握手と乾杯は揺るぎない。
オリジナルの音楽・言葉・声を武器に、その2人の男は全国各地のヘッズを唸らせ、輪を広げてきた。
広島県出身のMC、MULBEが2022年3月にリリースしたセカンド・アルバム『LIFE GOES ON』。この作品は、長野県松本のラッパー/プロデューサー/DJ、MASS-HOLEが昨年発表したアルバム『ze belle』に大きく感化されたという。
人生は続く──喜劇的にも悲劇的にも意味を汲み取れるタイトルの本作には、出会いと別れ、喜びと悲しみ、愛と自責、あらゆる感情が込められた物語の数々が収録された。MASS-HOLEはその物語の口火を切り、また幕を落とす役割を務めている。
作品にとくべつな命を吹き込むものとはなにか。アルバムをクラシックたらしめるものとはなにか。INTRO・SKIT・OUTROが揃えられた近年稀に見る構成で、MULBEがこだわり抜いたアルバムには、そのヒントが多く隠されている。そして2020年発表のファーストアルバム『FAST&SLOW』で彼自身をプレゼンしたMULBEが、今作で表現したものとは。今回は『LIFE GOES ON』に秘められたストーリーに迫るべく、本作の立役者であるMASS-HOLEを迎え、〈WDsounds〉のLIL MERCY aka. J.COLUMBUSとともに話を伺った。
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MULBE “NO MATTER WHAT feat. ISSUGI prod. 16FLIP” LIVE at clubasia APRIL 28 2022
INTERVIEW:MULBE × MASS-HOLE
──まず、お二人の出会いの話を聞かせてください。“GO HARD AND CHILL”で「出会いは渋谷のBALL」というリリックがありますね。
MULBE 2011年の<DISC-O-TECH>とかじゃないですかね。MEDULLAと自分がゲストでした。その前から、自分はMEDULLAを聴いてて、MASSくんのことを一方的に知ってました。ちなみにMEDULLAのことを教えてくれたのはあばれる君です。彼がCDを貸してくれて。
MASS-HOLE 俺もMULBEの名前はUMBとかで知ってたよ。BALLでは軽く挨拶して「ビートをください」とか、そういう話をしたと思う。そのときは長野に住んでたから、東京でメンバーと合流してライブをやってた。余談だけど、その日はASIAでISSUGIくんとかもライブしてて。だから、その前にISSUGIくんやSORAくんと会ったりしてたんだ。そのあとBALLに行った。BALLははじめてで、小箱であたたかい、こんな場所があるんだって思ったのを覚えてる。その次に会ったのは福岡で、BASEが閉まるとき。MULBEはD.D.SとN.E.Nで来てた。そのとき、MULBEとD.D.Sは突っ張ってて……(笑)。
MULBE やばいっすね(笑)。パーキングで話しましたよね。
MASS-HOLE それで泊まってる場所に行ったりしてね。
──お互いの音源を聴いたり、ライブを観て、どういう印象を持ってましたか?
MASS-HOLE 塊的なアツさのヒップホップをやってるってイメージだったかな。
MULBE MASSくんのMEDULLAとかランキャン(RAMB CAMP)に入ってる曲を聴いてたんですけど、良い意味で捻くれたヒップホップ。
MASS-HOLE いまみたいにストレートなヒップホップはやってなかった。
──そのころの音楽シーンのなかで、自分たちの音楽はどういう位置付けだったと記憶していますか?
MULBE まだトラップ・ミュージックは流行ってなかったですね。そのころは<HOT POT SPOT>にMEDULLAやBLAHRMY、ダイナリ(DINARY DELTA FORCE)、降神、MSCも出てたり、アンダーグラウンドさは感じてたかな。
MASS-HOLE MSCは先輩なんだっけ?
