ロンドンに拠点を移して2年半が経過したThe fin.。この取材時は2ndアルバム『There』を携えてのアジアツアーの途中で、一時帰国していたタイミング。海外のバンドが一つのアルバムを2、3年かけてワールドツアーで世界のリスナーに届けるようなロングスパンの活動を実現しつつある。それは自分たちの音楽が世界のどこか知らない場所で好きになってくれるリスナーと出会う旅でもあり、音楽という無限に届く性質の表現が持つロマンを実感することでもある。それはもちろん、The fin.の音楽にそうした性質があるからだろう。

The fin. – Shedding

今回は、The fin.とは新しいアーティスト写真はもちろん、2016年リリースの『Through The Deep』時の印象深い湖でのアーティスト写真も撮影した写真家の小林光大との鼎談を企画。The fin.以外にも同世代のバンドたちーーYogee New WavesやPAELLASらを撮影。ファッション・シューティングなど雑誌、広告でも活躍する彼の表現とバンドの表現が出会った時、立ち上る洗練とストイシズムがないまぜになったアトモスフィアの源泉は一体なんなのか。出会いの経緯や作品づくりについて訊く。

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Interview:The fin.×小林光大

——もともと小林さんとThe fin.が出会ったきっかけというと?

Yuto Uchino(以下、Yuto) 下北沢THREEのライブに来てくれて。で、紹介してもらって喋ったよね。

小林光大(以下、小林) もともとファンだったんですよ。最近はバンドから声をかけてもらうことが多いんですけど、The fin.は自分から撮りたいって言ったミュージシャンですね。〈Ano(t)racks〉(ネットレーベル)のコンピレーションなんですが、2012年とかの時に聴いて。本人たちはそんな意識してないと思うんですけど、僕は東京にいて「関西すげえ」ってなってたんですよ。HomecomingsとかPAELLASとかHotel Mexico、HAPPYとか。その流れで「The fin.かっこいい」と思って。で、そのレーベルコンピのジャケット写真を僕が撮っていて。The fin.が第3弾のコンピレーションに入ってたんですが、その時だけLUCKY TAPESの(高橋)海くんがアートワークを担当してたんです。

——The fin.は小林さんから熱心にアプローチがあったことはどう思ってました?

Yuto いろんな人がアプローチしてくれたんですけど、その中でも光大くんはスタイルが見えやすかったというか。最初にホームページを教えてもらって、それでもう作品を見て好きやったから、「いつか写真撮ってもらいたいな」みたいな感じで割とすぐ仕事も一緒にするようになって。

——最近、音楽寄りのフォトグラファーでもミュージシャンばかり撮るわけじゃないし、バンドも音楽誌にばかり載るわけじゃないし。それって似たスタンスなのかなと思うんです。

Yuto ちょっと上の世代の人は意識してるのかもしれないけど、自分らの世代はあんま気にしてる感覚はなくて。でもこだわってないわけじゃなくて、自分たちのスタイルに合えばどんどんやっていくし、合わないものは断るし。でもそこの境界をバチって引いてるわけじゃないみたいな。

——ちなみに写真を撮る人でもカメラマンとフォトグラファーって違うじゃないですか。小林さんは最初はどんな心構えでしたか?

小林 僕は「写真家」とよばれる人たちから影響受けてるんで、自分の作品でやっていきたいですね。それこそ最初の頃、The fin.を撮ってる時って広告制作会社にいて、アシスタントをしてたんですけど、そこは右も左もわからない状態で入って、とにかく技術を学ぼうと。それをきちんと自分の作品として生かせればっていうのがありました。最終的には自分が憧れている表現に近づけていければと思います。

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——どんな作家の影響が大きいんですか?

小林 結構、The fin.のアー写の時もリファレンスみたいなものをたくさん出してて、「こういう写真どう?」とか「こういうトーンで撮りたい」とか。ブルース・デヴィッドソンやジョセフ・スターリングって写真家、あとは……そうだな、割とアメリカの50年代とか60年代撮ってる写真家が多いですね、The fin.に提案を出す時って。

——なるほど。The fin.の皆さんがロンドン拠点になってから、小林さんは訪れたりしたんですか?

