朝5時起きで録音しに行ったというカモメの鳴き声や波の音、そしてセットの名物でもあるジュートという、運河で行われるボートの先頭に選手が立ち違いを長い棒を使って相手のボートの選手を落とすという競技<Joust>の際に演奏される音楽や歓声を素材として使用。そこにエレクトロニックなビートを合わせ、お祭りのような華やかさと生き生きとした街の息吹が伝わるトラックになっていた。
この曲を皮切りに、続いてホリカワさんがソロ・ライブを披露。それまでの高揚感ある雰囲気からムードを変え、ロービートや変拍子のエレクトロニカで聴衆の注意を引いた。これが非常に印象深く、いい流れを作ったと思う。短めのセットではあったが、次にタナベさんがソロのパフォーマンスで繋ぎ、ベースの効いた、よりダンサブルなビートで少しずつ会場の温度を上げていった。踊る気満々のお客さんたちの反応も良く、私が一緒にいたスペイン人やアメリカ人の友達にも大評判。
その後はDJタイムに突入し、ジャイルスに紹介されて登場した松浦さんと沖野さんは二人揃って浴衣という、粋な出で立ちでジャパニーズ・クールを見せつけてくれた。周りの友人も「オー! キモノ! かっこいい!」とDJブースを見上げて賞賛していた。(着物と浴衣はちょっと違うことは説明しておいた。)
レア・グルーヴ中心の松浦さんのセットの中で、山下達郎の“Funky Flushin’”がかかったとき、楽しそうに踊る会場いっぱいの人たちを少し上の方から眺め、何だか今まで味わったことのない嬉しさを感じた。ここでもまた、文化や言語の違いを超えて、音楽は伝わるのだなと実感した。毎晩、最後を締めくくるDJは一番盛り上げなければいけない使命があるのだが、さすが<Worldwide Festival>のこともジャイルスのオーディエンスのことも良く分かってらっしゃる沖野さんは、ソウルフルなハウス・セットで駆け抜け、最後まで残った人たちを笑顔にして朝3時に終了。
初の<Japan Night>は大成功に終わった。フェスティバル最終日には既に何度も出演を果たしているソイル&ピンプ・セッションズが(フランスでは国民的DJである)ロラン・ガルニエの前に迫力のライブを見せ、耳の肥えた音楽ファンたちにも日本の音楽のクオリティの高さを十分に伝えたと思う。筆者はただの観客に過ぎなかったが、数少ない日本代表音楽ファンとして誇らしかった。世界は広く、色んな人がいて色んな音楽がある。でも同じ音楽を通して、国籍や世代や宗教が違う人たちがひとつになれる。<Worldwide Festival>と<Japan Night>はそれを見事に体験させてくれた。
photo by Pierre Nocca