――“レイルロード・トラック”はジャック・ホワイトのレーベル〈サードマン・レコーズ〉からリリースされました。これはどういった経緯で実現したのしょう?
ある日突然、〈サードマン・レコーズ〉から僕のマネージャーに連絡が入ったんだよ。「君の音楽が気に入ったからレコードを出したい」って。さっきも言ったけど、もともとホワイト・ストライプスは大好きだったし、ジャック・ホワイトは僕が考えうる最高のギター・プレイヤーの一人だから、とにかくビックリした。それで何曲か送ってみたら、「“レイルロード・トラック”をシングルにしよう」って話になったんだ。それでナッシュヴィルに行って、ジャックと会って…。〈サードマン・レコーズ〉は純粋に音楽と、音楽の周りのすべてに対する情熱が注がれてるんだよ。レーベルだけじゃなくて、レコード・ショップもあって、レコードを買って音楽を聴くっていう体験が素晴らしいものになっている。それを目の当たりにできたし、自分も加われたことは本当に光栄だと思ってるんだ。これから音楽をやるなら、そういうことを真摯に考えていくべきだと思うしね。
―― CDに収録可能な時間めいっぱい詰め込むアーティストも多い中、ほとんどの曲が3分未満というのが潔いです。“シー・ラヴズ・ミー”では「時間を無駄にしたくない」とも歌っていますが、これは意識的なもの?
その通り。あの曲では「俺の時間を無駄にしたくない」って言ってるけど、僕は他の人たちの時間だって無駄にしたくないからね! だから僕が曲を作る時には、すぐに核心に入るもの、その曲の本質をできるだけピュアに、ストレートに表現するものにしたい。最高にピュアな形に突き詰めたものにね。それはサウンド・プロダクションの上でもそうだし、曲の構造だってそう。だってさ、1つの曲の中でコーラスを無闇に繰り返す必要なんてないよね? もし、もう一度コーラスを聴きたい人がいるなら、次の曲にいく前にもう一度リピートすればいい。そこにはちゃんと「選択肢」があるんだよ。
――ちなみにその“シー・ラヴズ・ミー”は、やはりビートルズの“シー・ラヴズ・ユー”が元ネタでしょうか?
んー…。直接的にではないけど、関係はあるのかも。あの曲は大好きだからね。別に元ネタじゃないとは思うけど。
―― iPodのCMソングに起用された“Yeah Yeah”はウータン・クランの“Wu-Tang Ain’t Nuthing Ta F Wit”がサンプリングされていますが、ヒップホップのどんな所に惹かれますか?
面白いのは、ヒップホップってすごく世代的な音楽だったりするんだよね。ヒップホップが世に出てきた時はものすごく活気があって、重要な存在だった。新鮮で、カルチャーを揺るがすような音楽だったんだ。当然、僕はその後に生まれたから、後追いで聴き返す世代だったわけだけど、当時のヒップホップにあったエナジーには今でもすごく惹かれるな。
――ライヴ・レパートリーでもあったスクリーミング・ジェイ・ホーキンスのカヴァー“アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー”を、アルバムに収録しようと思ったのはなぜ?
まず、僕はカヴァー曲が入ってるアルバムが好きなんだよね。他の人の曲をまた違う視点から解釈する――。そこに興味がある。だから僕も自分なりに解釈したカヴァーを入れようと思って、2曲やったんだ。“アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー”は本当に美しくて、メランコリックな楽曲だと思う。感傷的で、しかも面白い。相手に魔法なんてかけられないのをわかっていながら、その願いを歌にしてるんだよ。その感情を僕なりのヴォーカルで表現できると思ったんだ。
――あなたはジャンル分けやカテゴライズを無意味なものとし、シンプルに「Willy Moon musicを作るだけだ」とおっしゃっていますね。ウィリー・ムーンにはドレスコード以外のルールやタブーは存在するのでしょうか?
もちろん、常に制約や縛りは存在する。でもそれは、たぶん他の人にはわかりにくいような、僕の中にだけあるモットーのようなものじゃないかな。僕がその音楽を作っていること自体が制約になってる、っていうかさ。はっきり言葉にできるようなルールじゃないんだ。
――おそらくあなたはレコードでもiPodでも好きなように音楽を聴くタイプだと思うのですが『ヒアズ・ウィリー・ムーン』を聴くのにもっとも最高なシチュエーションがあれば教えてください。
それはホントに人それぞれだと思うよ。うん、人によって全然違うんじゃないかな。だから、僕には答えられない。みんなそれぞれ聴きたい場所で、聴きたい時に聴いてほしいから。一旦レコードになってしまったら、それはもう僕のものじゃないからね。リスナーのものなんだ。もし君がこの音楽を聴いて好きになってくれたならば、もう君のものなんだよ。
――自分自身を「独裁者だ」とも語っていましたが、今後コラボレーションしてみたい人物はいますか? 個人的には、ジャネル・モネイやキティー・デイジー&ルイスらとの共演が見てみたいです。
んー、今はほんとに自分のアイデアがありすぎて、とにかくそれを形にしていきたい! って思ってる時期なんだよね。クレイジーなくらい。だから明日はわからないけど、今はどんどん1人でやりたいって気持ちなんだ。まあ、これまでも1人でやってきたのは、どっちかっていうと他の人になかなか理解してもらえないというのが理由で…(苦笑)。僕の音楽って、ものすごく抽象的なところがあるからさ。自分で形にしてはじめて、「こういう曲なんだ」って言えるんだよ。たとえばカニエ・ウェストみたいに、他のアーティストとの関係性を音楽にしていくような部分がないと、コラボレーションはできないかもしれない。もちろん、僕としては可能性には常にオープンでありたいけどね。
――最後に、あなたはツイッターなどのSNSやYouTubeも使いこなしていますし、あくまで「今」を生きるアーティストですよね。「生まれてくる時代を間違えた」と思うことはありますか? そして将来的に、どんなアーティストになりたいと考えていますか。
僕は過去に生まれたかったと思ったことなんてないし、今でも思わない。だから、答えは絶対にノーだね。今ここに生きてることが僕自身を作ってるし、現代のいろんなものから恩恵を受けてるんだよ。むしろ、未来には行きたいかもしれないな。未来はまだ誰にもわからないから。過去にはどこで何が起きたのか、もう知ってる人がいるだろ? 将来なりたいアーティストは……自分にしかない音楽を作り続けていられたら、それでいいよ。それがどんなものであれ、自分自身がエキサイトできる音楽をね!
(interview&text by Kohei Ueno)
★ウィリー・ムーン、<サマーソニック2013>にも出演決定!
来日時の詳しい情報など公式サイトでも随時チェックすべし!!!
Release Information
2013 04.10 on sale! Artist:WILLY MOON(ウィリー・ムーン) Title:WILLY MOON(ウィリー・ムーン) ユニバーサル ミュージック UICI-1114 ¥2,548(tax incl.) Track List |