小林 いや、行ってないです。すごいなと思って。多分そういう風にイギリスで活動するって、ほんとにインディーで盛り上がってたバンドの中でThe fin.ぐらいだし。それで自分のやりたいことやってるって、ストイックだなと思いますね。周りのバンド見ててもそう思うけど、The fin.は特にストイックで、自分たちの好きな音楽を前から変わらずやってる印象がある。

——仕事する以外の関係性はどんな感じなんですか?

Yuto 写真撮ってるときぐらいしか会わないよね?そこでちゃんと繋がってるみたいな。でもなんか普通にいちクリエーターとして、やっぱり光大くんと写真撮ったら、写真に対するエナジーがすごいから、尊敬するところもすごいあったり。

小林 僕もライブ見にいくし。

——そこでキャッチアップしたいということですか?

小林 私生活で遊ぶとか、ミュージシャンでほんといなくて。ほんと、写真撮ったり、音楽の現場でしか関わらないから。そういう場所でその人たち知ってみたいな。で、そこで話すことが一番多いですね。

——ちなみに今、The fin.は『There』が出てアジアツアーの最中で、結構な規模ですよね。中国は街によって違いそうだし。

Yuto 中国はほんと街によって音楽シーンも違うみたいで。あとやっぱり、職種も違ったりとか。ほんとに全然違う国、割とアメリカみたいに州ごとに違うみたいな感じで。すごい面白かったですね。毎日変わっていくんで。

——アジアツアーは日本も含まれてるけど、中国から始まってるのも面白いですね。

Yuto そうですね。だんだん変わって行ってる、アジアの音楽シーンの比重が変わって行ってるんかなっていうのが今回のツアーで感じましたね。音楽業界の大きさというか、全然違うなというのは感じてきてますね。The fin.のお客さんは洋楽聴いてる人が多そうで、洋楽の一個として普通に聴いてくれてる感じはありましたね。

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——中国ってまだSpotifyはないですよね?

Yuto でも中国の似たサービスがあって、それはもうものすごい今、人気で。みんなそういうストリーミングサービスで聴いてて。海外のカルチャーに対する興味がすごいあるんですよね、中国の人は。手を伸ばしてる感覚が日本とは違くて。だから情報もたくさん持ってるし、いろんな音楽知ってるし。これからアジアからバンドがいっぱい出てくるん違うかな?って思える。

——で、フルアルバムがまだ2作目だというのも驚きで。

Yuto 色々大変やったね。やっぱ海外と足並み揃えるっていう意味で、海外で広めて行くとなると、アルバムを出してもすぐに流れて行っちゃうんですよ。だから1曲づつストリーミングサービスでリリースして行って、ちゃんとプロモーションしながら、アルバムにつなげて行ったっていう。それが結構長いことかかったよね?3年ぐらい。でもそのおかげでね、今、中国とかアジアにも響いて、あとSpotifyはアメリカとかイギリスのプレイリストにも今入るようになってきてるんで、よかったよね、時間かけて。

——さすがにフルアルバムなだけあっていろんなタイプの楽曲があって。ソリッドな曲もあるし。それはやはりアルバムならではの幅なんでしょうか。

Yuto あんまりアルバムだからというより、自分の幅が広がったなっていうのが一番あって。最初出てきた時はどっちかというと、細い道にぎゅっと行ってる感じやったんですけど、今はいろんな国に行ったり、いろんな人と話したり、いろんな環境に住んだり、自分の人間としての幅がぐっと広がったんで、表現したいことの幅がそれだけ広がったんで、まぁ棚も増えれば中身も増えたみたいな感じで、いろんなところから引っ張ってきて、音にして行ったらこうなったみたいな感じですね。

——ところで、バンドをやっているからロンドンで生活していられるのか?この3人だからいられるのか、どっちなんでしょう?

Ryosuke Odagaki バンドってものを通して、各々が成長というか自分を見つめることが僕らは多いと思うんですけど、そのバンドってものがあって、イギリスに住むってことがみんなにとっての挑戦だったし、それが多分、個人個人にもちゃんと還元されてるし、バンドにも還元されてるから生きていけるんじゃないですかね。

小林 3人は小学校からだっけ?

Yuto うん、3人一緒になったのは小学校からやから、俺の感覚からしたら、もう兄弟。

小林 だよね。こないだバンで神戸まで行ったんですけど、すごい仲良くて、他のバンドとグルーヴが全然違うから、やっぱり見てて不思議な感じはします。

Yuto 一番最初に組んだバンドがこの3人なんですよ。ある種、3人になってこのバランスが戻ってきたみたいな感覚はあったよね?