MULBE PRIMALさん、O2さん、GOさんが高校の先輩。歳はかなり離れてるんですけど、先生が一緒なんですよ。仏教の高校なんですけど。
MASS-HOLE まじで(笑)。
MULBE MUSSOさんが裏方をやってたときに、漢(a.k.a. GAMI)さんの『導~みちしるべ~』(2005年)とかMSCの『新宿 STREET LIFE』(2006年)を先生に紹介していて。職員室に連れて行かれたとき、先生が机の引き出しをバーンと開いたら、CDが超入ってたんですよ。たぶん、MUSSOさんがヒップホップ好きな人に渡してくれって伝えてて。それから、<HOT POST SPOT>とか恵比寿MILKに行った。これだけ知ってるからって、応募して、当選して“暴言”(2006年発売「Libra Recordのコンピレーションアルバム”天秤録音”」初回盤応募特典として、抽選100名にプレゼント。のちにDJ BOBO JAMES a.k.a, D.L.監修のコンピレーション『HARD TO THE CORE』に収録)を送ってもらってます。MUSSOさんに後から聞いたら「お前だろ?」って、分かってくれてましたね。
MASS-HOLE PRIMALさんのMVにも出てたよね?
MULBE 出てますね。“武闘宣言”(『眠る男』収録)に。俺の中で(彼らは)アンダーグランドで、カッコいい人たち。
武闘宣言/PRIMAL
──MULBEさんの音楽からは強くアンダーグラウンド・ヒップホップを感じます。ヒップホップに惹き込まれた初期衝動を後押ししたものはありますか?
MULBE チャランポランしたヒップホップよりもカッコいいと思ったのは確かです。確実に影響されてます。JUSWANNAに連れて行かれたとまでは行かないけど、彼らの存在は大きいですね。
──ちなみにMASSさんはどうですか?
MASS-HOLE 1996~7年、ヒップホップにハマり出したときは雷とかがアツかった。先輩的な人は地元にいないんだよね。二十歳くらいのとき、シーンにハマらなくなって、アブストラクトやブレイクビーツを聴き始めたりもした。そのなかで唯一反応したのが、当時WENODで買ったILL SLANG BLOW’KERのCD。で、福岡に興味を持って単身で行って、FREEZさんの家に2週間くらい泊まらせてもらった。
MULBE それで仲良くなったんですか?
MASS-HOLE そう。そのとき、BUTTERFLYってBASEの前身の箱にFREEZさんとOLIVE OILさんがスタッフで入ってて、平日に2人でデカい音をガンガン鳴らしてた。自分がやりたいのはこういうのだと思って、またヒップホップに戻ってきたんだ。
──それから、長野を拠点に活動を続けてきたと。2人は音楽で全国各地を回って、現場でプレイヤーたちと繋がって、作品に落とし込んでますよね。MASSさんは昨年、MULBEさんは今年のリリースを振り返ってみてどうですか?
MULBE 音楽を通した人との繋がりなんですよ。CDショップやクラブにしろ、痕跡が同じなんです。北海道に行ってMASSさんのステッカーを見たりするのもそう。音で繋がってることを現場で目で確かめてる。
──MULBEさんは音楽を作るとき、共作する方の土地に行って作ってますよね。前回はコロナの影響があったとおっしゃってましたが、今作はどうでしたか?
MULBE 今作では、しっかりセッションをするというテーマがありました。前作はみんなでスタジオに入ったりできなかったから、今作では極力、隙間でもその土地に行って、作るようにしてました。FREEZさんとだったら、ライブの予定があるタイミングで福岡に。MIKRISさんも千葉でプリプロ(プリプロダクション)を録った。YUKくん(YUKSTA-ILL)だけ録って送ってもらいました。マーシーさん(LIL MERCY|J.COLUMBUS)とはこっちでやりました。鎮くん(鎮座DOPENESS)も東京でスタジオに入った。KINGPINZだったら、MASSくんの松本に。MASSくんのスタジオはやりやすかったです。
MASS-HOLE プリプロはすでにしてくれてて、1、2回録って終わりだったかな。すごい早かった。早い人だとこっちもテクニックがいるし、モチベーションが上がる。
MULBE 言い方が難しいんですけど、スタジオや機材はそれぞれ違うにしても、やってることは変わらないんですよ。俺のバックDJのRUFFが横浜にいて、FREEZさんが福岡にいても。機材は違うにしても、関係ない。それを超えるなにかがありますね。
──『LIFE GOES ON』には17曲が収録されていて、かなりの音源を各地のスタジオで録ってます。にも関わらず、アルバム全体にはしっかりとした統一感がありますよね。
MASS-HOLE ZKAさん(GRUNTERZ/BULL CAMP)の功績がデカいよね。
MULBE 間違いないです。いろんな場所で作ってますけど、MIXのZKAさんがまとめてくれている。MASSくんもZKAさんにやってもらってますよね。
MASS-HOLE そう。俺はビートを作ってラップもするけど、MULBEはラップ一本じゃん。聞きたかったんだけど、制作はどう進めてるのかなって。アルバムの流れはZKAさんと一緒に決めたの?
