from
五十嵐ソフィー

幼い頃、黒板というものにある種のロマンを感じていました。
あの深い緑を見ると胸がぎゅるるとうごめくのです。

小学校に上がる前、歳の三つ離れた姉がいる私ですので、
どうも彼女の暮らしが気になります。

小学校にはそれはそれは大きな黒板があるのだとか。
その黒板を初めて間近で見たときは、うすら土が香るような。
そっと手を当ててみると、木に触れているような温もりも感じて。
とっさにチョークに手を伸ばし、目一杯黒板に押し当てました。
するとその瞬間、ほろほろと力なく砕けていくチョークのありさまは
幼き私の好奇心をみるみる恐怖へと変身させ、それから10年ばかり、
どうしても黒板というものには安易に触れてはいけないような。
尊ぶと同時に畏れのようなものをとりまとう私なのでした。

記憶。あのほろほろと崩れ落ちるチョークの姿。
今になってあれを見ても、変わらず胸を締めつけてくれるのでしょうか。
わずかばかり鈍さをたたえた感受性の変化に、年々寂しさを覚えます。