——大人になってからも『スタンド・バイ・ミー』みたいな関係性や雰囲気を感じるというか。。

Yuto ああ、確かに。ずっと『スタンド・バイ・ミー』みたいな感じあるよな?

Ryosuke 『スタンド・バイ・ミー』やったらどいつ?みたいな話したことあるよな。

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——もちろん一生『スタンド・バイ・ミー』な状態でいられないとしても。

Yuto なんなら俺たちの子供が『スタンド・バイ・ミー』になってほしいみたいな感覚あるよな。

小林 ああ、それはロマンチックだな。

Yuto ずっと友達やから、割と最初、プロになった時にね、そこが難しくて。ほんと、ロンドン行ったことによって友達でいながらもプロフェッショナルとしてしっかりお互いぶつかれるみたいなところが生まれてきて。今までそれが中途半端やったというか、プロフェッショナルになろうとしたら友達じゃなくなるし、友達でいようとしたらプロフェッショナルじゃなくなるみたいなことが多かったんですけど、今はね、それがすごい両立できてて。

——環境によって自分自身が自立したからですか?

Yuto そうですね。やっぱ自分が自立してるとそれができるんかなと。

——話を戻すんですけど、「この人の表現に惹かれる」っていうものは音楽でも写真でも共振してると思うんです。例えば小林さんとThe fin.がタッグを組むことで、より世の中に対してイメージを正確に伝えられるようなところはありますか?

Yuto うーん、多分、表現って生活とか、その人の人生から生まれてくるもので、やっぱり一個視点が加わると、よりワイドになって行くんで、より届きやすいところは増えていくかなというところと、あとやっぱり違う要素が入っていくっていうのが面白い。特にThe fin.って俺が全部作ってるんで、割とピュアな感じでやってて。でもライブで二人が入ってくると面白くなるし。あと、作品とか映像とか写真とかそういうので人の視点っていうのが入るとすごく面白くなるなぁって。

——視覚要素って音楽に対してはどういう存在なんでしょうね?

小林 自分の原体験ってやっぱり音楽がとても大きくて。レコードのジャケット、それこそスミスとか、映画のワンシーン切り取ったああいうシングルのジャケット、写真を使ったジャケットとかすごく好きだし、それを眺めながら音楽聴くのがすごい好きで。写真と音楽が混ざった瞬間、それは硬い表現ですけど、文化体験の一個の形だなと思っていて。特に自分は結構田舎に住んでたから、そういうもので思いを馳せていたから、今、そういうのに加担できてるのは嬉しいし、続けていきたいなと思いますけどね。特にThe fin.みたいなやりがいのある音楽っていうのはあまりないから。それはやってて楽しいですね。

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——The fin.の音楽も小林さんの写真もある種の洗練や美しさがあって、それを生み出すために何を駆動させてるのかな?と。作風がストイックじゃないですか。

Yuto うーん、何がそうさせてるか……。

小林 気になるな(笑)。

——世界的な音楽の状況がどうとかではない感じがするんです。

Yuto あ、そうですね。

小林 ピュアだよね。

Yuto 生きてるし、死ぬからじゃないですか?そのうちね。生きてるし、死ぬし。大事な人も死んでいくし。だからこう、人として人と繋がりたいんじゃないですかね。わかってもらえないこととか多いし。とか、やっぱり生きていくと愛を感じる瞬間とかいっぱいあるし。自分にとってそういうのが返せるのが音楽なんですよね、きっと。昔から。

——ほんとにピュアな動機なんですね。

Yuto 16歳ぐらいから自分が音楽作るようになって、父と母が全然会話なかったりとか、色々あったんですけど。そういうのがなんか自分の音楽で繋がって行ったりとか、いろんな体験があって、なんか音楽って人を繋げるんやなって、割とめちゃくちゃちっちゃい時から体験していて。で、自分も一人だった時とかに音楽に繋がってるって感覚で頑張れたし、教えてもらったこともたくさんあるし。いろんなエモーションも教えてもらったし。いろんな国、いろんな人に会ったりとか、出会いと別れを繰り返したりとか。ま、あと歳もとっていくじゃないですか。そしたらやっぱり、例えば身近な人が死んだりとかもあって、それで考えると結局、愛情みたいなのが人を幸せにするんやなと思って。そうなると自分ができることって、そういうのが入った音楽を作ることなのかな?とはすごい思いますね。特に海外とか行くようになってそういう風に思うことが多くなったかな。