MULBE 基本的に自分で決めてます。イメージが変わったりするし、話を聞いて違うなってこともある。大まかには決めますけど、このビートはここにするとか、そういう決め方はしてないです。
MASS-HOLE 足りない部分を新しく作るとか、そういうことは?
MULBE 足りないことはないですね。足りてるものの中から揃える。揃えていく上で、“INTRO”、“SKIT”、“OUTRO”の役割は大きい。MACKAさん(MACKA-CHIN)とも話してたんですけど、“INTRO”、“SKIT”、“OUTRO”を作る若い奴はあんまりいないよって。でも、自分にとってアルバムを作るとなったらそこは重要なんです。だから今回、MASSくんが“INTRO”と“OUTRO”を担当して、RUFFが“SKIT”をやったのは、すごい意味のあることなんです。
──今回、MASSさんに“INTRO”と“OUTRO”をお願いした理由をあらためてお伺いしてもいいですか?
MULBE ファーストアルバム『FAST&SLOW』は自分の色でやったんです。ジャケットは村上さん(wackwack)でやって、自分はこういう人間ですと表現した。今作では、先輩たちにお願いしたんです。ジャケットはdaichiくん(〈Midnight Meal Records〉)にお願いして、ファーストに続きマーシーさんにサポートしてもらった。この作品は〈Midnight Meal〉や〈WDsounds〉、自分がフィールして一緒にやってる人の色。地元の色とかではないけど、そこを押したかった。だからMASSくんの“INTRO”と“OUTRO”は大事で、daichiくんがジャケットをやることにもちろん意味がある。
──燃えるような夕焼けのあとには、マジックアワーが待ち構えているし、どれだけ暗い夜でも、明けない夜はない。daichiさんが描いたジャケットからは、『LIFE GOES ON』のタイトルを捉えた、そんなメッセージが伝わってくるような気がします。その相談をされたときのことを覚えてますか?
MASS-HOLE 旧知の仲だし、もちろんOKって。俺も単純にカッコいい人たちとやりたいからね。悩む必要はなにもなかった。
MULBE “INTRO”と“OUTRO”で使わせてもらうなんて、贅沢だなって思ってます。もともと使わせてもらおうと思っていたビートでもあるので、本当はラップを乗せたい。でも、アルバムとして考えてるからこそなんです。
MASS-HOLE 前作と違って、ビートのバリュエーションも広くなってるし、BPMにも幅がある。熊井五郎さんのビートもあるし、MULBEに新しい風が吹いてるなって。
MULBE ビートでその色を見せられてるかもしれないです。ラッパー陣は繋がりが見えるかもしれないですけど、ビートには新鮮さが垣間見えるかも。
MASS-HOLE ビートシーンの色が強いものもあるし。
MULBE それも、MASSくんや〈Midnight Meal〉のパーティーに遊びに行って、いろんな音楽を聴くようになったんですよ。テクノもハウスも、ポップだってカッコいい。パーティに行くのはいつも楽しいですけど、もっと楽しめるようになった。変わりましたね。
MASS-HOLE どのパーティに行っても、自分たちで楽しんでる感じあるよね。
MULBE そのことを自分は今作のビートチョイスでアウトプットをしたところがありますね。アルバムの後半は特にそうです。
──アルバムというフォーマットを考え抜いてますよね。MULBEさん的にアルバムを定義するとしたら、アルバムに必要不可欠なものってなんだと思いますか?
