“ベルリンのアートシーンが気になる” そう思ったのはまさに<Berlin Art Week 2018>真っ最中の時だった。
アート関係者と知り合ったり、友人から聞く話もアート関連が多かったりと、興味を持つのは当然とも言えるが、これまであまりピンときていなかったのが正直なところである。
しかし、今年二回目開催を迎えた<art berlin>のような世界のアートシーンを意識した大々的なアートフェアの存在は大きく、ベルリンらしいインディペンデントなアートシーンとうまく共存し、国内外への良いアピールになっているのでは? と感じている。
今回紹介する『The New Infinity Neue Kunst für Planetarien』はまさにその象徴であり、前衛的なものを素早く受け入れるベルリンならではと言えるだろう。モバイル・プラネタリウムで開催されたインスタレーションのレポートとともにベルリンの最新アート事情をお届けしたい。
潜入<>Berlin Art Week 2018>
ベルリンの最新アート事情
メーデー(5月1日に開催される労働者の祭典)で有名なクロイツベルク地区に位置するマリアンネン広場に、突如現れたのがドーム型の白いプラネタリウムである。黄葉で埋め尽くされた美しい公園内に突然、巨大な近未来的物体が登場したのだがらそれだけでも十分話題騒然となるが、ここで開催されていたのが期間限定の移動式プラネタリウム『The New Infinity Neue Kunst für Planetarien』である。
9月26日から10月14日までの期間中に4組のビジュアルアーティストが音と映像のアートインスタレーションを行うプロジェクトで、通常のプラネタリウムの天体観測と同様にドーム型の天井の内側に作品が投影される仕組みとなっている。
貴重な秋晴れにも恵まれたこの日は週末の人気クラブのように外には長い列が成していた。友人からの誘いで急遽行くことになったため事前リサーチをほとんど行っていなかったが、中に入った瞬間思わず「わっ!」と声が出た。
1組目のアーティストであるアイルランド出身で東京を拠点とする3DアニメーターDavid OReilly(デヴィッド・オライリー)の作品は、花、草木、動物、昆虫、食べ物といった地球に存在する”リアルな物”と微生物のように目には見えないがこの世に存在する物が可愛らしいイラストで描かれており、それらが円を描きながら天井から降り注がれる何ともファンタジーな世界だった。
デヴィッドは『サウス・パーク』や映画『Her』のCGを手掛けていることでも有名だが、今作『Eye of the Dream』ではアニメーションのイメージはあまりなく、天井を飛び交うカラフルでキッチュなものたちをじっと見上げていると幾何学模様を長時間見ていた時と同じようにサイケデリックな世界へと導かれていった。可愛らしいファンタジーな世界と巨大な万華鏡の中を彷徨っているような摩訶不思議な体験をさせてもらった。
David OReilly: Eye of the Dream
3組目のアーティスト、サウンド担当のクウェート出身でNYを拠点とするファティマ・アル・カディリ(Fatima Al Qadiri)と担当のベルリンのTransformaによる『Extraordinary Alien』にも足を運んだ。
惑星の表面、銀河系、エイリアンの皮膚などをモチーフにしたSF作品であるが、“エイリアン”とは”特殊能力を持った異星人”という解釈はハリウッド映画が植え付けたイメージであり、”在留外国人”という意味には誰も注目しない。そちらも同じように驚異的なのか?といった皮肉が込められている。
そんな意図があるとは分からないままわずか10分ほどで終わってしまったが、決して正体を明かさない謎なものという意も込められている。様々な素材が重ねられて出来た映像は宇宙い宝石が散らばったかのように美しく、映像が変わる度にそれに合わせてミステリアスな音のレイヤードも見事だった。
他にもテクノシーンで活躍するHolly Herndon & Mathew Dryhurstによる『Chain Opera』、最終日にはスペシャルコンテンツとしてアンビエントの巨匠ウィリアム・バシンスキー(William Basinski)によるライブパフォーマンス、トークショーなどが行われた。
これほどの世界的アーティストたちが参加しているプロジェクトでありながら、入場は何と無料。音楽だけに限らずアートや芸術全般に肯定的なベルリンならではと言えるが、『The New Infinity Neue Kunst für Planetarien』は、ハンブルクの観光スポットとしても有名な“Planetarium Hamburg”とベルリンの劇場“Berliner Festspiele”のプロデュースによるもので、ベルリンを皮切りにハンブルク、リューベック、バルセロナ、さらには来年の夏にアメリカでの開催を予定している世界的プロジェクトなのである。
同時期には『Red Bull Music Academy』の20周年も開催されており、街は世界中からやってきたクリエイターやアーティストで溢れ、活気に満ちていた。変化を遂げることを恐れず、常に最先端なカルチャーを追い求めながら、ベルリンらしいオリジナリティーを構築していく。派手なコマーシャルは一切行わず、水面下でじわじわ浸透させていくやり方も非常にこの街らしくて気に入っている。
“ようやく気付いたの??”と、この街がほくそ笑んでるような気になって少し悔しかった。自転車を飛ばせばすぐにでも行けるのに腰が重くて足が遠のいていたコンテンポラリーギャラリーや現代美術館に足を運びたいと思った。そして、今度は自分がほくそ笑む側になりたい。