映画監督としての顔も持つ、俳優の染谷将太。これまで2本の短編『シミラー バット ディファレント』(13)、『清澄』(15)を発表。今年8月には、新作『ブランク』が山口情報芸術センターで開催された<真夏の夜の星空上映会>でプレミア上映されるなど、その個性的な作品は着実に注目を集めてきた。
そんな染谷作品になくてはならない存在なのが、音楽家・渡邊琢磨だ。渡邊はオリジナル作品のほかに、冨永昌敬監督『ローリング』(15)、熊切和嘉監督『DIRTY YELLOW BOYS』(16)、吉田大八監督『美しい星』(17)などのサントラを手掛け、映画音楽家としても活躍。染谷作品のすべてのサントラを手掛けてきたが、その3作のサントラ音源を再構築した新作『ブランク』がリリースされる。
実は以前から遊び仲間だった二人。プライベートの交流がユニークなコラボレーションへと結実したらしい。二人の出会いから映画音楽作りの背景、そして『ブランク』について二人に話を訊いた。
対談:染谷将太×渡邊琢磨
——そもそも、二人はどういうきっかけで知り合ったんですか。
染谷将太(以下、染谷) 俺が『パンドラの匣』っていう映画に出演した時に、仙台キャンペーンがあったんですよ。それで仙台で打ち上げをした時に、冨永さん(冨永昌敬監督)が琢磨さんを呼ばれたんです(渡邊は仙台在住)。そこで「初めまして」でした。8年前ぐらいですね。17歳でした。
渡邊琢磨(以下、渡邊) その打ち上げで、たまたま染谷君の隣に座ったのですが、私、かなりお酒が入ってまして、馴れ馴れしく「どうですか、調子は!」などと、いきなり話しかけたのです(笑)。
染谷 「ライブ来て下さいよ! 今度の水曜日空いてる?」「はい、空いてます」みたいな(笑)。
渡邊 それでライブで会ったり、遊ぶようになったんです。
染谷 急激に会うようになりましたね。
渡邊 といっても、飯食ったり、散歩したり、ただブラブラしてるだけ。一回、仙台に呼びつけたこともあって。
染谷 ありましたね。「一回、ウチに来たほうが良いんじゃないか」って電話がかかってきて(笑)。「ああ、そうですね」って、ふらっと新幹線に乗って仙台に行ったんです。
渡邊 たんにヒマで電話しただけなのですが(笑)。そんな風に遊んでて。「一緒に何かやろう」という話になったのは、染谷君が映画を作るようになってからなので、会ってからだいぶ時間が経ってました。
——そういう長い付き合いがあったからこそ、染谷さんとしては自分が監督した映画のサントラを渡邊さんに頼みたいと思ったわけですね。
染谷 頼みたかったんですけど、琢磨さんがそんなにやりたくなかったらなと思って。まず、「こういう話なんですけど、どう思いますか?」みたいにストーリーの話をしつつ、「だとしたら、音楽はどういうのがいいと思いますか?」って相談したんです。そこで「こんな感じの音楽だったら面白いんじゃない」って言われて、「じゃあ、それを作ってもらえますか?」って。
——じわじわと流れを作って依頼した(笑)。
渡邊 こちらも「私にやらせなさい」という作意をじわじわ出していって(笑)。
——その記念すべき初監督作『シミラー バット ディファレント』は、どんな風にサントラを作り上げていったんですか。
渡邊 映画のラッシュを拝見した際、緩やかなテンポ感と雰囲気が印象的だったので、登場人物のエモーションやドラマの流れに即して音を当てるというよりも、作品の空気感、場面ごとの質感に対して音を模索していきました。当時、アンビエントといいますか、アトモスフェリックな音楽をつくりたいと思っていたので、この映画のサウンドトラックと、私自身の趣向性が合致する部分もあり、作業は容易に進めることができました。
映画『シミラー バット ディファレント』予告編
——サントラが新しい領域を切り開くきっかけになった?
渡邊 そうですね。このサントラを手がけたことが、次作を作る切っ掛けになったし、何年か後に、冨永昌敬監督の『ローリング』の映画音楽を担当した際も、『シミラー』の制作手法を土台に新しいことを試してます。なので、『シミラー』のサントラは、その後の音楽制作における、ひとつの目安になったと思います。