MULBE クラシックと呼べる曲があるかないかじゃないですか? 自分は全曲ハズレなしという気持ちがあります。ヒップホップのアルバムだったら、どの曲がヤバいって話をされるような作品が良い。
──TRASMUNDOのラジオやプレスリリースで、今作を「ソウル・ミュージック」と言ってましたよね。今作を制作しているときに、ソウルを聴いていたのもその理由の一つだったと思うのですが、そのときに聴いていた愛聴盤はなんでしたか?
MULBE 忌野清志郎とかですね。あまりヒップホップらしいものは聴いてなくて、ソウル/R&Bをよく聴いてました。そのなかでもMASSくんプロデュースの“GO HARD AND CHILL”は、ヒップホップではなくソウル寄りの気持ちが強いかもしれないです。
MASS-HOLE あれはマーシーさんからの言葉に救われたという話だよね。どういう状況だったの?
MULBE 親父が癌で闘病してたんですよ。それで自分の精神的にも落ちたり、そういうタイプじゃないのに、一時期止まっちゃった。調子悪いときって、音楽も聴かないじゃないですか。移動中はいつも音楽を聴いてたのに、聴けない。そのタイミングでビートを聴いてもあがらない。
MASS-HOLE 俺とかも全然そう。気持ちが落ちてるときに音楽聴くって人もいるけど、聴きたくなくなっちゃう。あがってるときじゃないと聴けない。
MULBE ですよね。そのとき、マーシーさんからのメールに「GO HARD AND CHILLですよ」って書いてあった。その一文で上がった。後付けかもしれないですけど、ソウルっぽいかもしれないですね。それでも進んでいかないといけないということです。
──そういうときに上げてくれるのは人の言葉や出会いだったと。
MULBE 間違いなく、一人では無理です。だからこのアルバムは、絶対一人じゃない。
──アルバム制作を進めていく上で、“GO HARD AND CHILL”はかなり重要だったんですね。
MULBE はい。あと、落ちてるときにオヤジも死んじゃったんです。でも、それを思い出して書いたり、意外とそういうことをしてなかったなって。考えれば考えるほど「マジでクソだな自分」とか、なんも返せてないなとか思ったりもしたけど……いま、ラップをやってるんで。
MASS-HOLE 俺はアルバムの中で“I SEE”がすごい好きで。たぶんお父さんが亡くなったことや、イタガキさん(Mr.Itagaki a.k.a. Ita-cho)とかやリュウヘイさん(RYUHEI THE MAN)が亡くなったことも歌詞に落とし込んでる。そういう関係性とかも、聴く人が聴けば分かる。うちのDJ SIN-NO-SKEも同じタイミングでお父さんが亡くなって、SIN-NO-SKEがMULBEと話して「すげぇあったかい言葉いただきました」って言ってて。すごいヒップホップだなって。
MULBE “I SEE”はそういう曲でしたね。この曲は結構早くできてたんですよ。でも、なんかずるずるいっちゃって、最後にトドメじゃないけどオヤジが死んで。全部をリリックに書いてるわけじゃないですけど。
MASS-HOLE でも、次の曲の“DO FOR LOVE”では逆に「やべぇ、愛与えてんじゃん」みたいな(笑)。鎮くんのヴァースもめっちゃカッコよかったし。
MULBE 鎮くんにビートを渡すときにそういう話をしてて。鎮くんはなんでもできるテクニカルなMCだからこそ、内面を歌った鎮くんのヴァースを聴きたいし、俺もそういうの書くよと。愛がどうのとか、俺はそういうことを書いたことない。それをリリックでどう落とすか。曲を聴いて、鎮くんは超ラッパーだなって思いましたね。
MASS-HOLE 試練を与えられてるというか、そういう内容だよね。
──“I SEE”と“DAY DREAMING”はDJ SCRATCH NICEさんがプロデュースされていて。
MULBE 今回、メロウな部分でSCRATCH NICEくんから大事なビートをもらってます。
LIL MERCY “DAY DREAMING”に関しては、ビートをもらった後、SCRATCH NICEに作り直してもらってるんですよ。MULBEがこのビートで録っちゃいましたって連絡くれたんだけど確認したら、ビートが被っていて、SCRATCH NICEにリミックスのような形でお願いさせてもらいました。絶対ヤバいのが来る確信はあったけど、もっとすごいのが来た。リミックスみたいになって、すごい面白いなと。“I SEE”も最初に出来て忘れてるけど、そうだよね。あのやりとりも本当に感動の連続だった。
MASS-HOLE 深い関係性じゃないとできないことだよね。
MULBE ラップを乗せちゃったので、また作ってください、と。みんな一流ですよね。
──一曲一曲にあるストーリーが、アルバムの強度を裏付けていますよね。
MASS-HOLE MULBEのなかで、アルバムを作るうえでの最低限のルール、これは絶対外せないって条件は?