——The fin.の音楽から感じる純度の高さは人に伝えたいからなんですね。

Yuto うん。なんか自分の音楽の中で自分に嘘つくことはしないでおこうというのは考え方であって。それがもしかしたら人の心の隙を生むのかもしれない(笑)。すっと入って行く隙というか。

——ジャンルとかスタイルとか、ガワから作らない人って珍しいと思います。

Yuto 昔からあんまり形は受け取ってなかったんで。そこに何があるかっていうのを考えることが多かったんで、だから自分もなんか作るときはそれを考えることが多いですね。何がそこにあるかみたいな。でもそれが今、The fin.が海外で広がって行ってる一番大きい理由かなと思ってて。人間はね、カルチャーが違えど、愛情とかそういうところはグローバルに感じられるから。

——音楽のどういう部分から影響を受けて今音楽をやってるか?ということが小林さんや他のクリエーターと仕事をすることに繋がってるんでしょうね。

Yuto そうでしょうね。でも光大くんのエナジーはすごいなといつも思ってる。

小林 ほんと?僕はもともと撮りたくてしょうがない!って感じだったから、それが多分動機で。あと、15歳の頃に音楽とか本とか映画に影響受けて、それこそラジオで、アジカンの後藤さんだと思うけど、The La’sの“There She Goes”とか流してて、「うわ、すごっ!」ってなったりとか、自分の好きな音楽聴いて、エディ・スリマンが撮った写真とか見て、その頃から音楽は結構強くあったから、そういう自分の感動みたいものをどうやったら返せるんだろう?って考えた時に、自分もそういう流れに入って行くって言うか、それをつないで行くみたいなことができたら、影響を与えてくれたものに対する恩返しになるのかなって風に思っていて。

——確かに。

小林 被写体にミュージシャンが多いのはそういうところも結構あるのかなと思うので。自分の原体験みたいなものが、多分、アークティック・モンキーズとか、それこそリバティーンズとか、当時のかっこいい男の子たちからも影響受けてたし。それに生き方をだいぶ捻じ曲げられたりしてるから(笑)、そういうこと全部含めて、いつか自分の表現で、それこそThe fin.のアー写とかで何かを感じてくれる人がいたら、自分の中で一個の達成なのかなと。もちろん撮ってる時に、頭にあるわけじゃないですけど、結果としてそういう風になると楽しいなと思います。

——Kaoruさん、寡黙ですけど、小林さんの撮影ってどう捉えてますか?

Kaoru Nakazawa ……光太くんの写真は「極限状態」かな。

小林 湖のアー写の時はみんな極限だったと思う。

Yuto わりとナチュラルに極限状態。だから光大くんの写真の時ってリアルな表情してるんやと思う。

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——では最後に近い将来、一緒にやってみたいことはありますか?

Yuto 一個ツアーとか一緒に回って、例えばその写真集作るとかかな。例えば2019年を一冊残したりとかしたら、めっちゃ良いものになりそうやなっていうのはあるかな。

小林 3人がちゃんと生活してるとことかを撮りたいですね。生活とか見てないから。どんな感じでご飯食べてるんだろう?とか、楽器練習してるところとかのショットも見てみたいしね。それはやってみたいですね。

【インタビュー】The fin.と小林光大、自身の表現を発信する理由 music180425_thefin_7-1200x1500

RELEASE INFORMATION

There

2018.03.14(水)
The fin.
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EVENT INFORMATION

The fin.

078 Kobemusic 2018

2018.04.28(土)
神戸メリケンパーク
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Strawberry Music Festival 2018 Beijing

2018.04.30(月)
北京漁陽国際滑雪場
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Strawberry Music Festival 2018 Shanghai

2018.05.01(火)
上海灘運動公社
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VIVA LA ROCK 2018

2018.05.03(木)
さいたまスーパーアリーナ
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There Release Party

2018.06.08(金)
ロンドン Thousand Island
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Playtime Festival 2018

2018.07.06(金)
ウランバートル Gachuurt Village
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The fin.

Photo by Kodai Kobayashi