3年前に初めて訪れたロンドン、当時MAPがあることなど知らず街を歩けばBanksy(バンクシー)に出会えると思っていた。結局一つも発見出来ないまま翌年のアムステルダムでは探してもいないのに偶然ギャラリーを発見したり、フッと見上げた壁に描かれていたりするのだからアートとの出会いは本当に不思議なものである。

少し前にはInvader(インベーダー)ブームが起こり、日本ではどこにあるか分かるアプリまで登場した。デジタルの世界にしか存在しない“ポケモン”を探すよりよほど健全でリアルで良いと思うが、次なる宝探しは一体どのアーティストになるのだろうか。そんな今回はキエフで出会った多数の壁画についてレポートしたいと思う。

街中に突如現れる美しくも巨大な壁画たち

音楽フェスと観光目当てで訪れていたため、キエフのアート事情に関しては全くの無知だった。唯一見たいと思っていたのがネットでキエフの観光スポットを検索すれば必ず出てくる最も有名なこの壁画である。これは2014年にパリを拠点に活動しているフランス人アーティストSeth Globepainterとウクライナ人アーティストKislowの2人によって描かれたものであり、有名な聖アンドリーイ教会近くの坂道の途中にある。

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たまたま近くを歩いていたら偶然発見することが出来たのだが、パソコン画面で見ていたそれとは全く違い、15mにも及ぶ巨大壁画はその迫力と配色の美しさに圧倒された。キエフの壁画は政治的要素を含んでいることが多く、この作品に関しても不安定な情勢が続いていたウクライナの人々へ希望を与えるために描かれており、ウクライナの伝統である花飾りを着けた少女がユーロマイダン時に軍人が来ていた軍服を身に付けて街を守っているという意味を持つ。

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こちらは、ポルトガル人アーティストのAlexandre FartoことVhilsが描いたのが、ユーロマイダンの抗争により命を落とした若き活動家Serhiy Nigoyanの肖像画であり、聖ソフィア大聖堂近くの丘から見下ろすことが出来る。

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こちらも2014年にAlex BordusovとVladimir Manzhosによって描かれたコサック兵(南ロシアの草原で半農半牧生活を送る共同体、軍事集団でもある)と敵に例えた龍が戦う姿を描いている。単なるアヴァンギャルドで前衛的なストリートアートではなく、14世紀頃の出来事や人物から特に題材として多い2014年の紛争に至るまでカラフルでポップなイメージの中にはウクライナの様々な歴史が描かれているのだ。

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他にも、チェルノブイリ博物館近くで発見したブラジルとウクライナの文化を融合させたキャラクターを描いたブラジル人アーティストNuncaによるもの。

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スペイン人アーティストAryzによって2015年に描かれたまだ新しい壁画。

上記に紹介した壁画は全て観光スポットを回っている時に偶然見つけたものであり、アーティスト名や画に関する詳細は後から調べた情報である。探そうと思って発見したわけではないのにこれだけ多くの壁画と出会えるのが今のキエフである。市内だけでも数え切れないほど多くの壁画が存在し、アプリこそ存在しないがインタラクティブマップを作成している人や専門家による記事、コレクターによるブログなどかなり多くの記事を目にした。実際現地でも一眼レフ片手に壁画発見ツアーを敢行している男性観光客と遭遇した。

現在、キエフではストリートアートの革命が起きているという。国際的なアートプロジェクト「ArtUnitedUs」が設立され、世界のストリートアートシーンに位置付けることを目指しているという。またウクライナ国内のアーティストだけでなく外国人アーティストも招聘し、キエフの壁画を増やす活動や世界各地の200にも及ぶ壁画を塗装するという意欲的な計画も発表している。

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キエフの中心地を歩いていて思ったのが、電柱、シャッター、駅、電車、トラックなどといったグラフィティアーティストにとって格好の獲物となる公共のキャンバスにはそれほど多く描かれておらず、ベルリンのようなインパクトもなかった。もちろんどこの国でも同様に違法行為であることは確かだが、美しい景色の中に好き勝手描かれるオールドスクールなスタイルやメッセージは似合わない気がした。街を歩いていて突如現れる巨大なアートに圧倒され、引き込まれてゆく素晴らしい壁画が今後も増え続けていって欲しいと思う。

やはりこの街は文化遺産とクラブカルチャーだけではなかったのだ。友人の話によればファッションにおいても独自のシーンを持っており、ドメスティックブランドがとても面白いという。様々な媒体で紹介してきたキエフの記事はこれが最後となるが、一度訪れただけでは到底把握し切れないまだまだ知らない魅力が潜んでいることを改めて実感した。また来年この続きを紹介出来ることを願っている。

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