——今回レコーディングをする段階で映画制作も考えていたのですか? どのような背景で映像として納めるに至ったかを教えてください!
最初は10分程度のEPK(映像の資料)を作るだけだったんですよ。昨今、音楽でも本でも、作品を知ってもらう為には、映像素材は重要な宣伝要素の1つ。YouTubeなどの普及によって、作品を事前に映像でチェックしたいという人が増えてきていますからね。ですから、監督のチャーリーとベンがカメラを回し始めた当初は、ソンゼイラを知ってもらうための短い映像作品を作ることが目的でした。しかし彼らはとても熱心で、全てを撮影したのです。伝説的シンガー、エルザ・ソアレスが「ブラジルの水彩画」を涙しながら歌った時も、カメラを回し続けました。あのシーンは、作品の中でも際立っていますよね。しかも、彼らは常に2台のカメラを回していたので、ある日、チャーリーが私の所にやって来て「ジャイルス、僕たち今手元にある映像で、1時間位の映画は作れますよ!」と言ってくれたんです。すると映画祭から声がかかり、その為に、更に映像を収録したりと、本作は、こんな感じで自然な流れで誕生した映画なんです。正直言って、自分の姿を観るのはそんなに好きじゃないけど、きっと20年後は、このプロジェクトを手がけて良かった! と思わせてくれるでしょう。
エルザ・ソアレス/ジャイルス・ピーターソン
——ブラジルのミュージシャンの方たちがサンバについて話す際に「サンバは私たちの血だ」という発言もありましたが、実際に今回の滞在時にジャイルスは“サンバ”の魅力をどう感じましたか?
サンバというのは、私にとって人生であり、生命なのです。そして人々の悲しみを写し出す、哀愁と喜びの融合です。私は、ただ明るいだけの音楽よりも、エモーショナルな音楽に惹かれます。サンバこそ「闇と光」を感じる音楽だと思います。リオデジャネイロは、伝統が根付く街で、アントニオ・カルロス・ジョビンを愛す、ボサノヴァとサンバの街です。ローマやパリに行くような感じともいえるでしょう。もし、新しいエレクトロニックな作品やプログレッシヴなロックや即興的な音を楽しみたいならば、サンパウロをオススメします。でも、リオとサンパウロはそんなに遠くないから、どちらも楽しんで欲しいな!
——映画ではソンゼイラのプロジェクトを元にブラジルの音楽文化や現在のスラム街の様子など70分の尺に多くのトピックが凝縮されています。その中でもQetic読者にオススメの見どころを教えてください!
サンバチームは、カーニバルシーズンだけでなく、チャンピオンシップに向けて、頻繁に練習を行なっています。私にとって、最高峰のサンバチームと名高い「マンゲイラ」の練習を見に行ったのは、非常に印象深い体験です。まるでクラブに行くみたいな感覚で、DJが人々を踊らせるかわりに、サンバチームでは、ドラマーが皆を踊らせているんです! あの空間では、全てに対して皆さんとても寛大ですし、彼らは多くの人に自分達のチームの事を知ってもらいたいと思っていますから、訪問したならばとても歓迎されますよ。リオでは、サッカーのクラブチームを応援するように、皆さんサンバチームを応援しています。踊って、お酒を呑んで、最高に楽しい時間なんです! 素晴らしいバイブレーションを感じる事ができますから、是非、サンバチームの練習を観に行って欲しいです。
——この映画を観たことで人々がどのようなアクションを起こしてほしいと思いますか?
ブラジルの皆さん、そしてブラジルを愛する方々が、ブラジルを誇りに思う、そんな作品になればいいですね。これまでに数々のブラジルのドキュメンタリーを見てきましたが、音楽にフォーカスしたものがたくさんありました。ですので、本作では、外国人である私が、どんな風に音楽の街リオ・デ・ジャネイロを体験し、何を感じたのかをしっかり表現したいと思いました。私がブラジル音楽にはまったきっかけは、ジョージ・デュークのアルバム『ブラジリアン・ラブ・アフェア』(79年)です。ジョージ・デュークが私とブラジルを繋げてくれたのです。同じように、『ブラジル・バン・バン・バン』を聴いたり、この映画を観た人が、ブラジルと繋がり、そこからブラジルへの旅が始まれば嬉しいですね。つまり私は、「出入り口」的存在……または、仲人みたいな感じでしょうか。「ご紹介しましょう。こちら、ナナ・ヴァスコンチェロスさんです。ナナさん、こちらが……」みたいな感じでね(笑)。私にとって人と人、音楽と人を繋ぐことが全てですから。
取材・翻訳:木村真理(シャ・ラ・ラ・カンパニー)
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