MULBE メロウでもドープでも、絶対に首を振れる音。自分の体感ではありますけどね。
MASS-HOLE ラップとかは?韻は絶対踏まなきゃいけないとか。
MULBE ないですね。韻を踏んでないけど、フローで踏んでるように聴こえるように書いたりします。ただ、別に囚われてはないです。あとマッカさんからのアドバイスで、ありきたりな単語は入れないようにしてます。NGではないけど、それ以外の表現を使う。それが、いろんなリリックが書けてる理由の一つでもあります。でも、あえて使うこともある。
MASS-HOLE それがメタファーみたいな感じになるよね。例えば「JAHの神へ着火 命のよう 短くなる段々」とかいろんな意味合いも含んでるから、面白いなって思ったんだよね。
MULBE 思ったことを書けるよう、言葉や韻は考えるけど、もちろん気持ちもある。セカンドは意識的に書き方が変わってるかもしれないです。
──クラシックが入ってるかがアルバムの要素であり、「ずっと聴き続けられることがクラシックの一要素だ」とも仰ってました。クラシックに必要な要素ってなんだと思いますか?
MASS-HOLE 流行ったものがクラシックってイメージがあると思うんだけど、そうじゃない。長く聴き続けられるとか、ふとしたときに聴けるのがクラシックだと思う。MULBEのアルバムはそうだから、これはずっと聴く作品なんだろうなって。
LIL MERCY MASSの『ze belle』とか、この先も聴いてるだろうなって作品は、各々が聞いてるプレイリストに入ってたらクラシックなんじゃないですか。だからそんな一枚になってたらいいなって。アルバム作りにあたってその気持ちがあることも、クラシックの定義だと思います。
MASS-HOLE みんなその考えは絶対ある。だけど、どっかで期日に間に合わせないといけないとか、作品から除いちゃう曲とかもあるかもしれない。この作品はどの曲もちゃんと方向がしっかりしてるし、ヒップホップの基盤の上でカマしてるからやっぱすごいなって感じたね。
──収録曲でMIKRISさんが客演している“BUPN UP”は「太い」とMASSさんが絶賛してたと伺いました。ヒップホップの「クラシック」の基準のなかで、「太い」ことも重要になってくると思いますが、「太い」って言葉にするとどういうことだと思いますか?
MULBE ヒップホップは太くて音がデカくないとって思いますね。それが絶対ではないですけど。
MASS-HOLE 太いってのは抽象的だけど、芯があって、ベースが強くて、ベースが硬い、ウワネタをワンループでも聞ける、とか。俺にとっては結構全体的な要素があって「太い」ってイメージなんだよね。“BURN UP”の構成はシンプルだから、それで2人のラップを乗せて完璧だった。太さだと、ナグくん(NAGMATIC)のビートもすげぇかっこいいと思う。ビートを作り続けてる人にしか作れない音を感じる。
MULBE そうですよね。ナグくんのビートはプリモ(DJ Premier)を聴いてる感覚に近い。超シンプルだけど、簡単には作れないんだよなって。
MASS-HOLE そうね。USの音を聴くのと同じ感覚になる。
──ビートメイクする人たちにしか分からない聴き方があって、ラッパーにはラッパーの聴き方があると思います。そう言った意味で、MASSさんが気になったビートはありますか?
