まずはじめに、この企画に賛同、参加してくれた友人であり、尊敬するアーティストの皆さん、サポートしてくれた友人に心からお礼を言いたいです。本当にありがとうございます!!

新型コロナウイルス感染症防止のため、Berghainが閉鎖するという前代未聞のニュースがSNS上に駆け巡り、そこからベルリンがロックダウン状態となるまではほんの一瞬の出来事だった。まさか、リアルなエンターテイメントに触れることが出来ない生活がやってくるとは思いもしなかった。4月21日の発表では、ローカルクラブは7月末までクローズ、フェスに至っては8月末となっており、その後、レストランやカフェは営業再開となったが、バーやクラブは許可が下りないままである。それ以降も再開されるという保証はなく、その事実に打ちのめされそうになりながら、それでも僅かな希望を探し、未来を思い、同企画を実行することを思い立った。

ベルリンには日本人アーティストだけでも数え切れないほどいる。中でも、今回インタビューに協力してもらった4組のアーティストはジェットセッターのように世界を飛び回り、それぞれの活躍を毎日のようにSNSで目にするのが日常だった。それが今では年内のスケジュールが空白のままになっている。そんな非常で異常な状況の中、今の心境を語ってもらった。

第一回目は、サウンドアーティストKyoka、そして、バイオリニストの山根星子の2名の女性アーティストをゲストにお迎えして、制限内における可能な範囲でインタビューを行った。貴重な動画メッセージとともにぜひご覧下さい。

まずは、Kyokaに動画インタビューに答えてもらった。ファンへのメッセージも!!

Interview:Kyoka

※規定のソーシャルディスタンスを守った上で撮影を行っています。

──ベルリンに住んで何年ですか?

12年です。

──新型コロナウイルスの存在を知ったのはいつどのような形で知りましたか?

1月末に、カリフォルニアの砂漠からサンフランシスコの空港に戻った際、白人さんがマスクをしていたので「何か変だぞ?」と思って知りました。

──アーティストとして、どのような影響を受けましたか?

ライブやレクチャーのお仕事が、瞬く間に全部中止になりました。

ーーロックダウン中の今、毎日何をしていますか?音楽面であればそれも教えて下さい。

音波や光や空間などと、周波数の基本的な法則や現象を、計算式などから改めてきっちり学び直してます。それに沿って作った音で、どこまで新感覚を得られるか試しています。

──今この状況になって、改めてあなたにとって音楽とはなんですか?これまでと価値観は変わりましたか?

精神的・肉体的に、私を元気にしてくれるもの。私をいろんな新しい世界に連れていってくれる先導者、道しるべ。

──終息後にやりたいことはなんですか?

皆でガンガン飛び跳ねられるライブ。(ロックダウンで、みんな運動不足かなと思って。)皆でしっぽり、音の多次元感覚を感じられるライブか展示など。

PROFIELE

Kyoka

コロナ時代に音楽はどう存在するのか?|ベルリンで生きるアーティスト・スペシャル編Vol.1 02
Photo:Jordi Cervera

実験・電子音楽レーベルの世界最高峰の一つ『raster-noton』における、初の女性ソロアーティスト。
ベルリン~東京を拠点に、独特な音楽表現で世界を魅了する。アート、科学、物理領域を往来する全世代の人々に向けて、思いもよらないような多次元感覚を周波数により表現している。

Bandcamp

続いて、Tangerine Dreamのメンバーとしても活躍するヴァイオリニストの山根星子からの動画メッセージ。

Interview:山根星子

──ベルリンに住んで何年ですか?

3月で丸 12年になりました。

──新型コロナウイルスの存在を知ったのはいつどのような形で知りましたか?

1月末頃、日本のニュースで中国、武漢の現状を知りました。2月いっぱいはずっと日本のこと、日本にいる家族や友人、そして相次ぐ公演キャンセルに伴うミュージシャン仲間のことを心配していました。その頃ヨーロッパでは、アジアで大変なウイルスが流行しつつあるといった認識でした。また、ベルリンに住んでいる日本人にとっては、ウイルスそのものよりも、それに伴ったアジア人差別への方が、現実的に問題でした。

──アーティストとして、どのような影響を受けましたか?

