とびきりの何かに遭遇した時、人はそれを誰かと分かち合いたいと思うか、はたまた、誰にも言わず自分だけのものにしたいと思うのか。
ベルリンという街にいると時折、強烈な独占欲と閉塞感に襲われることがある。他のどこを探しても見つからない突き抜けたクラブカルチャーは世界中へと発信され、多種多様が入り混じるインターナショナルな街として人気を得る一方で、ドイツらしいコンサバティブはしっかりと存在している。それは、ドイツ人ではなく、“ベルリナー”に対して言えることなのだが、“良いものは独占したい”のだ。そう言うととても卑しく聞こえてしまうが、狭く深く限られた世界でしか保てない本当の意味での“良いもの”があるのもまた事実である。近年のベルリンにおいてはそれが崩れていると嘆く人も少なくない。
そもそも、遠い島国からずっと羨望の眼差しを送り続け、世界一行きたかったクラブがクローズしてからようやく訪れたような私の感覚などとっくに過去の遺物なのだ。昨今の拓けた居心地の良いムーブメントに片足を乗っけながら、無性に過去の知らない世界へとタイムスリップしたくなる。
8月だというのに全く夏らしくないベルリンを脱出するため向かったのがルーマニアのビーチフェス<Sunwaves Festival>だった。そこで私は一昔前のベルリンを見たような気がした。そのデジャブのような感覚は、今にも崩れ落ちそうなボロボロの建物と砂埃に塗れたグレーと褐色が入り混じった荒野のような街からではない。まだユーロになっていない、東欧の貧しい国に根付く確かなアンダーグラウンドカルチャーを見たのだ。
今回で記念すべき20回目を迎えた<Sunwaves Festival 20>の現地レポートを写真とともにお届けしたい。
ルーマニア、コンスタンツァに位置するリゾート地ママイアは、黒海に面し、約8kmに渡り、微細でサラサラした砂の美しいビーチが永遠と続いている。<Sunwaves Festival 20>>の会場となったのは、この一角にあるAZA BEACH。老朽化が進んで放置されたままの建物、寂れたリゾートホテルが点在し、同じ道沿いには、モダンな高級アパートメントがいくつも建設されている。何とも不思議な光景を目にしながら、中心地からは少し離れた会場へと向かった。
ここまでのアクセスはなかなか大変である。アンリ・コアンダ空港(ex.オトペニ空港)からバス、もしくは、タクシーでブカレスト・ノルド駅まで向かい、そこから事前予約した急行列車で約2時間半かけてコンスタンツァ駅へ。そこから、またタクシーかバスに乗り、ようやく目的地のママイアに着く。ただし、タクシーは乗る前に金額交渉しないとボッタクリにあうため、海外に慣れていない人にはあまりおすすめしない。移動が多くなる滞在中はレンタカーを借りておくのが、一番経済的であり、利便性もトップである。当然のことながら国際免許も必要となる。
Fumiya Tanaka
ラインナップは、Carl Cox、Cassy、DJ Sneak、そして、ルーマニアでも絶大な人気を誇る田中フミヤなどをはじめとする世界のスターが集結し、ミニマルミュージックに特化したフェスであっても他のヨーロッパのフェスに引けを取らない豪華さを誇る。このフェスにおいて何より注目すべきは、現在のヨーロッパのダンスミュージックシーンにおいて、カルト的人気を誇るルーマニアンDJたちである。特に、2007年に設立されたレーベル〈[a:rpia:r]〉の人気はここ数年留まるところを知らず、主宰であるRhadoo、Petre Inspirescu、Rareshは世界各地からラブコールが絶えない。今回、ボスのRhadooこそいなかったものの、Petreを筆頭に、Raresh、Dan Andrei、Barac、Cezarなどのローカル勢の人気は絶大であり、フランス、オーストリア、オランダなどの近隣諸国からギークなファンたちが押し寄せていた。
Petre、Raresh
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