1963年に創業し、シンセサイザーや電子ピアノ、DJ機器、VJ機器やデジタル・レコーダー、エフェクター、チューナーなど、さまざまな電子楽器を製造、販売する事で知られる、株式会社コルグ。日本でのシンセサイザー開発を早くから行ない、常に時代の先陣を切る製品を発表し続けて来た同社が70年代の後期に発売したシンセサイザー、『MS-10』(エムエス-テン)をご紹介したいと思います。
1978年にコルグは、『MS-10』と『MS-20』というモノフォニック・シンセサイザーを発売しました。これらのシンセは、モジュラー・シンセのようにパッチングによる自由度の高い音作りが可能で、小さくまとめられたボディーに優れたコスト・パフォーマンスで大ヒットし、シンセサイザーを世の中に広める事に大きく貢献しました。
今回ご紹介する『MS-10』は、上位機種の『MS-20』と同時期に発売された弟分のようなシンセで、『MS-20』の2オシレーター搭載、37鍵盤のキーボードに対して、『MS-10』は1オシレーターに、32鍵盤という、シンプルに設計された低価格なモデルでした。『MS-10』と『MS-20』は、アマチュアにも手の届く価格で、机の上に乗せられるコンパクトなサイズ、そのうえパッチングをして音を作れるのだから、多くのテクノ少年達を振り向かせ、大ヒットしたというのも頷けるアナログ・シンセサイザーなのです。
こちらがコルグ『MS-10』です。筆者が『MS-10』を購入したのは、90年代初頭のアナログ・シンセが再評価され始めた頃でした。当時、多くのメーカーはデジタルのシンセサイザーを生産、販売していた時代でしたので、『MS-10』というシンセはアナログな音色と言い、ツマミがたくさん付いたレトロな形状と言い、とても新鮮に思えました。『MS-20』に比べ機能は限られているものの低価格でパッチングも出来るので、何か面白い音が作れそうだと思ったのが購入の決め手でした。
『MS-10』の前に座るとツマミやパッチ・パネルが所狭しと配置され、思わず色々な音色を作りたくなります。カラフルなパッチ・ケーブルを接続した様は、まるでサイエンス・フィクション物の映画にでも出てきそうな、レトロ・フューチャーなルックス。電話交換手のようなスタイルでパッチングして音を作ったり演奏します。鍵盤楽器なのに上半分はまるで機械のようなルックスに、テクノ心をくすぐられます。ちなみに、『MS-10』は、ジ・オーブ / ケミカル・ブラザーズ / オウテカ / アンダーワールド等のアーティストも使用しているそうです。
『MS-10』は、オシレーター(VCO)、ローパス・フィルター(VCF)、アンプリファイアー(VCA)、エンベロープ・ジェネレーター(EG)がそれぞれ一個ずつという、とてもシンプルな構成です。オシレーターは、「三角波」、「ノコギリ波」、「パルス波」、「ホワイトノイズ」の、4つから波形を選択出来ます。
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