フライング・ロータスやサンダーキャット、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーらに多大なる影響を与えた日本のゲームミュージック。その歴史を紐解くコンピレーション・アルバム 『DIGGIN IN THE CARTS』が、ダブステップ〜ベースミュージックの発信地でもあるイギリスのレーベル〈Hyperdub〉からリリースされた。

もともと本作は、2014 年にレッドブル・ミュージック・アカデミーが公開したドキュメンタリー映像『DIGGIN’ IN THE CARTS』を発端に作られたもの。ゲーム本体の文脈から切り離し、「音楽」そのものの魅力や独創性に焦点を当てセレクトされた全34曲は、ゲーマーでなくても楽しめること必至だ。

Diggin’ In The Carts – Series Trailer – Red Bull Music Academy Presents

それにしても、日本のゲームミュージックがここまで独自の進化を遂げたのは何故だろうか。世界中のクリエーターを虜にする魅力は一体どこにあるのか。〈Hyperdub〉の主宰者であり、本作の監修者でもあるKode9に話を聞いた。

Interview:Kode9

【インタビュー】〈Hyperdub〉主宰・Kode9。ゲームミュージックの歴史を紐解く『DIGGIN IN THE CARTS』を語る kode9-feature1-700x467

──あなたがニック・ドワイヤー監督によるドキュメンタリー映像シリーズ、『DIGGIN’ IN THE CARTS』に関わるようになった経緯はどのようなものだったのでしょうか。

監督のニック・ドワイヤーとは、2006年にメルボルンで開催された<Red Bull Music Academy>で出会って、そのときに取材のオファーを受けたんだ。何故なら、〈Hyperdub〉に所属するアーティストの多くが日本のゲームミュージックに影響を受けているからね。例えば、日本人アーティストのQuarta330は勿論、ダークスター、Zomby、アイコニカ……等々。僕自身も、ゲームミュージックをサンプリングしたことがあるしね。そういったことがニックの耳に届き、依頼が来たわけなんだ。

Zomby – With Love (Official Video)

──そもそもあなたは、どんなきっかけでゲームミュージックに出会ったのですか?

小さい頃、アーケードゲームで遊んでいたときに耳にしたのが最初のきっかけかな。本格的に聴くようになったのは、2005年から2006年の間。いわゆる“ゲーマー”としてではなく、サンプリングのネタ探しのためにゲームミュージックのコンピレーション・レコードを沢山買ったんだ。楽曲集だけでなく、サウンドエフェクト集のようなものも含めてね。

──具体的には、どんな影響を受けています?

基本的に僕の作るトラックはロー(低域)を思いっきり効かせているため、他の帯域の音色が埋もれてしまいがちなんだ。そのヌケを良くするため、カラフルなシンセ音やエキセントリックなメロディが必要だと思ったとき、サンプルネタとしてゲームミュージックはピッタリだなと思ったのさ。

──日本のゲームミュージックを、シーンの中でどのように位置付けているのでしょうか。

僕が思うに日本のゲームミュージックというのは、日本固有のユニークなエレクトロミュージックだと思う。つまり、ハウスやテクノ、ジャングルといったジャンルと並んでカテゴライズされるべきだと。何故なら、「ユニークな音色を持った特別なエレクトロミュージック」だと思うし、そこから影響を受けた西洋のエレクトロミュージックは数えきれないほどある。さらに、そこから日本のゲームミュージックに与えた影響も数限りなくあるね。そうやって、相互に刺激を与え合いながら進化してきたのだと思うよ。

──『DIGGIN’ IN THE CARTS』のラジオ番組に出演したサンダーキャットは、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』、『Mortal Kombat』、『ストリートファイターII』をフェイヴァリットに挙げ、『DIGGIN’ IN THE CARTS』でフライング・ロータスは、ゲームミュージックの魅力を語っているそうですが。そういったクリエーターが日本のゲームミュージックを支持する理由も、あなたと同じだと思います?

同じ部分もあると思うね。ただ、彼らは僕よりも実際にゲームをやり込んでいると思うね(笑)。そこでサウンドトラックとしてその音楽に惹かれたり、ゲーム自身にも愛着があったり、そこからもインスピレーションを受けているはずだよ。

Flying Lotus – Post Requisite

Thundercat – ‘Tokyo’ (Official Video)

──例えばYMOや冨田勲など70年代の日本の電子音楽への造詣も深い?

その辺りを掘るようになったのは、実は5年ほど前からなんだ。『FAIRLIGHTS, MALLETS AND BAMBOO』という、1980年から1986年までの日本のエレクトロミュージックを集めたDJミックスがあってね。監修はヴィジブル・クロークスのスペンサー・ドーランがやっているんだけど一言でいうと “オーガニック”と“シンセティック”の融合……具体的にいえば、80年代に一世を風靡したYAMAHA DX7と、日本の伝統的な音楽をミックスしたサウンドスケープに、ものすごく感銘を受けたんだ。そこから、例えば坂本龍一や細野晴臣のソロ、ムクワジュ・アンサンブル、ロジック・システム、清水靖晃などを聴くようになったんだ。

細野晴臣/悲しみのラッキースター 【MUSIC VIDEO】

Yasuaki Shimizu – Bach-SaxOrgan-Space

──彼らのサウンドは、ゲームミュージックにも通じるところがあると思いますか?

うーん……同じ時代のエレクトロミュージックという共通項はあると思うけど、直接的に通じる部分はあまりないと思うね。ゲームミュージックというのは、いわば「リミテーション=制限」の中で生まれた音楽なんだ。時間も決まっていれば、使われるシーンも決まっている。勿論、音色も決まっている。その中で、「いかにエキサイティングな音楽を作るか?」ということに知恵を絞りつつ、あくまでも「ゲームありき」の音楽であること。そこが大きな違いだと思うね。

──なるほど。それがゲームミュージックの定義ともいえますね。あなたは自分の作品に、あえて制限を加えて創作する事もありますか?

あるね。最初にシンセやドラムの音色を決めてから、トラックを作り始めたなんてことは過去にやったよ。ただ、ゲームミュージックの作家たちと私が違うのは、彼らにはそれしか選択肢がなかったということなんだ。「あえて制限をかける」のと、「最初から選択肢がない」のとでは、やはりスタートラインが違うと思うね。