エレクトロニックミュージックシーンにおける重要人物であり、トップアーティストとしてシーンの最前線に立ち続けるヘンリク・シュワルツ。2010年より本格始動した様々な音楽家たちとのコラボレーションプロジェクトは、昨年には65人のフルオーケストラとの共作に辿り着き、今もなお前進し続けている。彼の活動を見ていると音楽にジャンルなど必要ないのではないだろうか? そんな気がしてくるのだ。そんなヘンリクが新たにタッグを組んだのは、アムステルダム有数の「ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団」の一員によって結成された一流の弦楽四重奏Alma Quartet(アルマ・カルテット)。生粋のクラシックアーティストとともに創り上げたアルバム『CCMYK』は5月24日にヘンリク自身のレーベル「Between Buttons」からヴァイナルとデジタルフォーマットにてリリースされた。常に想像を超える未知の音を探求し続けるヘンリク・シュワルツにQetic独占インタビューを行った。

ヘンリク・シュワルツ「10年前に作ったアルバムと同じとても良いフィーリングを感じたんだ」

【インタビュー】ヘンリク・シュワルツ、弦楽四重奏とともに創り上げたアルバム『CCMYK』を語る interview190624interview-henrikschwarz_0729-1920x2868

インタビュアー宮沢香奈(以下、Kana):まずは、ニューアルバム『CCMYK』リリースおめでとうございます! 

Henrik Schwarz(以下、Henrik):ありがとう! 

Kana: 今作『CCMYK』ですが、よりクラシックに寄った楽曲が多いと感じたのですが、その辺についてはいかがですか? 

Henrik: 本当?? それは興味深い意見だね。僕はむしろその逆だと思ってるんだ。

Kana: ”クラシック”という表現が誤解を招いてしまうかもしれませんね。所謂オーケストラによる古典的なクラシックのことではなく、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロといった弦楽器の生音が前面に出ているアコースティックな作品だなと思ったんです。もちろん、エレクトロニックミュージックの要素も十分に感じていますが。

Henrik: なるほど。それは多分リファレンスってことじゃないかな? 楽曲を制作していく上でクラシックが背景にあるのは事実だしね。アルマ・カルテットは本当によく音楽のことを知ってるんだ。だから、エレクトロニックミュージックの手法で作られた楽曲であっても、”これはバッハみたいだね、クール!”って言いながら独自の解釈で演奏することが出来るんだ。彼らはクラシックの音楽家だけど、音楽に対してとてもオープンマインドでフリーダム。だから、これまでより自由に制作することが出来たよ。まるで、ジャズのジャムセッションみたいだったね。

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Photo by Katja Ruge

Kana: アルマ・カルテットは普段クラシック以外も演奏するんですか? 

Henrik: いや、クラシックだけだね。

Kana: それはすごいですね!アルマ・カルテットの4人にとってクラシック以外の初の試みがエレクトロニックミュージックというのは。ジャムセッションによって仕上げていったという点についてですが、もう少し詳しく教えてもらえますか? 

Henrik: まず最初にインプロヴィゼーション(即興)から始めて、それを1時間レコーディングして、自宅に持って帰って編集するという作業を繰り返していたんだけど、”この5分間はいい”とか、”ここはちょっとやり過ぎ”とかそうゆう発見をしながら編集していって、足りない部分があったらまた後から足してというまるで彫刻みたいな作り方をしたよ。レコーディングした音源の中に沢山のノイズを発見したんだけど、またそれがすごく良かったり、良い音を見つけ出したりして、とてもエモーショナルな仕上がりになったと思ってるよ。

Kana: なるほど。インプロヴィゼーションならではの制作秘話ですね。前作『Scripted Orkestra』やそれ以前にもオーケストラとの共作をリリースしていますが、カルテットとの制作とはまた違いますか? 

Henrik: 全然違う! まず、オーケストラの場合はインプロヴィゼーションが出来ないんだ。前作の時は65名のオーケストラだったんだけど、全員着席したまま演奏するのが基本のスタイルだし、全て譜面に起こさないといけない。あらかじめ演奏パートが決まっているから、全員自分が何をすべき分かっていて、指揮者の指示を待って、指示通りに正確に演奏するのがオーケストラなんだ。とても典型的だし、そこにジャムセッションのような自由さはないね。

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Kana: 確かに、オーケストラには指揮者が必要不可欠ですもんね。

Henrik: そうだね。ただ、カルテットにとっても指揮者の役割は大切だから”次はあなたの番です”という指示を出す指揮者の代わりになるバーチャルコンダクターを作ったんだ。

Kana: バーチャルコンダクターですか?? 