MASS-HOLE 全体的に耳に馴染みやすいビートが多かった。熊井吾郎さんのビートは新基軸だなって思った。あのビートにMULBEと鎮くんのラップが乗ってるのも面白い。あと、マーシーさんとYUKくんがラップしてる、SG THE KOOLESTのビートの曲。アルバムの中にこういう曲が1つ入るとすごい映える。
LIL MERCY あのビートは俺も自分のEPに入れようかなって思ってた。でも、出しどころに悩んでいるなかで、遊んでるときに「このビートやばいよね」って聴かせてたら、MULBEが入れたいって言ってくれた。
MULBE マーシーさんから、マーシーさんとYUKくん、俺の3人ってイメージを聞いてたんで、その3人でやることにした。マーシーさんのアイデアがすごいです。マジで全員上手く落とし込んだ。全員が全員……スタイルにしろ、文字数見ても全然違うんですよ(笑)。〈WDsounds〉の色を出せてると思う。
MASS-HOLE 2LPのSIDE Cの3曲目みたいな。俺は一人のヘッズとしてこういうの好きだね(笑)。
──そういう曲があるのもアルバムの魅力の一つですよね。
MASS-HOLE こういう曲があるとメリハリがあって良いよね。
LIL MERCY この2つのアルバムは結構似てるじゃないけど、同じような空気を持ってるよね。『ze belle』もこれまでやってないトラックメイカーとやってたし、内容的にも本当に自分の見てる世界をラップしてるというか、外に向かって自分を表現してる。ある意味イケイケではないけど、自分の芯が出てる。それがヒップホップの一つの核でもあると思う。それに、ヒップホップはすげぇ聴き込んでるやつとか、自分たちでなにかを発見してるやつがいる。この2枚のアルバムは自分たちで発見できる面白さがある作品だと思う。
MULBE MASSくんの『ze belle』は、純粋にヘッズとして聴ける。TATOWINEのビートがヤバい。じゃあTATOWINEって誰? みたいな。繋がりの窓口になってる。
MASS-HOLE – ze belle
MASS-HOLE “tour life”って曲で広島行ったときのことをリリックに入れたりしてるけど、そういう繋がりもあって、『ze belle』と『LIFE GOES ON』はやっぱ地続きだと思うんだよね。俺とMULBEのアルバムで2枚組みたいな。
MULBE MASSくんのアルバムはめちゃくちゃデカいです。MASSくんの“INTRO”の次にTATWOINEがプロデュースした“DEAL”を持ってきていることも、その通りの展開です。
MASS-HOLE お互いのことを知ってなきゃできないことだよね。純粋に嬉しかった。『ze belle』で使ったビートメイカーを『LIFE GOES ON』で使うことになったときも、ビートメイカーだったらすごい上がる話だと思う。そういう広がりはこれからもっと多くなっていくだろうし、ガンガン行ってほしい。
MULBE 前よりも良い意味で自分の意識が広くなったかもしれないです。MASSくんやマーシーさんがやってたら良いというか。最初は警戒心があったかもしれないけど、遊んだことがなくても、どういうビートなのか聴いてみたい。
LIL MERCY あと、2人とも昔は突っ張ってる印象があったけど、お互いのセカンドアルバムに関しては、自分の歌ってることでも、他人が聴いて共感できる、自分の経験に当てはめられるようなリリックがお互い増えてきたと思うんですよ。“I SEE”とかは特にそうだと思う。
MULBE 今回の作品で、いろんな人が聴けるように意識して作れるようになったかもしれないです。それはMACKAさんの言葉がデカいんですけど、ヒップホップ以外にもいろんな音楽が好きな人が聴いてくれるか。“DO FOR LOVE”はあらゆる意味で、聴きやすさを意識していました。
MASS-HOLE そのことでいうと、ISSUGIくんと前話してたのは、仙人掌がレコーディングしてるとき、目の前の誰かに歌ってるようだと。今まで作った曲で、そういうことを全然感じたことがなくて、いい勉強になるなって思った。
──サウンド面でも、リリックの面でも、他者の存在を意識的に取り入れることが、共感を生むということですよね。
