螺旋階段を上ると、高い天井に大きな窓、たくさんの観葉植物とアンティークウッドのインテリアに囲まれた開放的な空間が広がる。ここは、遥か遠くNYのブルックリンからベルリンへとやってきた今話題のカフェである。今のベルリンにひと昔前のNYを重ねて見る人は、ベルリナーだけでなく、ニューヨーカーにもいるらしい。
2014年12月にオープンした「HOUSE OF SMALL WONDER」は、ミッテの観光地エリアに大胆にその姿を現し、他にはあまりない独創的なアイデアとサービスで近隣の人々からツーリストまで幅広い客層に支持されている。
そんな「HOUSE OF SMALL WONDER」のランチタイムにお邪魔し、オープンから1年半を迎えた”今”を取材させてもらった。久しぶりの食レポートになります。是非ご覧下さい!
「HOUSE OF SMALL WONDER」
Photo by Stefan Kühne
ベルリンでもNYでも、日本のサービスクオリティーを徹底している
「HOUSE OF SMALL WONDER」をプロデュースしているのは、Motoko WatanabeさんとShaul Margulies(シャウール・マギュリーズ)さんご夫妻。マギュリーズさんの弟さんがベルリンでクラブ運営に携わっている関係で度々訪れており、一昔前のNYと同じ可能性を感じて、ミッテの一等地とも言える人気のシアター
「ZENKICHI」
Photo by Hiroshi Toyoda
日本のクオリティーの高いレストランサービスを海外でも取り入れたいと考え、日本中の飲食店を回り、研究を重ねてきたという。NYでもベルリンでもスタッフは全員日本人のみで、実は、私の友人も何人か働いている。日本人特有の丁寧さと親切心を海外で認めてもらえるのはとても嬉しいことであり、実際、スタッフはみんなとても良い笑顔で気持ちの良い接客をしてくれる。無愛想が基本(あまり笑顔を見せないだけで、実際は親切な人が多いのがドイツ人の特徴でもある。)とされるドイツの飲食店において、ホッとする居心地の良さを与えてくれる接客はツーリストでなくとも嬉しい。
Photo by Akiyoshi Yatagawa
メニューは、和食と洋食をミックスしたアジアンヒュージョンで、私がこの日オーダーしたのは、“そぼろ丼”。これはベルリンのカフェやレストランでは滅多に食べれないメニューなため、懐かしさがこみ上げてきた。異国の地で、和食を口にすると不思議と優しい気持ちになれる。和食で他に人気のメニューは、ベジタリアン用のおにぎりセット、そして、一番人気の抹茶ラテである。確かに甘いものが大好きなドイツ人の口にも合いそうなスイーツ感覚のドリンクである。
他には、ポテトグラタン、フレンチトーストなど、外国人のお客さんが多いだけに納得のラインナップ。ちなみに、私の一番のお気に入りはアールグレイのシフォンケーキ。これもベルリンのカフェではまだ出会ったことがなく、存在すら忘れかけていたところ。パンもずっしり重くて固く、ケーキもピザのようなビッグサイズでどっしりしてるのがドイツの定番なだけに、ふんわりしていて繊細な味わいというのは本当に貴重なのだ。
Photo by Akiyoshi Yatagawa
使用している食材に関しては、地産地消とのこと。これは私自身ベルリンへ来て取材をするまで知らなかったのだが、ドイツでは多くの飲食店がそうであり、“Made in Germany”はプロダクトだけに限らず、食材に関しても積極的に地域活性化に取り組んでいる。
他にも、食文化の違いに驚かされたことがある。今回取材対応してくれた広報担当の早苗ビュトナーさんは、旦那様がドイツ人で、食事の時に関するとても興味深い話をしてくれた。
「私たち日本人は、食事の時はその時食べている目の前の料理について話すことが多いですよね。“これ、おいしいね。”とか、“味付けはどうやってるんだろう?”とか興味を持つのが普通です。でも、ドイツ人って、あんまりそうゆう会話をしないんですよね。目の前の料理のことにはほとんど触れないまま、無言で食べていたかと思ったらいきなり政治の話を始めたりするんです。ラーメンを食べに行った時も話に夢中になってしまって、食べるのがすごく遅くなって、麺が伸び伸びになってしまっていたんです。音を立てても良いからおいしいうちに早く食べる物って分からないんですよね。見ながら早く食べて!とちょっとイライラしてしまいました(笑)。」
残念ながら日本では、スマートフォンをいじりながら無言で食事をするという現代ならではの変な習慣も生まれてしまったけれど、多くの人は、目の前に出された料理を楽しもうという心を持っていると思う。どこの国でも同じだと思っていたけれど、そうではないらしい。国の数だけ食文化の違いもあるということだろう。
「私たちのお店はカフェが2階で、レストランが地下になります。天気の良い日はみんなテラスに出たいという習慣も冬の長いヨーロッパならではだと思っています。カフェは大きな窓から日差しが入る良いロケーションですし、コースを出すレストランで、外に簡易テーブルセットを出すのは雰囲気を壊してしまうと思っています。これもベルリンでは珍しいですが、ペットもお断りしています。いろんな国のお客様が来る場所なので、今後も様々な視点から改善策や新たな展開を考えていきたいと思っています。」
Photo by Akiyoshi Yatagawa
これもまた日本にはない習慣である。ヨーロッパの人々にとって、ティータイムは毎日欠かせない大事な時間となっている。そのため、平日の昼間からカフェに人が集まっているのが日常の光景である。サマータイムに切り替わった3月後半からは、店の前にテーブルセットが設置され、晴れた日には日光浴とティータイムという重要なルーティンを果たすようにどこも満員状態となるのだ。
地下の「ZENKICHI」ではヨーロッパ初となる日本酒の銘柄の取り扱いを始めるなど、また新たな展開を予定している。独創的でアグレッシブ、でもどこか日本に帰ってきたようなホッとする安心感を与えてくれる空間はそのままに、今後も様々な視点からおもしろい展開をして欲しい。
Photo by Hiroshi Toyoda