96年の結成以来兄弟デュオとして人気を博すと、弟・堀込泰行の脱退を機に、兄・堀込高樹が、これまでバンドをサポートしてきた田村玄一と楠均と千ヶ崎学、そしてコトリンゴや弓木英梨乃を正式メンバーに迎え、バンド編成の新章へと突入したKIRINJI。この体制でのアルバム第一弾となった14年の『11』は、タイトルで兄弟での最終作『Ten』に連なる作品だと感じさせながら、同時にまっさらな状態から再スタートを切るような――“新しいKIRINJIらしさ”がぎゅっと詰まった作品だった。
アルバム・リリース後は、新編成では初となる全国ツアーへ。その過程でバンドとしての関係性をより深めると、7月8日には自らが所属する名門ヴァーヴのアーカイヴからサマー・ソングをテーマに選曲したコンピレーション・アルバム『KIRINJI presents SIXTH×SIX –SUMMER EDITION-』を発表。そして今回7月22日には、待望のニュー・シングル“真夏のサーガ”がリリースされた。夏の清涼感や躍動感を詰め込んだこの曲は、いわばKIRINJIからのサマー・プレゼント。力強く壮大なサウンドに乗せて、以前よりさらに有機的に絡み合う各メンバーの演奏が印象的な楽曲になっている。
今回は弓木さん以外の5人のメンバーが集合。今のKIRINJIの魅力とは? そしてKIRINJIにとっての夏とは? 『11』以降に訪れたバンドの変化や、2015年の夏を彩る珠玉のポップ・チューンの制作過程について、ユーモアも交えながら語ってもらいました。
Interview:KIRINJI
[堀込高樹(vo/gt)、田村玄一(pedal steel/steel pan/gt /vo)、楠均(dr/per/vo)、千ヶ崎学(bass/syn/vo)、コトリンゴ(vo/pf/key)]
ーーまずはバンド編成になって、アルバム『11』をリリースして、その後全国ツアーに回る中で感じた、KIRINJIの変化のようなものがあれば教えていただけますか?
堀込 これまではレコーディングの時点で僕がある程度曲を作り込んで、「これはこういう曲です」という感じで当日演奏してもらうことが多かったんですけど、この体制になってからはある程度全員で演奏して、全員で練ってから録音するように変わってきていますね。
ーー実際に『11』のリリース時、以前からサポートで参加されていたみなさんは、「堀込さんが持ってくるデモがラフになった」というお話をされていました。
堀込 そう、今はだいたい6割ぐらい、骨格だけを用意して、あとはみなさんが考えたアイディアを出来るだけ曲に反映していこう、という方法でやっているんですよ。
ーーツアーに出て、演奏していく中で感じた変化もあるでしょうか?
堀込 演奏していく中で、曲が変わっていくのを感じますよね。大きく変わったこと、というと具体的にピンと来るわけでもないんですけど、でも、何かが違う(笑)。
千ヶ崎 (笑)。きっと以前は、各ライヴの演奏を出来るだけ均一にしようとしていたんです。でも今は、日によって違っていいというか、むしろその違いを楽しんでいるような感じで。
堀込 確かに、それはあるよね。
ーーコトリンゴさんはどうでしょう? 田村さん、楠さん、千ヶ崎さんのように以前からサポートとして参加してはいなかっただけに、違った視点をお持ちではないかと。
コトリンゴ そうですね。私は前がどんな感じだったのかを知らないですけど、男性ばかりだったバンドに(弓木さんと共に)参加するのは、環境としてやりにくい部分もあるのかな、とは思ってました。たとえば、男性特有の会話ってありますよね。ツアーをしていても、たまにそうなりそうな瞬間があるんですけど……。そんな時は堀込さんがピシャリと言ってくださって(笑)。
楠 いい意味で雰囲気は変わりましたよね。「男だけの会話は犬も食わない」というか、くだらないことばかり話しているので、そういうものがなくなってよかったというか(笑)。
ーーでは今のKIRINJIは、どんなバンドになってきたと感じているでしょうか。
堀込 出来るだけメンバーのアイディアを取り込もうとしたとは言え、初めのうちは、自分が多くを決めていた部分があったんですよ。でも今回のシングルでは、楠さんや千ヶ崎くんもほぼお任せ、みたいな感じで。全体のリハーサルをしていく中で自然に出来上がっていったというか。1から10まで説明しなくても、曲を聴いてもらえば割とすぐに「こういうところに向かおうとしている」ということを理解してくれるようになってきて。
楠 知り合いに言われたんですけど、「観ていて大変面白い」と。バンドとしてまとまっている部分もあるものの、一方でプレイも年齢もてんでバラバラなメンバーが集まっていて。だから、次に何が出てくるのか分からないというか。そういう部分が楽しいですね。
田村 僕の場合は、バンドになる前もなってからも思うままに演奏してきたんで、そのままです(笑)。(ペダルスティールやスティールパン、ギターなど)演奏する楽器も多岐に亘っているし、本当に自然体でやっていて。しかも、『11』からはメンバーを想定して曲を書いてもらっていることもあって、前よりもやりやすくなってきていますね。
ーー千ヶ崎さんとコトリンゴさんはどうですか?
千ヶ崎 みなさん色々なバックグラウンドを持っているんで、ひとつのバンドでありながら色んな方向性に向かうことができる。「色々な音楽をやるのがKIRINJI」という存在になったら面白いですよね。そうやってジャンルを気にせず、高樹さんの作った音楽を合奏できるのがこのバンドのいいところなんで。
コトリンゴ あと、私の場合はこれまでソロで活動をしてきて、自分のステージでは絶対恥ずかしくてやれなかったようなことが、このバンドでなら出来るという部分もあって……。
堀込、田村、楠、千ヶ崎 えーっ!?(笑)。
コトリンゴ (笑)。たとえば、鍵盤の2段弾きなんて、自分の柄じゃないのでこれまでやったことがなかったし、最初は上手く出来るか心配だったんです。でもやっていくうちに出来るようになって、それを自分のライヴでもやるようになったりして。そういう風に、このバンドに参加することで幅が広がる部分があるんです。たとえば、楠さんも歌を歌われているわけで、そういう部分ってみなさんきっとありますよね。
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