Henrik: そう。いわば、機械で作られたデジタルの指揮者だね。デジタル時計のように3Dプリントのディスプレイに1~4の数字が表示されるようになってるんだけど、デジタルのバーが動いてその数字を順番に指すようになっているすごくシンプルな作りだよ。でも、これがすごく重要だったし、それがあったおかげで最終的に素晴らしい仕上がりになった。演奏家たちにとって、エレクトロニックミュージックにおけるクリック音は音楽ではなくて、ホラーなんだ(笑)。だから、みんなそれを嫌う。クラシックの指揮者は4拍子を刻むのに上下だけでなく、左右に振ったり、バウンドさせたり、いろんな手の動きをするだろう? だから、その動きを学んでバーチャルコンダクターに落とし込んで再現したんだ。”イエモウ”って名前も付いてるよ(笑)。

Kana: ”イエモウ”(笑)。指揮者をバーチャルで作ってしまうという発想自体も驚きですが、そこまで徹底的にこだわったからこそ満足いく楽曲に仕上がったんですね。

Henrik: カルテットはエレクトロニックミュージックとのコンビネーションがオーケストラより簡単でやりやすかったのは事実だけど、一流のテクニックがないと到底出来ないことだから、アルマ・カルテットだからこそ一緒に出来たと思ってるよ。

Kana: そういった背景を知った上で改めて『CCMYK』を聴きたいと思いますが、全8曲ある中で、1曲だけ「Happy Hipster」というネーミングになっていますよね? 他の楽曲は「CCMYK1」といったように全てナンバリングになっていますが、それはどういった理由からですか? 

Henrik: ナンバリングになっているのはレコーディングをした順番で、全部で何回レコーディングをしたか覚えてないけど、第一回、第二回とやっていったからそのナンバーを付けたよ。「Happy Hipster」はアルマ・カルテットのヴァイオリニストのダニエル(Marc Daniel van Biemen)のキャプテンネームなんだ。彼はメンバーのリーダーで、まさに”Happy Hipster!!”って感じの人物なんだよね(笑)。

Kana: アルマ・カルテットはクラシックでありながら、彼らのSNSを見ているとすごくユニークでチャーミングなキャラクターだなと思いました(笑)。今作の『CCMYK』というアルバムタイトルにした理由もプレスリリースを読んで、なるほど! と思ったのですが、ヴァイナルのデザインやステージ衣装も”CMYKカラー”になっていて、とてもキャッチーで良いアイデアだと思いましたが、あなたのアイデアですか? 

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Henrik: うん、そうだね。僕が考えたよ。まず、『CCMYK』というアルバムタイトルが今回のコンセプトにピッタリだと思ったんだ。カルテットは弦楽器による美しいアンサンブルだけど、そこにラップトップが入ることによって、制限のない重低音や高音担当のヴァイオリンよりもっと高い音が出せる可能性が広がる。だから、僕は”CMYK”の中のKパートなんだ。衣装もブラックだしね(笑)。僕たちは5人集まることによってカラーの幅を変えることが出来て、これまでになかった無限のカラーを引き出すことが出来たんだよ。
ラップトップは単なるエフェクトのボックスなんかではなく、楽器と一緒に演奏することによって、無限の可能性を引き出せる重要な存在ということを証明出来たと思ってる。

Kana: ヴァイオリンが二人だからCのシアンが2つで、ヴィオラがMのマゼンタ、チェロがYのイエローという構成ですね。音もそうですが、ステージパフォーマンスとしてもこれまでになかったスタイルだと思います。観客からはどんな反応を得ましたか? 

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Henrik: ものすごく良かったよ! 客席からパワーとエネルギーを感じ取ったし、とても新鮮な反応が見れたよ。実は、今作は10年前に作ったアルバムと同じぐらい良いフィーリングを感じたんだ。”よし、作ろう!”と思って意気込んで作ったわけじゃなく、とても自然な流れでアルバムが出来上がったんだ。意気込んで頑張り過ぎると作り込み過ぎてしまうけれど、今回はストレスのないとても良い環境でリラックスして制作が出来た。だから、作品も力が入り過ぎてない良いバランスが取れたんだ。

Kana: ストリングスの美しい生音とインテリジェンスでちょっと冷んやりしたミニマルサウンドのコンビネーションでありながら、変幻自在でアブストラクトだし、遊び心や変化球が存分に楽しめる作品だと思いました。最後になりますが、今回ヴァイナルとデジタルのみでのリリースとなりましたが、それはなぜですか? 

Henrik: CDでリリースしないのか? ってことかな。もう誰もCD買わなくない? デジタルは今やもう不可欠な時代だし、フィジカルなものはヴァイナルでリリースするのが基本じゃないかな? それで十分だと思ってるよ。「Between Buttons」は小さなレーベルだからコストも掛かるし、それが正直なところかな(笑)。

(*ちなみに、『CCMYK』のプレスを行ったのは、以前取材したベルリンで唯一のヴァイナルプレス工場Intakt!

Henrik Schwarz & Alma Quartet CCMYK pressing of 4 colour limited vinyl! 

Kana: 本日はありがとうございました!! 

Photo & Interpret support : Katsuhiko Sagai