2011年

▼80KIDZが2011年にリリースした作品

『HOTSTUFF』(2011.12.21)

▼80KIDZが選ぶ2011年を象徴する自分たちの楽曲

ALi&:Agua
JUN:Logic System / Clash(80KIDZ Remix)

▼80KIDZが選ぶ2011年を象徴する他のアーティストの楽曲

ALi&:SBTRKT / Wildfire
JUN:James Blake / The Wilhelm Scream

——この年はデジタルEPの『HOT STUFF』をリリースしていますね。前年と比べると、リリース量自体は落ち着いた印象です。

ALI& 『WEEKEND WARROR』を2010年10月にリリースして、その後、海外に行ったんですよ。で、帰ってきてから、ワンマン・ツアーやDJツアーをやったので、リリース自体は少ない年でした。リミックスも少なかったよね?

JUN それこそ僕が挙げたLogic System“Clash(80KIDZ Remix)”と、あといくつかくらい。僕はその海外ツアーのタイミングで音楽以外の仕事を辞めたので、ミュージシャンとしての覚悟をしっかり決めた時期でもありましたね。

ALI& 遅いな(笑)。

JUN それで時間にも余裕が出来ていて、週末はライブやDJ、平日は遊んで、みたいなサイクルでした(笑)。

——先ほどおっしゃっていましたが『WEEKEND WARROR』までの時期は活動のペースが目まぐるしくて、自分が目の前で観て聴いた音楽が印象深かったということでした。けど、この頃は時間的にも少し余裕が生まれて、より幅広い音楽に耳を傾ける時間ができたところもあると思います。実際、当時はどんな音楽に刺激を受けていたのでしょうか?

ALI& まあ、この年を象徴する曲として僕らが挙げたのが、それぞれジェイムス・ブレイクとSBTRKTですから——。

——思いっきりUKのベース・ミュージックですよね。

ALI& そうなんですよ。

JUN ジェイムス・ブレイクなんて、ベース・ミュージックというか、賛美歌みたいな部分もあるじゃないですか。

——彼はベース・ミュージックのシーンから出てきたアーティストではあるんですけど、すごく奇妙で、独創性の高いサウンドを作り続けていますよね。

JUN 彼のライブ映像を見た時に、すごく音数が少なくて、そこにギターの音も入ってくるのが面白いと思いましたし。恵比寿リキッドルームでの初来日に行ったんですけど、壁際で観てたら、低音がすご過ぎて壁がボワボワなるくらいで(笑)。「うわ、こんなに!」って感動したのを覚えていますね。

ALI& 2年くらいずっと言ってたもんね。

JUN こういった(エクストリームな)サウンドが世界的に評価されて、あの後、ちゃんと売れていったのも、いい意味で驚きでした。

James Blake – The Wilhelm Scream

——ジェイムス・ブレイクを筆頭に、この年はベース・ミュージックが盛り上がった年だと思います。と同時に、ウィークエンドがミックステープ三部作をリリースした年でもあるんですよね。

ALI& ああ、それもめっちゃ聴いてましたね!

——いわゆるオルタナティヴR&Bのはしりですよね。そういった動きも踏まえて考えると、『HOT STUFF』は80KIDZのバンド・モードと、そうした最先端の動きを融合させたような作品だと捉えることもできると思うんですよ。『HOT STUFF』には、ソニック・ユース(Sonic Youth)みたいにハードなギター・リフと、メロウなR&Bの要素が混在しているじゃないですか。

ALI& そうだそうだ、“Agua”は完全にウィークエンドですね。僕、それはすごく影響を受けたのを覚えています。

The Weeknd – House Of Balloons / Glass Table Girls

——だから、世界的な音楽シーンの潮流と80KIDZの音楽性の接点の見えやすさというポイントで言うと、『HOT STUFF』はデビューEP以来の作品だと思いますね。

ALI& なるほど。

——ただ、ひとつ違いがあるとすれば、エレクトロはその後すぐに日本にも浸透しましたけど、オルタナティヴR&Bや新世代ヒップホップは日本ではそこまで広がらなかったということ。むしろ、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)やチャンス・ザ・ラッパー(Chance The Rapper)の来日を経て、これから浸透するんじゃないか? という印象すらあります。

ALI& そうですね(笑)。

——では、そういった状況も踏まえて、当時、どういったアイデアで『HOT STUFF』を作ったか、改めて思い出してもらえますか?

