音楽の仕事に携わって一体どれほどの月日が経ったのだろうか? ベルリンへ移り住んで5年、〈mule musiq)との関わりは東京にいる時より濃厚になった気がする。“音楽”を感じない瞬間などないこの街の日々の生活は、様々なシーンを牽引するトップアーティストやプロデューサーとの出会いさえも日常なのだ。
そんな中で、いろんな場面において〈mule musiq〉という名前が登場する。言うまでもなく日本を代表するダンスミュージックレーベルであり、世界の至るシーンで注目されており、今の私を構築したルーツの一つであることは紛れもない事実なのだ。そんな〈mule musiq〉が今年で設立15周年を迎え、その集大成として、12月7日(土)にはDJ Kozeをゲストに迎えたアニバーサリーイベントが渋谷のContactにて予定されている。
開催を前に、レーベルの主宰であり、世界を飛び回るDJでもあるToshiya Kawasaki氏にQetic独占でインタビューを行った。15年の時を経て、今改めて〈mule musiq〉という偉大な存在を紐解いてみたいと思う。
「僕は、一般的な人と比べると常に新しいものを追い掛けていると思う」
Toshiya Kawasaki
Toshiya Kawasaki
Kana Miyazawa(インタビュアー|以下、Kana) まずは、15周年おめでとうございます! Kawasakiさんと初めて会ったDOMMUNEの現場は今でも忘れられませんが、今ではベルリンやパリで飲みながら情報交換や雑談する関係でいれることをとても嬉しく思っています。今日は改めて〈mule musiq〉を振り返ってみたいと思っています。レーベルを15年間続けて、しかもクオリティーも保ち続けるというのは非常に大変なことかと思いますが、何か秘訣のようなものがあるのでしょうか?
Toshiya Kawasaki(以下、Kawasaki) 嫌味に聞こえるかもしれないけど、何も秘訣なんてなくて、常に新しいアイディアがたくさん生まれて来る。もちろん色々リサーチして、たくさんの音楽を聴いて、新しいイラストレーターやフォトグラファーを探したりしてるけど。あと、絶対的に自分のレーベルからのリリースを客観的に見るようにしているかな。その音楽に対して人はお金を払うのだろうか? と。僕的にはマスターベーションのような物事のあり方や生き方はあんまり好みじゃないから。
Kana 15年間アイデアが自然発生し続けることがすでにすごいと思いますが、何か、心掛けていることはありますか?
Kawasaki それも特にはないかな。ただ、トム・フォード(TOM FORD)にデザイナーが変わってからのGucci全盛期だった時にBRUTUSでトム・フォードの特集があって、彼も同じ様な質問をされていたんだけど、「誰よりも先に今やっていることを飽きること」って言っていて、今もその言葉は覚えているよ。僕はそこまでではないけど、一般的な人と比べると常に新しいものを追い掛けていると思う。
あと、ファッション的なバックグラウンドがあるというのが、他のレーベルのA&Rとの大きな違いじゃないかな。僕にとってレコードのアートワークはファッション広告みたいに捉えているし、どんなに音楽が良くてもアートワークに関してミュージシャンと意見が合わなかったら〈mule musiq〉からは絶対にリリースしない。実際、沢山のリリースがmuleからリリースされなかった……。
Kana アートワークが理由でリリースされていない楽曲があったとは知りませんでした! でも、確かに目を引くアートワークが多いですよね。特に、ステファン・マルクス(Stefan Marx)は〈mule musiq〉のトレードマークのようなイメージがあります。私もヴァイナルに関してはアートワークを先に見ています。楽曲ももちろんですが、部屋に飾りたいかどうかを考えたりしますね。 15周年を記念して、世界中でギグが行われていますが、特に印象に残った都市、クラブはありますか? 今回のツアーでなくて以前のことでも構いません。
Kawasaki いつもパリが一番大好き。お客さんのクオリティーが自分にとって一番合っていると思う。どんな音楽が流れていてもオープンから多くの人が来ていて遅い時間まで残ってくれる。クラブギグは世界的にどんどん難しくなって来ていると思うけど、ヨーロッパよりはアメリカやメキシコの方が今はツアーをしていて楽しいかな。New Yorkの「Good Room」は西麻布にあった「Yellow」を彷彿させる感じで好きかな。キャパシティーは大きいけど、そこまで人が沢山入っていなくても良い雰囲気が出来上がるのも「Yellow」に似ている。
Kana 以前、今はNYが楽しいって話をしていましたよね。「Yellow」は私も大好きで思い出深い箱なので是非、「Good Room」に行ってみたいです! メキシコは私も気になっているシーンの1つですね。ヨーロッパではどこか印象深いギグやクラブはありますか?
Kawasaki ツアーを始めて10年で、初めて海外でDJをしたのが「panorama bar」だったんだけど、それは忘れられないね。あまりの緊張に飲み過ぎて三日酔いくらいだった(笑)。もちろん「Robert Johnson」は特別な場所だと思う。
Kana (笑)。いつもそんなに緊張しているようには見えませんけどね。「p.bar」はどのアーティストにとってもスペシャルな場所ですよね。お客さんとして行ってもそう思います。「RJ」は前評判がすごくて、実際行ったらそれ以上でした。個人的にもいつも考えるんですが、Kawasakiさん的に海外のクラブは日本とはどんな違いがあると思いますか?