LIL MERCY あと、全部が全部そうではないけど、アンダーグラウンドの音楽やシーンってクローズドになりがちというか。それは、ヒップホップであることにお互いのこだわりがあるからでもあるんだけど。2人もそれぞれのこだわりが思うんだけど、それをどう表現してるのか聞きたい。
MASS-HOLE 10年前と同じ表現方法だとダメじゃん。表現は進化しないといけないと思う。その進化が結局内面に向き合うことであれば、性格が優しくなったとか柔らかくなったとかじゃなくて、深みなのかなって思ったりはする。
MULBE ヒップホップは絶対レペゼンしてラップする。でもヒップホップではないジャンルでラップを乗せてより遠くの人に届けるラッパーをカッコいいなって、いまは思える。自分たちには、いわゆるブーンバップのイメージがあるけど、他の音楽も好き。良い意味でも悪い意味でも、ヒップホップの村を出ないと、どうしても固まってしまうじゃないですか。ヒップホップという一個飛び抜けた音楽性を持ってるからこそ、違うジャンルの村に行ってラップをかますべき。そのマインドが生まれました。
MASS-HOLE 松本にBack Channelのツアーで来たとき、MACKAさんに「最後に残るのは音楽好きなやつだから。それだけは頑張ってやってくれ。ずっと好きで居続けてくれ」って言われた。今回のアルバムだって、最終的にはMULBEは音楽を超好きなんだってメッセージだと思うんですよ。音楽を聴きたくないときもあるけど、やっぱ最終的には救われてるからね。
──最後に、活動していくことについてお伺いしたいです。1stのミックスは『MOVE』で前作は『FAST&SLOW』、今作は『LIFE GOES ON』で、これまで発表してる作品のタイトルには全部「動き」が入ってますよね。とにかく動き続けてる。落ちるときもあったけど、ずっと動き続けてる。それに、かなり短いスパンで出していて、すごいと思います。
MULBE 嬉しいです。でも、必然的なことでした。たぶん昔だったら難しかったかもしれないけど、止まることなく動き出してる。
──MASSさんも自身のプロダクション〈DIRTRAIN〉でかなり頻繁に作品をリリースしていますよね。最近だと、MIYA DA STRAIGHTとEFTRAのEPを発表した。両EPともアートワークをdaichiさんが手掛けていて、そのアートワークは作品を組み合わせると繋がるようになってる。あれは完成する絵があるということですか?
MASS-HOLE あと残り2人いる。それを出して4枚で完成かな。年内には、BOMB WALKERの作品を出そうかなと思ってて、タイミングを見てからMAC ASS TIGER。地元が近い奴らのリリースが多かったから、そこで感化されてレコーディングしたり、制作の方に入ってる。結構いい動きかなって。それと、エグいやつでます。俺のビートで、EFTRAフィーチャリングLUKAH。Cities Avivともやってるメンフィスのラッパーですね。ラップまじヤバかったです。これはマーシーさんがいるから出来る話だね。
MASS-HOLE starring EFTRA & LUKAH “AVALANCHE” OFFICIAL AUDIO
MULBE それは人の繋がりだから、MASSくんだから出来ることでもある。ミヤ(MIYA DA STRAIGHT)のアルバムはナグくんが全曲プロデュースしてるけど、それは〈DLiP RECORDS〉の信用がないと絶対出来ない。ナグくんもMASSくんやミヤへの信頼があるからやってる。MASSくんたちのその動きは地方に地元がある人にすごく良い影響を与えてると思います。MASSくんみたいにフックアップすることはすごい大切。
MASS-HOLE 結局、自分の足で稼いでるからね。
MULBE はい。この足を使って目で見てきたものと一緒に遊んできた人、乾杯してきた人は揺るぎないです。握手と乾杯は揺るぎないですよね。
一同 (笑)
──MASSさんがプロデュースしてるMEGA-Gさんの“Rhyme and reason”という曲があります。MEGA-GさんはMULBEさんも近い関係にある人物だと思いますが、この曲ではラップをする理由を再確認しながら、ヒップホップを続けているすべてのプレイヤーへ宛てた讃美歌ですよね。