ALI& さっき言った通り、ウィークエンドの影響はありますね。あと、“TURBO TOWN”は次のアルバムを引っ張っていく曲だって決めていました。

——90年代オルタナティヴ色が強いギター・ロックですよね。

JUN EPでは、あの曲だけ毛色が違いますけど(笑)。

ALI& でも、トレンドではないことを、どうやってトレンドにしていこう? っていうのも考えていたんで。小林くん(インタビュアー)は当時このEPを褒めてくれてましたよね?

——そうですね。これまでの80KIDZの型を壊して全く違うことをやっていますし、ウィークエンドみたいな海外のトレンドの最先端を取り入れた曲もあれば、“TURBO TOWN”みたいに完全にオリジナルな路線もあって、このタイミングで80KIDZが出す作品として、ほとんど完璧に近いな、と感じていました。でも、自分たちの手応えとしてはどうでしたか?

ALI& ヤバいのできたと思っていましたね。

——周囲からの反応は?

ALI& わからない(笑)。

JUN 結構、謎な作品でもあるじゃないですか、これって。これまでのファンが期待していた音と違っただろうし。

ALI& 国内のシーンに向けて作った作品ではないけど、だからと言って海外に向けて作っているわけでもないっていう、ちょっと浮いちゃっている時期じゃないですかね、これは。だから、すごく不思議な作品にはなっているんですけど、音楽的にはかなり鮮度が高いものは作れたと思っています。

2012年

▼80KIDZが2012年にリリースした作品

『TURBO TOWN』(2012.04.18)

▼80KIDZが選ぶ2012年を象徴する自分たちの楽曲

ALI&:Lightwaves
JUN:Turbo Town

▼80KIDZが選ぶ2012年を象徴する他のアーティストの楽曲

ALI&:Usher / Climax
JUN:Cashmere Cat / Mirror Maru

——2012年にリリースした『TURBO TOWN』は、すごくシンプルに言うと、80KIDZのバンド・モード時代かなという印象があります。

JUN バンドでツアーを経験して、バンド形態の80KIDZも熟してきたという手応えは持っていたんですよ。だから、バンドの衝動というか、ギターをかき鳴らす曲を作りたいと思っていて。それで“TURBO TOWN”は作ったんですよね。それまでは打ち込みに合わせて弾くっていうのがベースにあったから、あの曲ほどガンガンに弾けるのはなくて。

——“TURBO TOWN”はギターのフィードバックから始まる曲で、かなりロック色が明快ですよね。

ALI& ただ、『TURBO TOWN』はバンド・モードっぽいんですけど、実はバンドではないんですよね。僕がこの年を象徴する曲として挙げた“Lightwaves”もバンド的なサウンドではありませんし。バンドっぽい曲が頭何曲か続いているので、その印象が強いと思うんですけど。

——確かに。アルバム全体で考えると、いろんなタイプの曲が入っていて。

ALI& そうなんですよ。実は、ちょいちょい違う曲も入れているっていう。今もライヴでよくやっている“Numan”も、全然バンドじゃないですし。

——“Numan”はディスコっぽいグルーヴィなトラックですよね。

JUN でも、バンドっぽいのが耳に残るんでしょうね。

ALI& 自分たちも、当時のインタビューではそこを押していましたし。でも、改めて聴いてみると、そうでもないかなと。

——ALI&くんは当時、どういった曲を作ろうというヴィジョンがあったんですか?

