音楽フェスとは、その街の“今”を表すようなものかもしれない。十数年振りに降り立ったパリの街は、揺るぎない美しさと深い歴史の中で、どことなく哀しげだった。それに反するように人々はとても明るく、優しさに溢れていた。世界を震撼させた同時多発テロの傷跡は今も消えることはない。警告はデイリーニュースとなり、いつどこで何が起きてもおかしくない状況の中、日々を、未来を、どう生きるのか?選択を迫られながら、それでも私たちはこの美しいヨーロッパの街で、前に進んでいきたいと思うのだ。
先月開催された<Weather Festival2016>には一体どんな思いが込められていたのだろうか。都市型フェスらしい若さとエネルギー、そして、笑顔に溢れていた現地からレポートをお届けしたい。
6月3日、4日、5日パリ郊外のLe Bourgetを会場に開催されたパリ最大級のテクノフェス<Weather Festival2016>は、個人的には夏フェスの開幕であり、前評判を聞いていただけに期待も膨らむばかりだった。しかし、それを見事に裏切ってくれたのが天候である。Tシャツ1枚でちょうどいいベルリンから、たった2時間で着いたパリはコートが必要なほど寒かった。世界的ニュースとなった大洪水の直後で、セーヌ川が過去にないほど水量が増し、ルーブル美術館が閉館するという異常事態が起きていた。
おまけに翌日には、電車がストライキを起こし、フェスの開催さえ危ぶまれる事態となった。会場が山奥で天候に左右されることが多い日本のフェスでもここまでの事態はさすがになかっただけに、ポキっと心が折れてベルリンへ帰りたいと思ったほどだった。
しかし、いざ駅に向かってみたら混雑はしているものの電車は問題なく運行しており、最寄駅に降り立った時にはフェス会場へ行く人でごった返しになっていた。大洪水もストもまるでなかったかのように、ビールやワインを片手にすでにフェスを始めている人たちを見て、どんより暗い気持ちは一気に吹き飛んだ。
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