアップがあまりない感覚ではあるけれども、いかにも「海外でレコーディングしました、ライブしました、全米デビューしました」という打ち出しは違うと思っていて。

──そういった海外のブランドイメージではなくて、行った場所が自分たちの知らない場所だったという未体験の意味がいいですよね。

三船 そうですね。日本にも行ったことのない場所はたくさんあるし、たまたま今回は運良くアメリカに行けたけれども、バンドを通してこれから僕たちはどこに行けるのだろうと考えると、イギリス、チベット、アフガニスタンかもしれない。バンドを通して行きたい場所は沢山あります。

──ROTH BART BARONの1stアルバムは最近の移動中によく聴いています。生活との距離が近い音楽というか、風景の変化にすごく合うんです。それはレコーディングスタジオの話と近いものがあると思っていて、日常と音楽が地続きに存在している感じがすごくいいなと。

三船 音楽をやるということは非日常で特別なことだとは思いますけど、特別なことを特別にしないというか。音楽は難しく考えることではないし、すっとできるといいなと思っていて。僕らは日常をテーマに台所がどうこうという曲は歌わないけれど、聴いてくれた人がちょっと自分のパーソナルな音楽として、ちょっとそばに置きやすいサウンドトラックになるとか、そういう身近な存在になれると嬉しいですね。

text & interview by Shota Kato[CONTRAST]

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Event Information

【ライブ】
2014.04.18(金)@大阪 シャングリラ
2014.04.20(日)@東京 月見ル君想フ

【ROTH BART BARON’S “The Ice Age” TOUR 2014】
2014.05.17(土)@北海道 SOUND CRUE
2014.05.18(日)@北海道 SOUND CRUE
2014.05.20(火)@宮城retro BackPage
2014.05.29(木)@大阪CONPASS
2014.05.31(土)@愛知KD ハポン
2014.06.01(日)@京都nano
2014.06.07(土)@東京 TSUTAYA O-nest

Release Information

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