Think local,act global
大和桜酒造の案内の表紙にはそう描かれている。
直訳すれば「現地で考え、地域にあわせて行動し、グローバルの仕組みを活用する」
バックミンスターフラー等の格言から更に踏み込んだ発想で、古い慣習を敬いながらも真っ当に世界を見据えた焼酎蔵。
「よか晩」と描かれた黄色いバッジを配り、大事な人とおいしい食事とお酒を囲んで過ごす時間“よか晩”(楽しい夜)が増えればと、ただお酒を売り込むようなこともしない。
「焼酎の飲み方はロックかお湯割り、水割りで」な頑固さもなく、『新鮮な地元の芋を用いて一回しか蒸留しない本格焼酎はとても ナチュラルな飲み物』と言いきる。
『炭酸で割っても、カクテルにしても何でもOK。5:5で割ればワインと同じ度数に、5:1で割ればビールと同じにもなるし、うちの焼酎は割っても負けないしね』と笑って答えるその物腰に、僕らは一晩でファンになった。
大和桜杜氏 若松徹幹さんは大和桜酒造の五代目当主であり、二児の父であり、そして本土最南端の生粋のフリーソウルDJでもある。
徹幹さんは、大学進学の為に上京し卒業後、広告代理店へ勤務。
2005年に帰郷し、家業である大和桜酒造の杜氏として伝統的な「手造り」「全量甕壷仕込み」を踏襲しながら、斬新な商品企画を展開している。
僕らの主催している<AllMyRelations>に旧知の友人がおり、7月のゲストとしてお呼びした際に大和桜をいただき ながらお話を伺った。
2005年の焼酎ブームのさなか、勤めていた渋谷宇田川町界隈で文字通り浴びるように芋焼酎ばっかり飲んでいた自分に、レアグ ルーブ的解釈で響く徹幹さんのプレゼンテーションは、まるでジャイルス・ピーターソンやパトリック・フォージのDJを聞いてJAZZ やSOULを再定義されたように衝撃的だった。
そんなイベントの際に伺った鹿児島の魅力、文化の豊かさを体感すべく、僕はこの夏に鹿児島を訪れることにした。
大和桜酒造は鹿児島市内から電車で約1時間弱のいちき串木野市にある(※)。
今は原料であるさつまいもの収穫前で実際の製造は行われていなかったが、丁寧に蔵を案内していただいた。
甑を使って米をていねいに蒸し、洗米もすべて手作業。原料の麹は自然換気の中、むろ蓋と呼ばれる木製の箱で少量ずつテマヒマかけてつくりあげる。
徹幹さん曰く「手をかければかけるほどに、手を抜きたくなくなるでしょ。昔ながらの製法で作っている事が決して偉いわけじゃない。それを守り、続ける事が大切」と、自らのモチベーションを高め、真摯に焼酎をつくりつづける。
『大和桜』の名は、江戸時代の国学家である本居宣長の和歌「敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」に由来しているそうだ。
咲いてさっと散る桜ではなく、冬の寒さに耐え、早春の深山にあって佳麗に咲き、朝日に映える山桜。その名の通りの造りが代々守り続けられているのだと思った。
造りに対して、そして自然に対して真摯に向き合って、その結果、自然と経験と技術の調和するポイントを見つけられてるんだろう。
飲んだ時にホっとして腑に落ちる味だと感じた理由がわかった気がした。無理に味を作ろうなんてことをせず、在るべきものを在るべき形に変化させていく、とってもナチュラルな姿勢。
話をききながら、その伝統と革新のバランスにフリーソウルのDJとしての徹幹さんの一面を感じた。
一時的な流行ではなく20年経っても30年たっても決して色あせない数々の楽曲を再定義し、革新の裏側で伝統へのリスペクトも 忘れない。
飲めば(聴けば)つくった人の心が届く。味わえば(知れば)つくった人の顔が浮かぶ。懐しくて、ホッとする味(音)。
音楽と焼酎と鹿児島、色々なことが線になってつながる。徹幹さんのお話は本当にDJを聴くようで楽しかった。
大和桜酒造
(※大和桜酒造さんは広く一般に蔵を公開されているわけではありません。今回お伺いするにあたり、事前にご都合などをお伺いして許可を頂き案内して頂きました。)
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