シンセサイザー、電子ピアノ、電子オルガン、電子ドラム、ギターアンプなどの製品を開発、販売し、日本を代表する楽器メーカーとして知られる、ローランド株式会社。同社は1977年にマイクロ・コンポーザー『MC-8』を発表して以来、コンピューターと電子楽器の連携に力を入れ、データを入力することで楽器を演奏する手法を広める事に大きく貢献しました。90年代の後期からは、クラブ、ダンス・ミュージックに特化した『MC-303』『MC-505』などのシンセサイザー、シーケンサー、ドラム・マシンを一体化したグルーヴ・ボックスを発表し、最近では同分野の新製品『AIRA』シリーズや、同社の歴史的な名機をコンパクトなサイズで忠実に再現した『Roland Boutique』シリーズの発表が記憶に新しいところです。そのローランドが1984年に発売し、テクノ・ハウス系ユーザーにとても人気の高かったシンセサイザー『JUNO-106』(ジュノ・イチマルロク)を今回ご紹介したいと思います。
こちらがローランド『JUNO-106』です。筆者が本製品を手に入れたのは、90年代の終り頃。音楽を作っていた先輩から使わなくなった『JUNO-106』を安く買わないかと提案されたのがきっかけでした。当時、テクノ・ブームの影響で、生産が終了した古いアナログ・シンセの音色が再評価され、価格が上がり、世の中はビンテージ・シンセ・ブームという現象になっていました。その影響もあって、筆者もデジタルのシンセでは出す事が出来ない、テクノ、ハウス系の音が欲しい思っていましたので、もちろん喜んで買取ったのでした。
今のように、往年のアナログ・シンセを再現した製品や、便利なソフトウェア・シンセなどが出まわる以前の話ですので、当時そういった音は簡単に出せる音色ではなく、中古市場で欲しい機種を探し出し手に入れ、ようやく出せる音でした。なので手に入れた時の喜びと興奮はとても大きかったです。筆者にとってデジタルのオール・イン・ワン・シンセでは出す事ができない、テクノ系のサウンドを出すためにアナログ・シンセでMIDIが付いている機種がどうしても必要でした。『JUNO-106』はアナログ・シンセでありながら、MIDIが搭載され、太い音が出せる事でテクノ・ハウス系ユーザーに圧倒的な人気があり、今でこそ価格は落ち着いて来ましたが、一時はかなり値上がりした時期があったのを記憶しています。
『JUNO-106』に搭載されているMIDI 端子を使えば、他のMIDIシーケンサーやリズム・マシンと組み合わせてフレーズを鳴らしたり、本製品をマスター・キーボードとして使い、別のシンセ音源を鳴らす事も出来ます。操作も簡単で使い勝手が良く、ピッチも安定していました。その辺がテクノ・ハウス系ユーザーに人気のあった理由なのだと思います。
『JUNO-106』で作れるサウンドは、太いシンセ・ベースを打ち込みで鳴らし、LFOでゆっくりフィルターを開閉してやれば、当時流行っていた「ビヨビヨ」とうねるベース・ラインは簡単につくれましたし、6ボイスのポリフォニックなので、アタックがゆっくりで、リリースが長いシンセ・パッドの音色でコードを弾けば、アンビエントのようなサウンドも作れました。ですので『JUNO-106』を手に入れた時、まさに欲しかったサウンドが出せるようになり、まるでお宝を手に入れたような気分でした。