MULBE まさにその通りで。年はみんな違うけど、俺はその上の人たちを見てきた。その人がどんな状況でもやってるんだから、続けるしかない。そりゃ続けないといけないし、越さないといけない。そのマインドはずっと持っていたい。売れてるとか売れてないじゃない。ちょっとでも止まったら心配されるし。それと、MASSくんたちが若い世代をフックアップしてるように、今と昔と違うのは、下の奴らも一緒に、この先ずっと続けていけるようになって欲しいなって思うようになりました。
MASS-HOLE 音楽以外の仕事で食べてる人も、ヒップホップとか好きで、B-BOYでってのは多分変わらないんだよね。大体がいま、家庭を持って仕事してる。それでも、活動を続けていくと……友達増えるよみたいな(笑)。いまだにその輪が広がっていくのは財産だと思う。
──MASSさんはその輪を広げる重要な場として自身のショップを持たれる予定だと(「DA POINT 117」が10月1日にオープンした)。
MASS-HOLE みんなで溜まれる場所を作っていて、それが終わり次第、BOMB WALKERとMAC ASS TIGERのEP、あと1枚、地元勢集めたコンピを作ってる。それは自分が全部ビートを作ってラップもして、そのあとまたEPを出す。そのEPではビートを集めてる。
MULBE 自分も毎回、作品を作ってる途中で次に作りたい作品のイメージが出てきます。これからはライブの完成度を上げてツアーを回って、その間にまた作品のことを考えたりとか。EPを作ってみたりでもいい。音楽のアウトプットをどうしようかなって。
MASS-HOLE EPレベルでもまたやりたいね。やるからにはぶちかますよ。
INFORMATION
MULBE『LIFE GOES ON』
2022.03.23(水)(CD・デジタル)
P-VINE, Inc./THINK BIG INC./WDsounds
Tracklist
1. INTRO pro. MASS-HOLE
2. DEAL pro. TATWOINE
3. BORDER LINE pro. NAGMATIC
4. BURN UP feat.MIKRIS pro. MASS-HOLE
5. NO MATTER WHAT feat.ISSUGI pro. 16FLIP
6. MIDNIGHT NAVY pro. B.T.REO
7. FLOW pro.RUFF
8. ラフに feat.FREEZ pro. LAF
9. SPECIAL pro. 1co.INR
10. SKIT pro.RUFF
11. 4ALIVE feat.YUKSTA-ILL, J.COLUMBUS pro. SG THE KOOLEST
12. GO HARD AND CHILL feat. KINGPINZ(MASS-HOLE&Village O.G)pro. MASS-HOLE
13. DAY DREAMING pro. DJ SCRATCH NICE cut by RUFF
14. I SEE pro. DJ SCRATCH NICE
15. DO FOR LOVE feat. 鎮座DOPENESS pro. 熊井吾郎
16. LIFE GOES ON pro. 呼煙魔
17. OUTRO pro. MASS-HOLE
MULBE
『I SEE/NO MATTER WHAT feat.ISSUGI』
P-VINE, Inc./THINK BIG INC./WDsounds
仕様:7EP(完全限定生産)
発売日:2022年9月21日(水)
品番:P7-6282
定価:1.980円(税抜1.800円)
TRACKLIST
SIDE-A I SEE pro.DJ SCRATCH NICE
SIDE-B NO MATTER WHAT feat.ISSUGI pro.16FLIP
DA PONIT 177
MASS-HOLEが信州・松本にオープンしたにSHOP兼OFFICE。
長野県松本市城東1-1-7 2F(The JB’s 2F)