昨年の音楽シーンに大きなインパクトを与えた、MONDO GROSSOのアルバム『何度でも新しく生まれる』。その続編とも言えるアルバム『Attune / Detune』が3月21日(水)にリリースされる。前作のサウンド・デザインや世界観を踏襲しつつ、“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのアイナ・ジ・エンド、ファッション・デザイナーとして音楽シーンから退いていたBig-OことSHAKKAZOMBIEのオオスミタケシら、意外なボーカリストとのコラボも話題だ。また、本作にはYouTubeで1000万回以上再生された“ラビリンス”を始め、全7曲のMVをBlu-rayの高画質でカップリング。今回は、現在のMONDO GROSSOの魅力をそれらのMVから検証してみたい。
“偽りのシンパシー”(Starring:アイナ・ジ・エンド(BiSH))
アイナ・ジ・エンドの少女性の裏に隠された闇が、独特のハスキーボイスと相まり、中毒性の高いこの楽曲。歌詞の内容にもあるようにうわべだけのシンパシーより、むしろ支配や束縛を求め、相手からの憎しみに安心すら覚えるというねじれた愛情は、このMVによってさらに強烈なものとなる。“楽器を持たないパンクバンド”BiSHもグループとしてはシュールなコレオグラフが多いが、単独で歌唱したこの楽曲の世界観を全身で表現した映像はかなり衝撃的。一人、部屋に残された歌の主人公の内面を、ヌードカラーの制服にハイヒールというフェティッシュでアイコニックな衣装、アイナの渾身のダンスパフォーマンスで表現。ソロ初期のビョーク(Björk)やFKAツイッグス(FKA twigs)のようなアーティスティックなエロティシズムと、日本人のごく普通の女の子の隠された秘密めいたものが、絶妙の位置で融合しているイメージだ。フューチャー・ベース、新世代ジャズ的なトラックはクールだが、“偽りのシンパシー”とは何か?その軸を暴き出すようでもある。しかもその制作を、近作に、Mr.Children「here comes my love」MV、SEKAI NO OWARI「サザンカ」MV、NHK 連続テレビ小説「ひよっこ」「わろてんか」グラフィックデザインなどがあるクリエイター集団・DRAWING AND MANUAL所属の林響太郎が手がけているのも新鮮。確かに色彩の変化やミニマムなセットなどのセンスはこのチームらしい。劇的ではない空間と生身そのもののアイナ・ジ・エンドの対比も、この楽曲のイメージを拡張する。ある意味、これまでで最もセンセーショナルな映像だ。
MONDO GROSSO / 偽りのシンパシー
振付は、ヒールダンスやコンテンポラリーフュージョンなど女性ならではの曲線美を活かしてた独自のスタイルで魅了するダンサー、Miu Ideが担当。
“ラビリンス”(Starring:満島ひかり)
MONDO GROSSO復活劇のすべての始まりとも言える楽曲をさらに多くの未知のリスナーへと届けたのがこのMV。冒頭の香港の高層住宅建築のカオスと青黒い色彩だけでも鳥肌ものだが、そこにビビッドな赤とオレンジの少年ぽい衣装の満島ひかりが佇むことで、圧倒的な対比が生まれる。そして文字通り“ラビリンス=迷宮”な空間を、メロディーをリズムを肉体で表現するように自由奔放に動き、時に切れ味鋭いダンスで泳いでいく満島ひかりをワンカメで追うという、息もできないようなスリルを生む演出が中毒性の高さの要因だろう。作詞を担当した谷中敦のインタビューでの発言を読むと、悲恋ではなく、ダンスフロアにいる一人一人の孤独といったニュアンスの方が強いのだという。踊ることで解放される何かは、満島のダンスやムーブが言葉を超えて体現しているし、そんな自由度の中にも切なさが滲むのは夜の香港、それも賑やかな場所ではなく、ちょっとシュールな市場のような場所だからかもしれない。「ラ・ラ・ランド」の振付補をつとめ、キャストとしても出演していたジリアン・メイヤーズが振付・監修したことも話題になったが、そうした情報抜きでも、エレガントでモダンなストリングス×ハウスと言えるこの曲のエンドレスな迷宮感は、MVでの満島ひかりの演技によって、よりしなやかで凛とした印象を加えたと言えるだろう。
MONDO GROSSO / ラビリンス
MTV VMAJ 2017「BEST DANCE VIDEO」受賞
“惑星タントラ”(Starring:齋藤飛鳥(乃木坂46))
“ラビリンス”と同じく丸山健志が監督・ディレクションをした、アルバム『何度でも新しく生まれる』からの楽曲。乃木坂46のメンバーの中でも文学少女的な内面と佇まいを持つ齋藤飛鳥の物憂げなボーカルが、Tica αことやくしまるえつこの作詞したディストピア文学めいた歌詞にマッチして、乾いた悲しみを誘う。「Boy meets Girl 僕らは承認された世界の密室を旅してる」という、恋愛ですら囲まれた世界の中での予定調和のように感じられる儚さ。それを一見、光も差し込み解放的に見えて、実は閉ざされた空間をさまよいながら歌うという演出が、曲の世界観を身近なものにしている。また、無感情から悲しみ、怒りを浮かべる齋藤飛鳥の表情と、不安げな動き、そしてビートとシンクロするように口ずさむ唇のアップなど、シンプルながら随所にフックが盛り込まれているのも見所だ。また、音源でギターを弾いている大沢伸一がこのMVでも演奏シーンの手元と、遠景で出演しているのも、クールなサウンドの中で際立つギター・リフの存在を印象付けている。音源ではSF的な冷たい質感もある楽曲だが、光に溢れる映像という意外性も相まって、違う視点で“惑星タントラ”を味わうことができる。丸山作品の映画的な手法と現在のMONDO GROSSO楽曲の相性の良さを実感。
MONDO GROSSO / 惑星タントラ (Short Edit)
Blu-rayには5分半のフルサイズが収録
“SEE YOU AGAIN”(Starring:Kick a Show、松下サニー)
『何度でも新しく生まれる』の中ではino hidefumiと、このKick a Showのみが男性ボーカル楽曲かつ、当時歌い始めてまだ1年ほどというキャリアのKick a Showをフックアップし、彼自身も作詞に参加している。終わった恋を瑞々しいネオアコやニューウェーヴ感のあるトラックに乗せて歌うこの曲。MVでは思い出の部分である、カップルの日常が本人出演とリップシンクという、王道の手法で描かれていることが、むしろ切なさを増幅させている面も。また、登場するコンパクト・フィルムカメラや、雑誌『ele-king』が(おそらく)90年代のバックナンバーであることなども、曲調と相まって当時を知るリスナーにとっては気の利いた味付けに。だが、登場するカップルは2017年の男女であるという、架空の設定がMONDO GROSSOの音楽的なルーツもうかがわせる意図を含んでいるようにも見受けられる。別れや、主人公の後悔や悲しみもあくまでさらりと描写され、残る印象は、歩き続けるようなリズムと軽快なギターリフが生み出す日常感だったりする。様々なボーカリストを迎え、全編日本語詞にチャレンジした本作に登場する人物像の多彩さに気づくMVでもある。
MONDO GROSSO / SEE YOU AGAIN (Short Edit)