ヨーロッパにおけるエレクトロニックミュージックに特化したフェスは数え切れないほど存在する。開催地の特性を活かしたロケーションやラインナップはどこも競い合うほど豪華で、決して安くはないチケットがソールドアウトになることも常だ。しかし、その一方で、“どこも同じようなブッキング”といったネガティブな意見を目にすることも多くなった。
週末のクラブイベントだけでは網羅できない世界のトップアーティストが一堂に集まり、数日間で一気に見ることができるのがフェスの魅力であり、醍醐味である。そのため、誰もが知っている説明不要のビッグネームがヘッドライナーとして名を連ねるのは当然と言えるだろう。それは、今も昔も、そして、これからも変わらないのではないだろうか。
しかし、これまでの人生の半分以上をエレクトロニックミュージックに注ぎ込んできた私のような人間にとって、フェス現場は“新たな発見の場”であり、そこでしか味わえない唯一無二を探し求めている。事実、今回レポートする<Brunch! Electronik Festival>は、初めて知るアーティストが個人的ベストアクトとなり、スペインの音楽への情熱に圧倒されたフェスとなった。
バルセロナに根を張り、10年間に渡り、世界各地からトップアーティストを招聘し、毎週末パーティーを開催してきたイベントプロモーター・Brunch Electronikの実績と努力と信頼度によって大成功を導いた<Brunch! Electronik Festival>を現地バルセロナからお届けする。
ラテンの熱気とパワーに包まれたハイクオリティーなローカルフェス
<Brunch! Electronik Festival>とは、バルセロナを拠点とするプロモーター“Brunch Electronik Barcelona”による初の大型フェスとして、8月11日と12日に「Parc del Forum(フォルム公園)」にて開催された。また、同日程にてバルセロナ市内に位置するクラブ「Nitsa Club」にて、アフターパーティーが、13日には庭園「Jardins de Joan Brossa」に会場を移し、翌朝までサンデーパーティーが開催された。
メイン会場となった「Parc del Forum」には、GrooviK、HarmoniK、RhythmiK presented by Resident Advisor、EuphoriK by Estrella Damm、IconiKの5つのステージが設置され、DJだけに限らず、ライブアクトやバンドも多数出演し、ジャンルもテクノ、ハウス、ベースミュージック、エレクトリック・ポップなど様々。オープニングの早い時間こそ来場者は少なかったが、日が落ちる前のまだ明るい時間から徐々に人と熱気で埋まっていき、暗くなった時にはどこのステージもパンパンの満員状態。
音響はどこのステージも素晴らしく、しっかりと身体に伝わる重低音の鳴り、ライブは生音がクリアーで上品、控えめだけど暗過ぎずちょうど良いライティングも良かった。野外の場合、風向きで音が逃げてしまったり、高音が効き過ぎて頭が痛くなったり、爆音過ぎて音が割れてしまったりなど、いろいろ問題が発生するが一度も不快に感じたことがなかった。
一番驚いたのは、オーディエンスの熱量のすごさだ。スペイン人の明るくて陽気な気質も相まって、心の底からパーティーを楽しみたいという思いが伝わってきた。笑顔で踊りまくり、知っている楽曲はみんなで大声で合唱する、そんなハッピーオーラに終始包まれていた。
5つのステージと会場内を紹介
まずは、同フェスの個人的ベストアクトとなったアムステルダム拠点のユニット・ANOTRがプレイしたGrooviKステージ。彼らの前にプレイしていたロンドン拠点のPAWSAからの流れが素晴らしく、違うステージでÂme & Dixonを見ようと思っていたが、身動きが取れなくなるほどだった。
続いて、Jeff Mills、Boyz Noise、Marcel Dettmann、Nina Kravizなどテクノのドリームチームが名を連ねていたIconiK。普段はあまり聴かないBPM速めの硬派なテクノサウンドが終始聴こえてきたが、剥き出しのコンクリートに反射し、腹部に響いてくる重低音が心地良かった。
Resident Advisorがオーガナイズするステージは、JEREMY UNDERGROUND、Mr.G、LIL’ LOUISなど、かなり好みのラインナップ。DJブースがフロアーと同じ目線という自分的に一番好きなセッティングに開放感もあって良かった。女性DJの活躍が目立っていたのも良い。
HarmoniKステージから出店が並ぶ通りに貼られていた10年の歴史を物語るポスターたちにほっこり。デイパーティーからオールナイトイベント、大型フェスへと成長していった軌跡を辿る。
明るい時間のカラフルな雰囲気も楽しかった。会場内を散策しながら、サウンドシステムやステージのデコレーション、客層などをチェック。
間違って一般のエントランスに並んでしまったせいもあるけれど、セキュリティーが他のフェスやクラブとは比べものにならないほど厳しく、女性スタッフだったとは言え、トラウマ級の“取り調べ”を受けた。何か問題でも起きたのだろうか? 一部のスタッフは英語が話せないため、コミュニケーションが取れず、困ったこともあった。フェスによってオペレーションが違うのは当然であり、アテンド役が必ずしもいるわけではない。初めてのフェスで初めての会場で、すぐにテンパってしまう癖も良くないと実感した。本番の忙しさの中、私たちのケアやトラブル回避に尽力してくれたプロジェクトマネージャーのMarcとインターナショナルPRのAlexaには感謝しかない。
初開催にして、6万6000人以上の来場者を記録し、大成功を収めた<Brunch! Electronik Festival>は、終焉とともにすでに来年の開催を発表した。もし、また来年参加できる機会に恵まれたら最終日のラストまでじっくりフェスを味わい尽くしたい。そして、ベルリンとは全く違うバルセロナの街をもっと堪能したい。
Brunch Electronik Barcelona(@brunchbcn)
Text:宮沢香奈
Photography: Clausen (Secuencia), ucocon