Kawasaki いつも思うのは、どうして日本のクラブのDJブースはステージの上にあるんだろうって思う。もちろん大きなキャパのお店だとしょうがないけど、500人くらいまでのキャパなら絶対にお客さんと同じ目線というのが一番大事だと思う。「panorama bar」も「Robert Johson」もそうだし。
Kana 確かにそうですね! 私もいつも思いますし、ATAがインタビューで絶対大事なことだと言っていたのが印象的でした。キャパは広いですが、アムステルダムの「Shelter」も同じですね。多くの日本人アーティストが海外で実力を発揮していて本当に素晴らしいと思いますが、日本のシーンに対しては厳しい意見を聞くことも多いです。現在の日本における課題は何だとお考えですか?
Kawasaki 日本のクラブで働いている人はもっと世界の良いとされているクラブに視察に行ったり出来れば良いんじゃないかなと思う。フェスティバルを見に行っても意味が無い。あと、音楽以外の動線を作れると一番ベストだと思う。例えば、それは飲み物だったり。20年前、僕が初めてレギュラーパーティーをやっていた三宿の「web」はお酒が美味しかった。音楽の力だけで東京はやっていけない……。東京らしいモダンなお店がどうして出来ないんだろう? っていつも不思議に思ってるけど。
Kana ベルリンのクラブのお酒はクオリティーが低いので日本のクラブは美味しいと思ってしまいますが、メニューが豊富でプロ意識の高いバーキーパーがいるミラノの「Tunnel Club」に行った時はレベルの違いに驚きました。値段にも驚きましたが(笑)。話は変わりますが、〈mule musiq〉と並行して、日本のシティーポップのリイシューをメインとした〈studio mule〉を立ち上げられましたが、これはどういった経緯からですか?
Kawasaki 〈studio mule〉は本当は僕が始める予定だったレストランの名前だったんだけど、レストランのBGMをリリースするレーベルの名前にもしようと思っていた。でもパリからシェフが来る予定が頓挫して、その計画が無くなった代わりに、レーベルだけ先に始めようとしたのがきっかけかな。でも、当初は日本の音楽に焦点を当てようとは全く思っていなかったけど、日本の音楽が海外レーベルにライセンスされていくのを見て、これは良くないと思って今の様なスタイルになった。
Kana ヨーロッパ全体のシーンを見ても、日本の古き良き楽曲が見直されて、ハウスやディスコ、ビートミュージックのシーンにおいて一種のリバイバルブームのようなものを感じていた時に〈studio mule〉が設立されたので、さすがだなと思っていたんですが、実はそんな経緯があったんですね。でも、素晴らしい国産を国内で守るってとても大事なことですし、Kawasakiさんだからこそ出来たのではないでしょうか? レストランの話はパリで会った時にお聞きしていましたが、計画通りにならず残念です。でも、次に期待しています!
Kawasaki 多分、初めて「sure shot=狙い撃ち」ということをやったかも。今までは一番やりたくなかったことだったけど、今は結構楽しめいてる。
Kana Kawasakiさん自身もDJとして海外での活動が非常に多いですが、拠点をヨーロッパへ移すことはお考えですか?
Kawasaki ずっと考えているけど僕は東京が好き。自分自身に需要があれば住んでいる街は関係無いと思う。もちろん需要が熟せるスケジュールを超えた時は考えないといけないと思うけど、僕はそんな感じじゃない。でも、自分が好きな人は皆んな海の向こうにいるんだ。クニユキですら言ってみれば海の向こう。だから、半分半分くらいに出来ればそれは理想かもしれない。今は少し真剣に考えているかな。東京で音楽を続けていくことに対してどういう未来を思い描けるか正直分からないのが現状だったりするし……。
Kana 私はもう日本を出てしまった立場ですし、〈mule musiq〉がヨーロッパ拠点になってくれたらいいなと勝手なことを思ってしまいますが、やはりこれまで日本で築き上げてきた歴史もあるし、そう簡単ではないですよね。最後になりますが、12月には拠点である東京で開催されるアニバーサリーイベントにDJ Kozeを招聘していますが、どういった理由からですか?
Kawasaki それはもう彼がベストだから。僕にとって彼はNO.1で誰が自分にとってNO.2かは分からないけど、NO.1とNO.2の差はもの凄く大きい。
Kana なるほどですね。DJ Kozeがゲストだった「代官山AIR」でのレーベルナイトを思い出しました。今回は場所が変わって渋谷Contactですが、非常に楽しみです! 本日は貴重な時間とお話しをありがとうございました!!
2004年、ヨーロッパでプロダクション/ディストリビューションを行い日本へは逆輸入として入って来るというこれまでになかったスタイルでスタートし、幾つかのフロアヒットを経て複数のメディアでベストレーベルに選ばれ、”日本で生まれた初めての偉大なレーベル”とも称された〈mule musiq〉。同レーベルは、エレクトロニックミュージックのあらゆる面にフォーカスし、これまでに400タイトルを超す作品をリリースしてきた。15周年を記念してリリースされた12inchシリーズは12枚全て集めると、stefan marxが描いた「i’m starting to feel okay」という〈mule musiq〉のスローガンがパズルの様にバックカバーでディスプレイされるというユニークなアイディアで人気を博し、一昨年からスタートした新レーベル〈studio mule〉からは埋もれてしまった素晴らしい日本の音源が数多くリイシューされた。
そして、New York、LA、Paris、Milano、London、Mexico city、Berlin等で行われた来た15years tourのファイナルに盟友DJ Kozeが約4年半振りに来日を果たす。常にユニークかつ音楽的でモダンハウスシーンのNo.1 DJと言えるDJ Kozeがクラブギグを行うのは世界的に稀でとても貴重な一夜となるだろう。
Text by 宮沢 香奈
EVENT INFORMATION
15 YEARS MULE MUSIQ
2019.12.07(土)
Contact Tokyo
LINE UP:
DJ KOZE
TOSHIYA KAWASAKI
and more