「JAPAN BEACH」は、10時少し前にスタート。まずは熊谷さんのタップダンスのソロでスタート。タップダンサーの登場はWFでも初めてのことだったと思う。タップに適した素材の板を用意することも大変だったようだが、ステージの中央に設置された四角いボードカツンカツンというシャープな音がパーカッションのように会場に響き渡り、お客さんも息を飲むように、耳をそばだてるように、静かにその軽やかなステップに見入っていて、これまでにない静寂と緊張感に包まれた。続いて佐野観さんが登場して左手のグランドピアノに向かうと、あらかじめ用意されたサンプル音に合わせて優美な演奏を始めた。これも他の出演者たちのステージと比較すると音数が少なく静かな演出だったので、<WF>のお客さんにとっても珍しい、張り詰めた空気の中パフォーマンスが続けられた。後から木村さんに聞いたところによると、サンプル音の中には昨年の<JAPAN NIGHT>に出演したダイスケ・タナベ、ヨシ・ホリカワ、一昨年に<WF>に出演した松浦俊夫 presents HEXの楽曲の一部が含まれていたという。

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Photo by Pierre Nocca

そこに熊谷さんが戻ってきて、井上純さんが右手奥に設置された大きな白いキャンバス(ボード)の前に立ち、ピアノ、タップダンス、ライブ・ペインティングによるセッションに展開。なかなか他でも見ることがない特別な共演となった。実のところ、この3名が共にステージに立ったのはこれが初めて。木村さんによれば、あらかじめメールでアイディアを出し合って計画を立て、揃ってリハーサルをしたのは現地で、本番前日のみだったという。しかし、そこはみなさんさすがその道のプロ。じっと見守る観客をぐっと引き付けてシンプルながら非常に力強いパフォーマンスへと展開していった。熊谷さんは終了後に、「本番がはじまって、一歩目をふんだ時に、これは良いステージになると確信しました」と話していたというが、3者それぞれが自信と存在感に溢れていたように思う。

ピアノと(タップ)のパーカッション、そして元ダンサーだという井上純さんの、音に合わせた舞のようなペインティング。墨絵か書道を思わせるような、抽象的でありながら躍動感と力強さを感じさせる絵が仕上がっていった。無駄を削ぎ落としたシンプリシティに際立つ強さと美しさという、日本ならではの美意識を、明らさまな「和」の要素を使わずに、いわばモダンで西洋的な手段で表現したところが極めてユニークだったと思う。

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Photo by Emmanuel Comte

そして<JAPAN DAY>最大のハイライトとなったのが、この3名によりパフォーマンスの締めくくりとして披露された、日本を代表するジャズ・ピアニスト、板橋文夫の「渡良瀬」のカバー。ジャイルスをはじめとして国内外のDJにプレイされ、特に3・11以降は特に震災の犠牲者、被災者への追悼を込めて板橋さん自身も演奏し、多くのDJがかけてきたこの曲が、青く輝く幻想的なテアトル・デ・ラ・メールにこだました。日本からのWF参加者は非常に少ないので、そのことを知るお客さんがどれほど居たかは分からないが、その真摯な気持ちと渾身のパフォーマンスから、大いに伝わるものがあったのは間違いない。何か心が浄化されるような、通常のフェスティバル体験ではちょっと味わえないようなひと時をみんなが過ごしたように思う。井上さんの描いた絵は、この後テアトル・デ・ラ・メールに贈呈されたそうだ。

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Photo by Emmanuel Comte

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Photo by Pierre Nocca

昨年の<JAPAN NIGHT>で、ダイスケ・タナベとヨシ・ホリカワがセットでのフィールド・レコーディングを使用して制作し披露した“Song for Rémy”に続く、<WF>だからこそ実現したスペシャルなプログラムとなった。ちなみに、この“Song for Rémy”はちょうど丸一年後、<WF>の開催に合わせて10インチのレコードとして発売されており、会場でも販売されていた。フェスティバル中に<JAPAN DAY>が印象的だったと話していた人も多く、この「日本企画」、まだ二年目にして<WF>の重要な一部になっているように感じた。

最後に、ジャイルスがフェスティバル後にFacebookに投稿したコメントを紹介しよう。「私の考える“天国”のイメージに一番近いものが、セットにおけるこの一週間でした。今回で11回目でしたが、フェスティバルで言うところのアイアンマン(トライアスロン)をやりきったような達成感です。ほとんどのフェスティバルは3~4日間ですが、<WF>は7日7夜ですから、次元が違います!(中略)私にとっては全てがハイライトでしたが、特に<JAPAN DAY>でのタップダンス、ライブ・ペインティング、ピアノによるパフォーマンスでフミオ・イタバシの“Watarase”をやった瞬間は本当に特別でした。それと、最終日の夜に観客がエディット・ピアフを大合唱してくれたことは、私のDJキャリアにおける最大のハイライトだったかもしれません……母に見せてあげたかったです。まるでサッカーの試合と、政治的デモとレイヴを掛け合わせたような体験でした!」

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筆者としても、二度目の<WF>で二度目の日本企画の大成功と、真の前向きで建設的な異文化音楽交流の場に居合わせられて、とても感慨深くエネルギーをもらえる体験となった。ぜひまた来年もマジカルな<JAPAN DAY>を期待したい。そして、またWFに参加したい!

▼<Worldwide Festival 2016>アフタームービーも公開中!

Worldwide Festival 2016 – aftermovie from Otus productions on Vimeo.

Worldwide Festival 2016 -Japan Day-

本プロジェクトは、国際交流基金とアーツカウンシル東京に助成されています。

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