「自宅から通うのが大変だなと思っていたのと、兄の家族が日本から移住して来たのもあって、大家の勧めでコンテナに住みだしました。大柄な欧州人には狭いと思いますが、狭い住宅事情に慣れている日本人の僕からしたら全然生活出来ますよね。生活に必要なものは最低限揃えれるし、本館には共同キッチンとシャワーも付いています。何より、スタジオの目の前に住んでいるというのがとにかく便利です。良いアイデアが浮かんだらすぐにスタジオに入って制作、疲れたらコンテナに戻って寝れば良い。音は24時間出し放題。こんな条件は他を探してもなかかなないです(笑)。それに立地も気に入ってます。近くに人気のローカルクラブがいくつかあって、すぐに遊びに行けるし、スタジオを借りているアーティスト同士の交流もあって、とても良い環境だと思っています。」
二番目のスタジオを譲り受けたのは、テクノ界の気鋭フィメールDJ、Dasha Rushからである。ニューアルバム『SUB HUMAN BROS』(日本国内は3月リリース)に収録されている“shb12001b”はデモの段階で彼女からラブコールを受けており、リリース前にDasha本人によってDommuneなどでプレイされている。他にも同じ本館内にスタジオを構える老舗テクノレーベル〈EINTAKT RECORDS〉から2015年4月に、シングル『Over』が30thアニバーサリーとしてヴァイナルでリリースされている。
Dasha Rush @ Dommune 2013.12.27
「SUB HUMAN BROS」
気になるコンテナの中は、ベッド、デスク、ハンガーラック、ミニキッチンまで付いている。ほとんどが拾ってきた物で、全て豊氏によるDIYである。暖房は家賃に含まれているため使い放題、夏はちょうど木陰になるため涼しいという。デメリットについても聞いてみた。
「同じ敷地内にクラブがあるので、用を足しに来たり、騒いだり、マナーが悪い人がいるのが困ります。あと、すぐ上に線路が走っているので振動が来たり、目の前のブルーコンテナからドラムの音が聴こえてくることも。もう慣れましたけどね(笑)。」
日本人で住んでいるのは豊氏のみで、後はスペイン人やロシア人など外国人ばかり。もちろんみんなアーティストで、ジャンルはテクノだけに限らない。ちょうど取材に行った時もロックバンドの練習風景が見えた。世界中のアーティストが夢を叶えるためにベルリンへやって来る。右も左もアーティストという環境を長年見てきた豊氏はどう思っているのだろうか?
「音楽をやる上で日本よりやりやすい環境が整っているのは確かです。ただ、良くも悪くもアーティストが増え過ぎてしまってますよね。閉鎖したクラブとか発表する場は減っていっているのに、人は増え続けている。そういった現状があるのも事実です。物価が上がっているから住む部屋を探すのも大変になっています。だからこそ、こういったコンテナスタジオの需要があるんだと思いますが。まあ、そうは言ってもここはベルリンですからね(笑)。ロンドンみたいにはならないだろうし、ここでしか許されないぶっ飛んだアイデアがまだまだ出てくるんじゃないでしょうか。」
SUB HUMAN BROSは、ライブ時だけなく、レコーディング時でもDTMラップトップPCは一切使用しない、即興で曲展開をアレンジメントし、ハードウェアシンセサイザーを自由に操り、アナログコンソールでミックス、そのままレコーダーに収録する。まさにライブレコーディングそのものといったこだわりのスタイルを貫いている。上記に記載した『Over』のヴァイナルはデリック・メイが来日時に購入しており、以前から親交のあるドイツ人テクノアーティストMijk Van Dijkは彼らの楽曲を紹介するためにわざわざDJ MIXを制作している。
SubHumanBros LIVE from studio r° on Vimeo.
そんな彼らは、2月6日ベルリンのUrban Spreeにて、自身プロデュースによる<PLANET BAR/001>を始動する。