環ROYはここ数年、美術館でのパフォーマンスや、ダンサーとの舞台作品を発表するなど、パフォーミングアーツに類する仕事を複数こなし、インスタレーションの創作も行ってきた。一方でラッパーとしては、日清食品やGapの広告に参加したほか、鎮座DOPENESSとの共作をNHK教育テレビ『デザインあ』に提供している。さらに、映画『アズミ・ハルコは行方不明』では劇伴音楽を担当し、まさに「幅の広いラッパー」を体現した活動を行ってきた。

そんな彼が4年ぶりにフルアルバム『なぎ』を発表する。クロスオーバーな活動を続けてきた環ROYの、新作に対する思いを、本人に語ってもらった。

Interview:環ROY

【インタビュー】日本語であることの可能性。環ROYが『なぎ』に込めたラッパーの在り方とは? tamakiroy_9-700x467

ニューアルバムへと至る4年間

——今回の新作『なぎ』は4年ぶりのアルバムになります。まず、なぜ今このタイミングでアルバムを出すことになったんでしょうか?

なぜでしょうね……考えながら喋りますね。今までも出そうと思ったら出せたのかもしれないですよね。アルバムをリリースするつもりがなかったわけじゃなくて……ずっと、出さなきゃなーとは思っていました。出すための明確な動機を作っていたんだと思います。

——環さんはこの4年、パフォーマンスやインスタレーションの制作を積極的に行っていた印象があります。そうした活動は今回のアルバムにつながっていますよね?

そうですね。この盤を作るための、動機を求めて、別の分野へ旅行してた感じですね。旅行から戻ったら地元の風景が少し違って見えて……ってことでアルバムの制作に向き合えるようになりました。僕はもともと、曲をつくる、CDを売る、ライブをする。みたいな活動からスタートしているので、「音楽アルバムと呼ばれるものを作る」が自分のメインプロジェクトだって意識が根底にあります。

——ちょうど前回のアルバムが出てからの4年で、日本はフリースタイルバトルなんかを中心にヒップホップが注目されるようになりましたよね。環さんはそういうものではなく、特にパフォーミングアーツ的な表現に関心を深めていったように見えます。なぜなんでしょうか。

ライブハウスってありますよね。ステージがあって、照明があって、おっきい音が出るスピーカーがあって、それが防音された空間に収まってる。それってすごく枠組みがはっきりした合理的空間ですよね。ポーンっと入っていって実演ができる。けど、そもそも、どんな場所でやるのかは自由で、野外なのか、室内なのか。電気で音を増幅するか、しないか。照明を使うのか、使わないのか。そういった枠組みの段階から創作してもいいんだなと思うようになっていきました。パフォーミングアーツを通してその豊かさを知っていったというか、少しづつ惹かれていきました。

——なるほど。それまでの活動は音源を作って、それをPA機材で電気的に再生して、ライブハウスでラップする、という一連の流れのものだったけど、そうではないことをしたかった?

そうです。というか、それしか知りませんでした。曲を作ってCDという複製をたくさん売って、それでライブに動員して、ライブの規模を大きくして、またCD作って、っていうループを積み重ねて、最終的に武道館に行く、ということが、僕には無理だなって気づいたんです。それは、いつか続けられなくなるなと思いました。そんなタイミングで、蓮沼執太くんのプロジェクトに参加したり、U-zhaanさんがやっているインドの古典音楽に触れたり、ダンサーの島地保武さんからヨーロッパのモダンダンスについて学んだりして、いろいろなやり方や道があるんだってわかっていったんです。