——では、収録曲の中であなたが特に好きな曲を3つ挙げるなら?

僕は“Thorn Tree Wind”が好きだね。瞑想的な曲で、演奏していても僕達と観客の両方に音に向き合う時間を与えてくれる。それから、“Pythagoras On The Line”も好きだ。90年代半ばからの実験的な演習みたいな曲で、実際に素晴らしく当を得た音だと思う。“Kora Kora”は僕の大のお気に入りの曲。演奏していて楽しいし、ピアノをこの曲みたいに弾くことは普段やるべきじゃない。特にスタインウェイを使うときはね(笑)。

——あなたのお母さんが手掛けたアートワークについては、どんなテーマで制作されたものなのか聞いていますか? もしくは、このイラストにはどんな魅力を感じますか。

母に聞くべきだけど、僕の考えでは、父は自分が見た夢を母に説明したんだと思う。自転車に乗った猿とか、外の嵐のような風景とか、いくつかの要素があった。あと、振動する音楽が入った棒の間を固定した輪ゴムがある(ジャケット左上から右上にかけて大きく描かれたイラストのことだと思われる)。

また、外にいるペンギンが増えていて、これはきっと新しい観客のことを表わしていると思うんだ。父親が見ていた夢の世界の続きなんだと思う。すべてのアルバムのカバーの絵は様々な世界に繋がるペンギン・カフェの世界との窓であり、音楽が持つ魔法のような創造性が、音楽家やそれを聴く聴衆を祝ってくれているんだ。

【インタビュー】息子アーサー・ジェフスが語る!父サイモンとペンギン・カフェ・オーケストラ最後の作品『Union Cafe』 interview_arthurjeffes_4-700x700
『Union Cafe』アートワーク

——ペンギン・カフェの他の作品と比べて、あなたが『Union Cafe』に感じる魅力とは?

今回の記念コンサートにむけてすべての楽曲を練習しているときに感じたのは、このアルバムは父の作品の中で最も複雑だけどかなりシンプルに聞こえるということかな。“Vega”や“Yodel 3”は美しく控えめだけど、一旦聴き始めると1小節の中に多くの不規則性が入っていることに気付いたりする。習得するのは大変だよ! (笑)。

あと、僕達は自分達の普段のツアー用のセットにも組み込めると思ういくつかの曲を再発見したよ。特に“Pythagoras On The Line”と“Thorn Tree Wind”。どっちの曲も、とても楽しくて本当に実験的なんだ。

——ミニマル~アンビエント・ミュージックを提唱したアーティストの多くは学術的でアート志向が強かったのに対し、ペンギン・カフェ・オーケストラの音楽にはとても気さくでチャーミングな雰囲気があって、よりリスナーに寄り添っているような魅力を感じます。

僕もそう思うよ。モダンな音楽は、しばしば理論的に迷子になり人間の心に繋がらない。でも、父は知的に興味深い音楽を創作することだけでなく、美しいアートを創造することも同様に重要だと感じていたんだ。僕はペンギン・カフェ・オーケストラのすべての音楽が後の音楽に大きな役割を果たしていると思うし、そうした瞬間を映画やTVで観るたびにいつも幸せで誇りに思う。それは、父の小さな名声のようなものなんだろうね。僕が小さい子供の頃は、誰もの音楽生活の一部にペンギン・カフェ・オーケストラが存在しているわけじゃないってことに気付かなかった。

だから後で父がこのバンドをやっていて、父の音楽について知っている人がいることを知った時、いつも特別な気持ちになった。特に父が亡くなった後、父の音楽を演奏する素晴らしい一員として継続することで、自分の人生にペンギンの音楽を持つ多くの人々に会えて、彼らの経験も共有できるようになったのはとても嬉しいよ。

【インタビュー】息子アーサー・ジェフスが語る!父サイモンとペンギン・カフェ・オーケストラ最後の作品『Union Cafe』 interview_arthurjeffes_2-700x700
サイモン・ジェフス

——この作品はペンギン・カフェ・オーケストラのラスト・アルバムとあって、今あなたが率いているペンギン・カフェのファースト・アルバム『A Matter of Life…』にバトンを渡すアルバムとも言えそうです。そして今ではあなたが、このアルバムを残して世を去ったサイモンさんの意思を受け継ぎ、そこに新たな要素を加えて活動を続けていますね。

僕にとっては、父が最初に発見した音楽風景の新しい部分をより探求するために「前に進める」ことが重要で、ペンギン・カフェをはじめたとき、最初に考えていたのは、「『Union Cafe』が止まった場所(とその続き)を拾い上げたい」ということだった。父はより数学的で遊び心を持っていて、僕の曲はもう少し映画的だとは思うけど、父の音楽は僕の音楽教育の少なくとも半分を構成している。

僕はペンギン・カフェの哲学のプリズムを通して世界中の音楽を聴いていて、これはちょっと変わったやり方だと思うけど――結局、それ以外の方法を知らないんだよ。まだ聴いたことのない人は、まずはこの『Union Cafe』を聴いて欲しい。明確に「こんな音楽だ」って説明はできないけど、美しくて遊び心のある作品だと思うんだ。

RELEASE INFORMATION

Union Cafe

2017.12.17
ペンギン・カフェ・オーケストラ
AMIP-0124
¥2,300(+tax)
[amazonjs asin=”B0771ZD4CC” locale=”JP” title=”Union Cafe ボーナストラック2曲のダウンロードコードつき”]
詳細はこちら

text by 杉山仁