「宅録女子」と言われてどんなアーティストが思い浮かぶだろうか? 最近なら福山雅治出演のキユーピーハーフの「ドレスドエッグ」のCM用にオリジナルソングを書き下ろしたNY在住のコンピューター・マジックだろうか。しかし宅録は必ずしもシンセが前面に出たエレクトロニックなサウンドばかりじゃない。生音やオリジナルな音源で作る有機的なサウンドだって、宅録で成し得るのだ。
そんな「手段としての宅録女子」がNeat’sこと新津由衣。前述のコンピューター・マジックの来日公演でオープニングアクトを努めたり、<Hostess Club Weekender>など、洋楽ライブのレポートを音楽サイトに寄稿したり、世界で同時進行するインディポップ/ロックの積極的なリスナーでもある。彼女の活動のユニークなところは、ベッドルームでの制作を再現するような独奏スタイルとバンドスタイル両方のライブを行うこと。そして制作の日常を「Bedroom Orchestra」と題してUstreamで配信したりする、セルフプロデュースならではの柔軟さにある。また、ジャケットのアートワークやMVなどビジュアルコンセプト作りをはじめ、ツアーグッズのデザインや制作(!)果ては「産地直送」をコンセプトにCD販売までD.I.Yで行っているところだろう。
そんなトータルな世界観を持つNeat’sが3rdアルバム『MOA』をリリースする。ギターポップやシューゲイザー、チェンバーポップ的な構造を持ちつつ、メロディはあくまでポップで、そこに乗る歌詞は人間の核心に迫る深度。インディポップのチャレンジ精神とジャパニーズポップの慣れ親しんだ普遍性が同居するこのアルバムに至るプロセスや内容はもちろん、グッとくだけて今のフェイバリットについても聞いてみた。
Interview:Neat’s(新津由衣)
––––今回でオリジナル3作目のアルバムですが、2ndアルバム『MODERN TIMES』の頃は、「音楽は新津由衣が人間らしく活動するため」と話していましたね。
そうですね。あの頃は、ちゃんとした人間としての生き方を模索するために音楽を作っていたようようなところがありましたね。
Neat’s“MODERN TIMES”
––––ニューアルバムに向かっての気持ちの変化はいかがですか?
今もやりたいことは最初とそんなに変わってないんですけど、「わたしはこれだ!」っていう、はっきりした軸ができたのが、この半年ぐらいだったかなぁ。だからこのアルバムは今までの中でもすごく自信を持って出せる作品だし、世界観とかすべてを含めて、やりたいことはこれしかない!っていう太鼓判が押せました。
––––今回の『MOA』の第一印象は堂々としてるなぁというものだったんです。
うれしい。気持ちもそうだったんだと思いますね。曲の“MOA”ができる直前はまだいろいろ不安定で、波がありすぎて。「これで大丈夫!」と思っても、ちょっと人のいいもの見ちゃうと、「あ、わたしは終わってる……。」みたいになっちゃって。
––––たとえば誰ですか?
セイント・ヴィンセントとか。でも国も違うし、受け入れられるフィールドも違うし、自分がいいと思う海外のものを取り入れる、そのことがまずどうなんだろう? と思って。根本的に海外がどうとか日本がどうとかじゃなくて、自分が好きな音や音楽はなんだろう? ってところに立ち戻れました。
––––それは大きいですね。
絵本と一緒に出した『Bedroom Orchestra』という作品も大きな一歩だったと思うし。わたしが好きな世界で、さらにそれがNeat’sとして発信するのにすごく似合っていて、そうしたいろんな世界ががちっと固まったから、堂々とできたのかなぁと思います。
Neat’s『Bedroom Orchestra』“Night in Cider”
––––楽しいことを積み上げていった結果、Neat’sらしい王道に辿り着ければいいと言ってらしたので、今回はまさにそういう作品になったんじゃないですか?
アウトプットのうまいやり方を見つけられたっていうのはあるかもしれない。「どうやったら自分の思っていることが伝わるかな?」って、音選びやアレンジは試行錯誤ばかりだったんだけど、わたしにはやっぱり音楽がいちばんで、その表現方法が宅録っていう、自分の好きなピンときた音を積み上げてポップミュージックを作るんだっていうところに迷いがなくなったんですね。