まず「三角波」は、明るすぎないシンプルな音色で、くせがなくとても良い音がします。「ノコギリ波」は主張が強く、ミッドの付近が強調された明るい電子音です。「パルス波」も、ミッド付近が力強い音色ですが、パルス・ウィズ・モジュレーションのツマミを動かしながらフレーズを弾けばサウンドが変化し、動きのある音色が出せます。そして「ホワイトノイズ」は『ザー!』という豪快なノイズが出ます。この波形をうまく使えばシンセ・ドラムの音色や、風や波のような効果音も作る事が出来ます。どれも『MS-10』らしいオーソドックスで味わい深い音色です。
『MS-10』はフィルターの効きがとても良いです。内蔵されているローパス・フィルターは『MS-20』と同じ物で、メロディーを弾きながらカットオフ・フリケンシーのツマミを動かすと、音をこもらせたり、明るくしたり、どんな音色でもかっこよく変化させる事が出来、レゾナンスを最大に上げると、フィルターそのものが発振してオシレーターのように鳴らす事も出来ます。『MS-10』はシンセとして使えるだけでなく、エクスターナル・シグナル・インプット(EXT SIG IN)から楽器や音声を入力し、フィルター・マシンとして使う事も可能です。
次に『MS-10』とルーパー系のエフェクターを組み合わせた演奏をご紹介したいと思います。ルーパーと言うのは、ギタリストがギターのフレーズを録音し、そのフレーズをループ再生しながら新たなフレーズを重ね録りし、一人で多重録音のパフォーマンスをするためのエフェクターなのですが、これをギターではなく『MS-10』で演奏するのです。
思いついた音色に切り替えて、絵でも描くように自由にフレーズを重ね録りします。『MS-10』はモノフォニックのシンセなので、和音を弾く事は出来ませんが、1音を何度も重ねて録音していくと徐々にハーモニーが出来上がってきます。一台の『MS-10』の様々なバリエーションの音色が重なり合い、最終的に音楽が出来上がるのです。これが本当に面白くて、演奏し始めると思わずハマってしまいます。実際に『MS-10』とルーパーを使った演奏の動画を撮影しました。本製品の得意とする音色を次々にオーバーダビングした演奏をご覧ください。
▼『MS-10』とルーパーを組み合わせた演奏はこちら。
KORG MS-10 and Loop Machine. Play electronic music.
今回『MS-10』をあらためて触ってみて、つい時間を忘れて音作りを楽しめるシンセだと感じました。プラグインやソフトウェアをマウスで操作するのと違い、直感的に両手を使って音色を作ったり、キーボードを演奏出来るので安心感がありますし、鍵盤のタッチは比較的硬くしっかりした感触で、離した瞬間に鍵盤が勢い良く戻ってくる感じはとても弾きやすいです。『MS-20』に比べて少し地味な『MS-10』ですが、その特徴的な形状や味わい深い音色は、部屋に置いてあるとつい弾きたくなりますし、ライブやステージで使用しても注目されるでしょう。
上位機種の『MS-20』の方が機能的には充実していますし、コルグから2013年に『MS-20』の復刻版、『MS-20 mini』や、2014年には、ユーザー自身の手でフルサイズの『MS-20』を組み立てられるキット、『MS-20 Kit』などが発売されているので、『MS-10』が欲しいという方はもしかすると少ないのかもしれませんが、『MS-10』にはシンプルな魅力があります。興味のある方は中古市場を探してみてはいかがでしょう。もしくは、実機を購入するつもりはないけど気軽に音楽を作ってみたいという方は、『MS-10』をデザイン・モチーフにした、『KORG DS-10 PLUS』という、ニンテンドーDS専用音楽ツール・ソフトが発売されているので、そちらをチェックすると良いでしょう。筆者の『MS-10』はだいぶ錆付いてビンテージ感が出てきていますが、これからもさらに長く使い続けたいパートナーのようなアナログ・シンセサイザーなのです。