ドイツの異端児ベルリンは様々な点において他の都市とは違う。この街にいると“常識”とは一体何なのだろうか? そう考えることがある。その中でも際立っているのが住宅や施設である。廃虚を占拠して住処やアトリエにしているスクワットがあるのは有名な話だが、それ以外にも他では絶対通用しないであろうベルリンオリジナルな摩訶不思議な建物に遭遇するのだ。物心付いた時にはすでに頭の中にインプットされていた“常識”の中で生きてきた日本人の私たちにとって、この街はパラレルワールドのように不可解で、そして、とてつもなく惹き付けられるのだ。
そんな今回は、前回に続いて、旧東ドイツの面影をそのまま背負ったフリードリヒスハインに存在する”コンテナスタジオ”を紹介したい。スタジオと住居も兼ねているという小さなコンテナに暮らす一人の日本人アーティストに密着取材してきた。
大通りから一本中に入ると壁画に囲まれた異様な空気漂う薄暗い道に出る。通り沿いにはクラブやバー、謎の建物が立ち並び、その一角にコンテナスタジオは存在する。ここは同じ敷地内に、音楽学校とスタジオが一緒になっている本館と呼ばれるレンガの造りの建物、その他にクラブ、バー、移動式ピザ屋まである。異端児ベルリンにおいてもとても珍しい施設と言える。
アーティスト支援のためのレジデンシーともまた違い、広い空き地に大家自身でどこかからコンテナを運んできては、スタジオとして提供している。アーティストで溢れかえるベルリンでは、コンテナをスタジオとして格安で使用出来ることは理に適っている。しかし、住居として住めるというのはかなりの衝撃である。
実際、昨年の夏から日本人アーティストで兄弟ユニットSUB HUMAN BROSの坂本豊氏が住んでいる。豊氏は長崎県生まれ、活動拠点となっていた福岡から兄のMakoto氏と2009年にベルリンへ移住。コンテナに住みだす昨年までベルリンの様々なエリアに住んできた。もちろん“普通”のアパートメントである。本館にスタジオを借りていた友人からスピーカーを譲り受けるために訪れたのをきっかけに、この施設の存在を知り、まずは本館内にスタジオを借りることになる。その後、アーティスト同士で部屋の交換をしたり、譲り受けたりして転々としているうちに、外にコンテナが登場した。
次ページ:良くも悪くもアーティストが増え過ぎてしまっている。