末にさしかかり、各音楽メディアもそろそろ年間ベストを発表するというタイミングですね。昨年、数多くの主要メディアが若きカリスマ・ラッパー、ケンドリック・ラマーを上位に挙げていたのも記憶に新しいかと思います。ここ日本においても、エミネム以降、高校生ラップ選手権だなんだと、ヒップホップもようやく浸透しつつあるなという兆しがあります(チェケラッチョとかもう言わないでおくれ)。今年もラン・ザ・ジュエルズ、ダニー・ブラウンをはじめとするいくつかの重要作があり、多くの年間ベスト・チャートでヒップホップ勢が賑わすことでしょう。まずは前述のケンドリックが昨年、何故ヒップホップ・リスナーのみならず、多くの音楽ファンを魅了したのか? ラップは苦手という方も、まずはそこから話を始めてみましょう。

ケンドリック・ラマーが音楽ファンを魅了した理由・・・
シーン内外を巻き込むトップ・アーティストの台頭

さて、一体彼の何がリスナーを惹きつけたのか? ひとつは、ラップの醍醐味と言っていい言葉巧みなストーリーテリング。ここの面白さがなかなか対訳と辞書ナシでは日本人には理解が難しいですよね。そして重要なのが、スムースで緩急のあるフロウがもつ音楽的響きと、ベッドルーム・ポップやチルウェイヴといったインディー・ロックの旬な音をトラックに落とし込んだという部分。この音楽性の部分で従来のヒップホップ・リスナーのみならず、ロック・ファンをはじめとする広い音楽ファンを取り込む事に成功したのではないかと考えます。この点に関して、ドレイク、エイサップ・ロッキーといった人気ラッパーたちにも同様の事が言えます。また、今年も問題作『イーザス』で話題をよんだカニエ・ウエストは既にヒップホップ・シーンの括りからは飛び抜けてしまった感があるものの、従来のヒップホップ・サウンドの枠組みから外れ、(例えば、ボン・イヴェールやダフト・パンクを起用するといった)折衷的サウンドで音楽的にも、アート的にも成功した先駆者としてとることが出来るのではないでしょうか。

Kendrick Lamar – Swimming Pools (Drank)

Drake – Take Care ft. Rihanna

群雄割拠のUSヒップホップ・シーン・・・
シーンを制したラッパーに学ぶ、成功者の条件

インターネット上でフリーダウンロードできる「ミックステープ」という形で作品を発表するアーティストが加速度的に増えた事から、移り変わりがよりめまぐるしくなった昨今のヒップホップ・シーン。この競争から頭一つ抜け出るためには、新しさを備えた存在としてフレッシュであること。そしてそれは、(何もヒップホップに限った話ではないが)音楽的な実験性を以て、シーン内外に訴求力を持つ事こそが、成功者の条件であるのは間違いないでしょう。今年、若干20歳の若手ラッパー、チャンス・ザ・ラッパーがミックステープ『アシッド・ラップ』で一躍トップ・アーティストに上り詰めたのも、その条件を兼ね揃えていたからです。しかし、いずれもフレッシュというにはキャリアを充分持ったベテラン・ラッパーであるエル・P、キラー・マイク擁するラン・ザ・ジュエルズ、そして彼ら程ではないにせよ、10年近くアンダーグラウンドで活動を続けるダニー・ブラウンがここへきて高い評価と人気を博しているのです。一体ナゼ!? それでは、彼らの魅力をお伝えしましょう・・・!

Chance The Rapper – Juice (Official Video)

Run the Jewels – 36″ Chain

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