退廃的な建築に容赦なく描かれた壁画、異様な空気の薄暗いストリート、それだけで構築された荒れ朽ちた街並はまるで生き物のように圧倒的な存在感を放ち、それと同時にとてつもなく美しい芸術でもあった。
人間はその人の生き様によってオーラの出方が違う。全くオーラのない人もいるぐらいだ。人間より長い時代を見ている街にそれがないわけがない。
フリードリヒスハインは、たとえ街全体が高層ビルに囲まれたとしても、周辺が更地になったとしても、ここだけは何も変わらず今の姿のまま時代を突き抜けてゆく。そんな気がしてならない。
旧東ドイツの面影をそのままに惚れ惚れする男気と反骨精神を見せてくれるフリードリヒスハインの魅力を2本連続でお届けしたい。ベルリン生活1年半を経て、この街の原点に帰ってみたくなったのだ。
多くのクラブが存在するオストクロイツ、中でもベルリン有数のクラブとして人気なのが://about blankである。ドアポリシーこそないが、レジデントを勤めるローカルDJのレベルの高さやデトロイト系アーティストを多く招聘しており、客層も良い。
反対側出口からすぐの大通りには、新しく出来たばかりの洗練された雰囲気のレストランやカフェが立ち並び、ゲットーさはあまり感じられない。
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「ベルリンに住んで6年半になりますが、最初この辺なんて何もなかったですからね。治安も決して良い方ではないし。でも、これまでにミッテやクロイツベルク、シューネベルクなどいろんなところに住んできて、僕にはここが一番しっくりくるんですよ。地域密着型というか、下町というか、人と人との距離が近くて、個人的には昭和の頃のような雰囲気を感じます。最近はお洒落なカフェやレストランが徐々に出来てきて街並は変わったように見えるけど、雰囲気自体は変わらないし、何より落ち着ちますね。」
そう語るのは、フリードリヒスハインでスタジオと住居を兼ねる“コンテナスタジオ”に住むアーティストSUB HUMAN BROSの坂本豊氏。(*コンテナスタジオについては次回密着レポをお届けします!)
剥き出しの水道管はパステルピンク一色で彩られ、宮崎駿の世界に出て来そうなファンタジーさと奇妙さが入り混じる。見え方によっては前衛的なコンテンポラリーアートにも見えてくるから不思議だ。大通りを一本中に入るとそこには全く違う別の世界が広がってくる。大胆なグラフィティーは全ての建物を覆い、通りそのものがギャラリーになっているような迫力である。
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