ドイツの全ての劇場が閉鎖される前日まで、オーケストラで録音の仕事をしていました。
その後予定されていた私のソロのライブは全てキャンセルになりました。スタジオで録音する予定だった新作アルバムのための制作も延期になりました。

──ロックダウン中の今、毎日何をしていますか?音楽面であればそれも教えて下さい。

新しいソロアルバムのために以前スケッチしておいたアイデアを形にする時間ができたので、毎日譜面を書いています。今はデータのやり取りで様々なミュージシャンとコラボレーションという形で共同制作できる時代なので、いろんな国の音楽家たちと作品を作ることも同時に行っています。創りたい作品のアイデアがどんどん出てくるので毎日籠もって制作に集中できて、個人的にはとても充実した毎日です。

生活面では、スーパーに行く日数を減らしたので、毎日限られた食材の中から飽きない献立を考えるのも楽しいです。イースターの連休には部屋の模様替えをして気分転換し、読む機会を見つけられずに本棚に置かれていた長編小説2作を読み切りました。

──今この状況になって、改めてあなたにとって音楽とはなんですか?これまでと価値観は変わりましたか?

今も変わらず音楽は私にとっては、自分が楽しむためのものです。自分を表現するものの一つでもあります。こうして外出制限がされている状況下において、それぞれが楽しむための手段やストレス発散のための方法として音楽があったり映画があったりするので、私はその選択肢の一つとして、自分の作品を生み出し、提供しているに過ぎません。音楽は肉体を救いませんが、精神を安らかにします。それは今までもこれからも、変わりません。

──終息後にやりたいことはなんですか?

前述した新しいソロアルバムのための譜面が完成しているので、アンサンブルを集めて録音したいです。それから、データのやり取りでは不可能なコラボレーション、例えばライブレコーディング形式であったり、ダンサーさんたちとの舞台作品であったりなどをどんどん進めていきたいです。もちろんライブもやりたいです。スピーカーから聴くのと、その場の雰囲気も含め音楽を体感するのでは、全く異なります。たくさんの人と、楽しい時間を共有したいです。

──今後も音楽を続けていきますか?

もちろんです。ヴァイオリンを始めてから35年、私にとっては歯磨きするのと同じくらい、生活の一部です。

PROFILE

Hoshiko Yamane(山根星子)

コロナ時代に音楽はどう存在するのか?|ベルリンで生きるアーティスト・スペシャル編Vol.1 03

ヴァイオリニスト、作曲家。
2011年よりドイツのプログレッシブロック、シンセサイザー音楽グループTangerine Dreamでエレキバイオリンを担当し、創始者のエドガーフローゼ亡き後も、50年以上に及ぶバンドの歴史と音楽を引き継ぎ現在も精力的に活動を行っている。2020年6月にはバンド550周年特別企画として11年ぶりの来日公演を予定。Hoshiko Yamaneの本名名義でのソロ作品は主にアコースティックのサウンドで、アルバムをリリースする他舞台作品や映像作品の音楽などを手掛けている。また、Tukico名義のソロ作品はエレキヴァイオリンやエレクトリックなサウンドとの融合を試みる実験的なプロジェクトであり、2020年に始めてのEPをカセットリリースしている。

Official Website

あとがき

実は、この企画を実行しようと思い立った時、何日も何も手に付かなかった。何から始めて、何をどう伝えるべきか、一体自分に何が出来るのか分からなかったからだ。それどころか、突如ゴーストタウンと化した街の様子や外出に規制がかかるという前代未聞の状況を暫く受け入れることが出来なかった。ベルリンという自由と個性に満ち溢れた街で、民主主義国家にいながら自分の中での民主主義を築き、何不自由なく、誰にも指示されることなく生きてきたことこそが全てだったのだと思う。それが突如奪われ、コロナウイルスという目に見えない未知なるものの存在に脅かされる日々に納得がいかなかったのだ。

怒りにも悲しみにも近いやり場のない気持ちを抱えたまま精神面が徐々に荒んでいくのを感じる中で、救いの手を差し伸べてくれたのは身近な友人たちであり、大好きな音楽だった。そして、マイノリティーな私たち日本人にも分け隔てなく対応してくれたドイツ政府だったのだ。40年以上生きてきて、生まれて初めて政府というものを信頼できた瞬間でもあった。

人間は環境の変化に順応していける生き物だというが、自分自身もそれまでの身勝手な考えを改め、ライターとして、1人の人間として、制限された中で何が出来るのか?そう考えるようになり、こうやって重い腰を上げることができた。関わってくれている全ての人へ感謝と健康、一早い収束、そして、終息後の生き方として少しでも参考や希望になることを願って、このインタビューを送る。

第二弾は、ドラマーの青島主税、ライブアクトのSUDO(Isao)をゲストに男性アーティスト編をお届けします。お楽しみに!!

Interview & Text : Kana Miyazawa
Video : Ari Matsuoka
Kyoka Photo : Jordi Cervera