美しい夕暮れに包まれる野外ステージ、Evan Baggsによるスウィンギンなハウスと優しい笑顔に大歓声と拍手が湧き起こる。最終日のハイライト、長い間触れることさえ許されなかった音楽とパーティーと人とが再びひとつとなった最高の瞬間だった。
ポルトガル・リスボンにて初の開催となった<Sónar Lisboa 2022>は、大成功のもと幕を閉じた。そして、興奮も余韻も冷めやらぬ状態で早くも来年の開催が発表された。そんな<Sónar Lisboa 2022>の現地レポートをQetic独占にてお届けする。
Photography:FILIPA AURÉLIO
ローカル愛溢れるエレクトロニックミュージックとテクノロジーの祭典
ポルトガルと言えば<Boom Festival><Secret Project Festival><NEOPOP Festival>などをはじめとする多数のビッグフェスが開催され、特に、トランス、テクノシーンが根付いている国だ。そのため、<Sónar>の開催が今年初というのは意外だったが、コロナが収束した直後の開催地としてリスボンは最適だったのではないだろうか。フェス規模の大型イベントを待ち望んでいたのは、私たちオーディエンスだけではない。何より、オーガナイザーやアーティスト、フェスに関わるすべてのスタッフの熱意が充分過ぎるほど伝わってきた。
<Sónar>は、スペイン・バルセロナを発祥の地とし、同名を冠したフェスを20カ国以上34都市にて開催してきた。2011年には東京のSTUDIO agehaにて<Sónar Sound Tokyo>として開催されている。リスボンでは、市内のランドマークを会場に4月8日から10日の3日間に渡り開催され、観光名所や歴史的建築をフェスのために贅沢に利用していることに驚いた。
Photography:FILIPA AURÉLIO
私個人のベストアクトとベストべニューを言うならば、2日目の夜、Coliseu dos Recreiosにてパフォーマンスを行ったFloating PointsとBICEPに一票を投じる。Coliseu dos Recreiosは、1890年に建てられた歴史的な円形劇場で「リスボン・コロシアム」とも呼ばれており、コンサートホールとして利用されている。中央に設置されたステージからは会場内を360℃見渡すことができ、上品な赤いベルベットの観客席、上階にはゴールドの装飾が施されたバルコニー席、アンティークライトが映えるブルーの天井。どれをとっても圧巻の美しさだった。
Floating Pointsは、3月に〈Ninja Tune〉から“Vocoder”に続いて“Grammar”をリリースしたばかりで、<Sónar>のステージでも披露してくれた。決して一つのジャンルにカテゴライズできない独自のサウンドが魅力のFloating Pointsだが、これまで見てきたどのDJプレイよりもフロアーにフォーカスしたアグレッシブなセットは感極まるほど完璧だった。ブレイクビーツを保ちながらUKガラージ、ハウス、テクノを自在に操り、トリッキーなシンセ音がコロシアム中に鳴り響き、オープニングからラストまで1トラックも聴き逃さずに無心で踊り続けた。
– SoundCloud –
Floating Points
Photography:FILIPA AURÉLIO
休む間もなく、LEDライトがソリッドに客席を突き刺す中で始まったのがBICEPのライブだ。UKガラージ、90年代を彷彿させるオールドスクール、エモーショナルなボーカルトラック、トランシーなシンセが入り混じり、どこかレトロでありながら煌びやかな世界を構築。マット・マクブライアーとアンディ・ファーガソンの2人は、向き合った体勢でリズムを取ることも、腕を上げることも顔を見合わせることもなく、ただひたすらクールに音を放つ姿も印象的だった。フェイバリットトラック“ATLAS”をライブで聴けたのは嬉しかった。
BICEP|ATLAS
滞在していたホテルに程近く、最も足を運んだ会場が、25ヘクタールもある広大なエドゥアルド VII デ・イングラテーハ公園を突き抜けた先にあるPavilhão Carlos Lopesだ。1922年に建てられたバロック様式の美しい建築の中には巨大なメインステージ、物販ブースなどがあり、他の会場にはない唯一の野外ステージとフードエリアも同じ敷地内に設置されていた。
初日のお目当てはArca。大歓声と神々しいライトとともに登場したが、アキバのメイド衣装に黒髪ロングヘアーで一瞬誰か分からなかった。ノンバイナリーでトランスジェンダーであることを公表している妖艶な美青年は、より“女性”になることを決意したようだ。サウンドもより奇妙でアブストラクトに変化していた。個人的にはインダストリアルで不気味なArcaワールドを期待していたが、メイドの衣装のまま激しいビートにラップを乗せたレゲトンサウンドに圧倒された。
Photography:MartaSantos
2日目は、惜しくもThundercatのライブを逃してしまったが、Nicola Cruzのライブを初めて体感することができた。彼のルーツである土着的なラテンサウンドをベースに、軽快なビート、うねりの利いたグルーヴが心地良く、フロアーの熱気とともに高揚感が増していった。
Photography:MartaSantos
Pavilhão Carlos Lopesからは少し離れた場所にあるCentro de Congressos de Lisboaでは、テクノのドリームチームが連日出演していた。ミニマル界の帝王Richie Hawtinがタッグを組んだHéctor Oaksとの共演が気になっていた。Héctorはベルリンを拠点とし、TresorやトビリシのBassianiのレジデントを務めるテクノDJだ。どんなセットになるのか楽しみにしていたが、向き合った姿勢でヴァイナルでのB to Bは、一気に90年代へと飛ばされた。
Plastikman名義でのソリッドなミニマルをPRADAに起用し続け、最近では、Chilly Gonzalesとの異色のコラボレーションでも話題となっていたが、原点回帰だったのだろうか? <Sónar>の設立当初から30年近くに渡り、レギュラー出演してきた王者の貫禄を見せつけた夜となった。
Photography:DIOGO LIMA FRAMEKILLAH
海に近いこともあり、風が強く、天気もそこまで良好ではなかったが、カラッと晴れた最終日の夕暮れは本当に美しく、同時にフェスが終わりに近づいていることを物語っていた。来年もまた同じ場所で歓喜に満ちたオーディエンスの一部になれることを心から願っている。
CHARLOTTE DE WITTE
Photography:DIOGO LIMA FRAMEKILLAH
LEON VYNEHALL
Photography: FILIPA AURÉLIO
Photography:LaisPereira
※「Sónar Lisboa 2022」スペシャル企画の第一弾としてお届けしたオフィシャルスポンサー「Oyaide NEO」と「enoaudio」のインタビューも合わせてご覧下さい!