会場へ入った瞬間Theo Parrishとすれ違った。奥からは派手な衣装に身を包んだIdris Ackamoor & The Pyramidsのファンキーなサウンドが聴こえてくる。トイレ前の通路には中古レコードが山積みされ、そこに群がる人々。パリ発ベルリン拠点のプロモーターJ.A.W設立10周年記念イベント<Family Reunion>での一コマである。ベルリン、パリで6日間に渡り開催されたアニバーサリーイベントの一部をレポートにてお届けしたい。
J.A.Wは、Thomas Vermynckを始めとする音楽フリークな3人によって2005年にパリでスタートしたプロモーターで、設立当初からLarry HeardやMoodymannといったレジェンドたちをブッキングしたパーティーを開催してきた。2009年には拠点をベルリンへと移し、テクノの街でジャズ、ディスコ、ブラジル、ゴスペル、ヒップホップ、それ以外にもジャンルに関係なく、“Family”となれるトップアーティストたちとともに数々のパーティーを作り上げてきた。その“Family”には、Theo Parrish、Hunee、Red Greg、Floating Points、Abdul Forsyth、Gilles Peterson、Motor City Drum Ensemble、Sadar Baharなどなど錚々たる名が連なっており、今回のアニバーサリー<Family Reunion>では、J.A.Wのために6日間のうちのどこかのイベントに分散されて出演するという世界中のプロモーターから妬まれそうな贅沢なブッキングを容易にやってのけた。
また、Robert GlasperやGoGo Penguinといったここ最近の注目株もきちんと押さえており、11月8日からスタートしたアニバーサリーイベントは、音楽好きなベルリナーの間で“どれに行くべきか?”と話題騒然となっていた。さらに今回のアニバーサリーには、アパレルブランドであるcarharttがスポンサード、ロンドンのNTS Radioやベルリンのhhv.deが協賛しており、ワールドワイドなのはアーティストだけに限らない。これもまた“Family”の一環なのだろう。
私が参加したのは、18日のPrince Charlesのみだったが、序盤にHuneeがプレイするというレアなタイムテーブルで、次のRed Gregの時にはまだ深夜1時を回ったばかりにも関わらず、フロアーは息苦しいほどの熱気に溢れていた。個人的にこの日最も楽しみにしていたのが、Floating PointsことSam Shepherdである。DJブースの後ろカウンターには何枚もの7インチが乱雑に散らばっており、その中の1枚1枚に針を落とす度、唸り声の入り混じる大歓声と振動が押し寄せた。レア盤のレコードコレクターとしても知られるFloating Pointsの手元を見たくてブースに近寄るも結局はフロアーの真ん中に戻って踊らされてしまう。聴いたことのない知らない曲たち、独特のミックス、ねっとりとベースの効いたグルーヴィーサウンド、アップビートでファンキーなボーカルなど全てに心をわし掴みにされ、一心不乱なプレイに吸い込まれるように無心で踊った。
Floating PointsはずっとPlastic Peopleで聴きたいと思っていた。フェス会場のような大箱ではなく、200名ほどのキャパで、息使いまで聞こえてきそうな密着度の高い小箱は、他では見れない何かミラクルが起きる気がするのだ。さらに、レジデントを務めるホームとあって期待度は増す。しかし、ベルリンへの移住前後に行きたかったクラブが次々と閉店してしまった。その中でもBAR25もPlastic Peopleは特に残念なニュースとなった。
<Family Reunion>がPrince Charlesで開催すると知った時、若干疑問があった。ガラス張りにコンクリートの壁、オレンジのライトアップがラグジュアリーな雰囲気を醸し出しているからだ。しかし、そんな疑念も踊っている間にどこかへ消えてしまった。良いしなりのウッドステージ、立ち込める煙、ミニマルではないオーディエンスの自由なファッション、Herbie Hancockで踊り狂う入り混じる人種。どんなジャンルの音楽でもそこでのオリジナル空間を作ってしまう。やはりベルリンはおもしろい。
事実、Prince Charlesはライブアクトへ力を入れており、これまで「://about blank」が得意としていたデトロイト系アーティストも多くブッキングしている。エントランスフィーやドリンクは他のクラブと比べてやや高めだが、真の音好きな大人が集まる場所として、プロフェッショナルなPAとブッキングに今後も期待したい。
最後に、記念すべき10周年という貴重な機会に呼んでもらえたことに心から感謝の気持ちを込めて、このレポートを終えたいと思う。ありがとう!!
Photo by Malte Seidel