──なるほど。では、今回のコンピレーションCD『DIGGIN IN THE CARTS』の監修はどのように行われましたか?

まず、ニックがドキュメンタリーとラジオ番組の制作をするにあたって、ものすごい数のゲームミュージックを集めたんだ。確か20万曲だったかな(笑)。その中から200曲に絞って僕に送ってくれたんだよ。さらにそこから2人で厳選したのが、今作に収録された34曲なんだ。セレクトする際に心がけたのは、「いわゆるグレイテスト・ヒッツ的な内容にするのはやめよう」ということなんだ。なぜなら、もともと「ゲームありき」で作られたゲームミュージックの場合、ゲームがヒットしたからといって、その音楽も良いとは限らないからね。名作といわれるゲームの中から音楽を選ぶのではなく、ゲーム作品の文脈から切り離し、「一つの楽曲」として聴いた時に「クール」と思える楽曲だけを選んでいったんだよ。

──その「クール」の基準は、どういったものでしょう。例えば「フロアで鳴らした時に気持ちいい」とか、「とことん前衛的である」とか、切り口は色々あると思うのですが。

とにかく、「僕の好み(my taste)」で選んでいっただけで、DJとしての自分が、フロアでかけた時にどう思うかについては全く考えなかったね。その点で言えば、さっき紹介したコンピ『FAIRLIGHTS, MALLETS AND BAMBOO』からの方が、僕は影響を受けていると思う。今回は、とにかく「聴いていて楽しい音楽」というのが基準だね。ビートが効いているものよりメロウなもの。そして、サウンドのクオリティが高いこと。シンセのパキパキ、キラキラした音もそうだし、何よりシンセやリズムマシンが“声を出して歌っている”ような楽曲に惹かれる傾向があったね。ざっくりいうと「メロウ」ということなんだろうね(笑)。

──特にお気に入りの曲は?

そうだなあ……(トラックリストを見ながら)コナミ矩形波倶楽部の“Opening”(『コズミックウォーズ』より)、新田 忠弘の“An-Un ‘Ominous Clouds’”(『サーク II』より)、まるでスティーヴ・ライヒのような、古代 祐三の“Temple” (『アクトレイザー』)あたりが特に好きだな。

──こうやってゲームの文脈から切り離され、純粋にトラックとして並んだ楽曲を聴いていると、ゲームを全くやったことない僕にとっては、ゲームとは全く関係ない映像が浮かんでくるのが不思議でした。

僕もそうなんだ。ここに収録されている楽曲のほとんどは、そのゲームがどういうものか全く分からない状態でセレクトしている。だから、その並べ方には僕の考える各曲へのイメージが投影されているんだろうね。

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──ところで、今夜あなたが出演するDJイベント<DIGGIN’ IN THE CARTS>で、アニメーション作家・森本晃司とのコラボするに至った経緯は?

イベントのコンセプトとして、ノスタルジックなものには決してしたくなかったんだ。ゲームミュージックを現在進行形の音楽として鳴らしたかったので、例えば80年代のあのピクセルの小さなアニメを流すとか、そういう“いかにも”な映像とは全く違う世界観を提示したかった。しかも、日本人のアーティストであり、『DIGGIN IN THE CARTS』の世界観、テクスチャを映像で表現してくれそうな人はいないか……と思って探していたところ、森本さんの名前が挙がったんだよ。僕もニックも、彼のことを勿論よく知っていたし、彼の描く「ネオ東京」のようなサイバーパンク感は、間違いなくリンクするだろうと。

──ロサンジェルスが初回だったそうですが、オーディエンスの反応は?

すごく良かったと思う。みんなとてもエキサイトしていたね。

──あなたはもう、何度も日本に来ていると思うのですが、日本のアニメやゲームミュージックが作り出す世界観は、日本、あるいは東京を象徴していると感じますか?

ある意味ではそう感じるね。例えば、デトロイトテクノはデトロイトの全てを表しているわけでもないし、ハウスもシカゴそのものというわけでもない。ジャングルもダブステップも、ロンドンの全てを象徴しているわけではない。それと同様、日本のアニメやゲームミュージックが日本や東京の全てを象徴しているわけではないと思う。とはいえ、日本人のクリエーターによって作られ、日本の機材や楽器によってアウトプットされた音楽は、それが例えばレゲエにしてもロックンロールにしても、そこには「日本らしさ」というものが確かに含まれていると思うね。

──そういう感覚って、日本に住んでいる日本人にはなかなか掴みにくいのですが、本作のようなコンピを聞くことで改めて気づかされますよね。「なるほど、海外で日本はこう映っているのか」と。日本を再発見できる面白さがある。

それは興味深い意見だね。確かに、第三者の視点によって、自分の姿に気づくというのはよくあることだね。

──最後に、今夜の意気込みを聞かせてもらえますか?

実は今夜のイベント、僕はとても緊張しているんだ。ラインナップの中で唯一日本人ではない僕が、日本人のオーディエンスの前で、日本の映像とともに、日本の音楽を、日本で流すわけだから(笑)。それをみんながどう受け止めてくれるのか、考えただけでもドキドキするよ……ガンバリマス(笑)。

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RELEASE INFORMATION

『DIGGIN IN THE CARTS』

2017.11.17(金)
V.A.
国内仕様盤CD BRHD038 定価 ¥2,200(+税)
ライナーノーツ/ステッカー封入
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RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO2017

text by 黒田隆憲
photo by 横山マサト