ALI& もう“TURBO TOWN”はできていて、アルバムの押し曲になることも決まっていたから、それとは違う方向性を目指していました。具体的には、ピアノの曲をめっちゃ入れようと思っていて。H&Mでかかってそうなイメージというか。

——どんなイメージなんですか、それ?(笑)

ALI& TOP SHOPとかじゃなくて、H&Mなんですよね。TOP SHOPはUKベースなんかもかかってましたけど、あそこまでゴリゴリじゃなくて、女の子が聴いて「いいな」って思ってもらえるようなイメージです。だから、“Lightwaves”もH&Mのイメージです(笑)。

——なるほど。男臭いロックとは違って、もうちょっとフェミニンな空気もある曲というか。じゃあ、この年を象徴する曲としてALI&くんがアッシャー(Usher)の“クライマックス(Climax)”を選んだのも、H&M感があるからですか?(笑)

ALI& そう、H&Mっぽいですよね?(笑) この曲はめっちゃハマってたんですよ。ディプロ(Diplo)がプロデュースした曲なんですけど、エレクトロ上がりの人が作ったビルボード向けのポップとして、すごくよくできてるなと。かなり聴いてましたね。

Usher – Climax

——JUNくんが選んでくれたのはカシミア・キャット(Cashmere Cat)のデビューEPのタイトル曲ですね。これを選んだ理由は?

JUN ベース・ミュージックの流れを引き継ぎつつも、めちゃくちゃ上手い人が出てきたなと思って。一時期、カシミア・キャットはみんな好きだったじゃないですか。

——R&Bやジャージー・ハウスも取り入れつつ、インディ感の強いサウンドでかなり支持を集めていましたよね。アンダーグラウンドのプロデューサーの中では、新世代の象徴だったと思います。

ALI& この頃はEDMがかなり盛り上がっていた時期ですよね? それに対するアンチとして注目を浴びたところもあったんじゃないかと思います。

——EDMの話で言うと、カルヴィン・ハリス(Calvin Harris)がリアーナ(Rihanna)とやった大ヒット曲“We Found Love”が2011年のリリースで、2012年にその曲が入ったアルバムも出しています。<エレクトリック・デイジー・カーニバル(EDC)>とか、EDM系の巨大フェスが何十万人も集客しているという情報が日本に伝わってきたのもこの頃で、まさにEDMが猛威を振るい始めたタイミングですよね。

JUN もうスクリレックス(Skrillex)もデビューしていたんでしたっけ?

——スクリレックスも最初のEPを出したのは2011年でしたね。日本でEDMが本格的に盛り上がるのは数年後ですけど、海外では最初のピークを迎えていたので、エレクトロ出身のアーティストたちがそこでどうするのか? というのはひとつの試金石にもなっていたと思います。

ALI& そう、あそこでEDMに行った人はビッグ・マネーを取ったんだな、って(笑)。でも振り返ってみると、もし当時、僕たちがEDMをやり始めていたら、日本のEDMはもっと盛り上がっていたんじゃないかって思います。

——日本でEDM自体は人気になったけど、日本発のEDMプロデューサーはそんなにメジャーなのが生まれていないですからね。

ALI& そうなんですよ。実際、「EDMやったら?」とはよく言われたんです。自分たちが好きな音ではなかったから、やらなかったんですけど。

——少し時間が前後するんですけど、『HOT STUFF』でEDMには行かず、もっとオルタナティヴでカッティング・エッジなサウンドを選んだ時点で、その後の80KIDZの進む道が決まったんだと思います。改めて振り返ると、あれは「自分たちはセルアウトしない」っていう態度表明になっているなと。

ALI& その時、悪い人が寄ってきて、「EDMやれば家が建つぞ」とか囁かれたら、揺らいでいたかもしれないですけど(笑)。でも、超ダサいと思っていましたから。改めて考えると、確かにあの時期が分岐点だったんだなって思いますね。

後半へ続く……。

RELEASE INFORMATION

BEST KIDZ 2008-2017

2018.09.12(水)
80KIDZ

EVENT INFORMATION

80KIDZ 10TH ANNIVERSARY LIVE

2018.09.08(土)
OPEN 18:00
渋谷 WWWX
ADV ¥3,500/DOOR ¥4,000
チケットプレイガイド 7/7(土)~一般発売開始
e+
ローチケ
チケットぴあ

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text by Yoshiharu Kobayashi