――今回のベスト盤は自分たちの活動や作品を客観的に振り返る機会にもなったのではないかと思います。山本さんのテキストで、バッファロー・ドーター結成の時の話が克明に書かれていましたが、いまあの時の自分たちにアドバイスできるとしたら、どんな言葉をかけますか?

大野 なんだろう(笑)。

吉永 将来大変だよーって(笑)。

山本 名古屋でカバンを盗まれたことがあったので、それだけは気を付けろって言いたい。

全員 だははははは。

――それはいつ頃のお話ですか?

山本 99年のツアーの時、名古屋Club QUATTROのライヴが終わって、搬出の時にレコードが入ったトートバッグごと持っていかれてしまって。で、次の日にスタッフの方が、車とお金を用意してくださって、大阪中のレコード屋をまわって、なくしたレコードを買ってくれたんです。もう、超オトナ買いってやつですよ。「あれ、それ、これ、全部頂戴」みたいな。

――ではある程度は買い戻すことができたんですね。

山本 何枚か買えなかったものもありますね。実は当時、ライヴの冒頭のSEとして使っていた盤が買えなかったんです。MC5のライヴ音源か何かでお客さんの歓声がワーッと入っているやつ。それを失ったのが結構致命的だったんだけど、次の大阪公演では「昨晩レコードが盗まれていつも使っているやつがありません。でもオレは全然落ち込んでないぜ。だから口でやります!」って言って、はじめて人前でマイクを使ってアジテートをしたんです。そうしたら、お客さんが倍盛り上がってくれて。だから、レコードは盗まれけど、新しく生まれたこともあったんです。それで味をしめて、声を出すようになったっていう(笑)。

――すごいいいお話ですね!

山本 ケチなんですよ(笑)。

――今回、僕なりにバッファロー・ドーターの作品を聴き直して思ったのは、90年代はとにかく音楽的な冒険、好奇心、無邪気といった強烈なパワーで突っ走っていた時期で、〈グランド・ロイヤル〉が閉鎖し、9.11テロがあり、音楽配信などが急速に普及していく00年代はそうした時代背景も受け、メッセージや成熟さを作品に求めていった時期というような違いがあるのではないかと感じました。つまり90年代と00年代では作品のテイストに何かが違いがあるような感じがするのですが、いかがでしょうか?

大野 98年は『New Rock』を発表して、たくさんツアーをした年。あの当時は東京も渋谷もまさに消費の時代といった感じで、私たちもたくさん音楽を聴いたり、いろいろなものをインプットしていた時期だったと思う。で、ふと気が付いたら、なんだかヘトヘトになっていた。『New Rock』のツアーが終わって帰ってきたら、なんか急に疲れてしまって、自分たちの居場所がどこなのかわからなくなってしまったり。それでちょっとボーっとしていた時期もあったんだけど、その後、以前のような消費への意欲がなくなっていた。世の中的にもそういうムードがあったんじゃないかな。レコード屋さんもどんどん少なくなってきていたし。そういう状況の中で音楽を作るんだったらどういうことかなっていうのが00年代のスタート地点だったと思う。

――消費の90年代、そしてその終焉があり、新たなタームへと入った00年代。ではいま現在のバッファロー・ドーターはどのようなタームにいるのでしょう?

吉永 過去のことは振り返れるけど、いま現在のことは、その渦中にいるとわからないよね。00年代はとても不安な要素をたくさん抱えた時代だったと思う。2000年問題みたいなものもあったし、イラク戦争もあったし、不穏な空気が世界に漂っていた。だからその後のバッファローのアルバムもそうした時代のムードを少なからず反映していると思う。でも内容的には、ずっと祈り続けているんですよ。

――祈り?

吉永 世の中が良い方向に向かってほしいという想いはずっと同じようにあって。でも00年代の入り口から10年経って、2010年に『ザ・ウェポンズ・オブ・マス・ディストラクション』というアルバムを出しているけど、その制作中に「10年前の不安な時代から何も改善されてないじゃん。どうなんの、これから?」って想いはあった。『I(アイ)』(01年)の時に「光が見えたー!」とか言ってたけど、それは光じゃなかったんだって(笑)。でも絶望するのが好きじゃないから、常に夢を持って追いかけたいって思っている。だから希望を持つ続けるための根拠を持つために、いろいろなことをいつも考えるんだけど、『ザ・ウェポンズ・オブ・マス・ディストラクション』の時には、とうとう五次元の話にまで辿り着いてしまった(笑)。歳を重ねると、どうしても見えてきてしまう部分もある。権力を持つ者の揺るがざるような力とか、ちょっとやそっとじゃ越えられない壁のようなものとか。そこだけ見ると落ちてしまうかもしれないけど、でも五次元的に考えたら私たちって無限じゃん! という(笑)。そう考えると笑えるし、なんか元気も出てくる。そういうよくわからないエネルギーが詰まっているのが『ザ・ウェポンズ・オブ・マス・ディストラクション』ですね。

――はははは。強烈なコンセプトですよね。

吉永 そうです。だからバッファロー・ドーターは2010年以降は五次元なんです。いま制作している次のアルバムはもうその次のフェーズに入ってますから(笑)。

山本 『ザ・ウェポンズ・オブ・マス・ディストラクション』の時に、五次元について理論的な裏付けだったり、いろいろ勉強したんですよ。でも最終的にシュガーは「やっぱロックンロールだよ」って(笑)。でもその過程が良かったんです。いったん五次元を経て、最終的にはロックンロールに辿り着くっていう。

――なるほど(笑)。先ほど出てきた「祈り」というキーワードは、バッファロー・ドーターの精神的な部分でのコンセプトと言えるようなものだとも感じたんですが。

吉永 祈り続けているバンドではないんです。ただ普段思っていることや考えていることが素直に曲や作品に反映されやすいバンドだとは思います。過去のアルバムを聴くと、あの時はこういう気分だったなってすぐに思い出せるから。でも悲しい曲がどうしても書けないんだよね、わたしたち(笑)。

山本・大野 だはははは。

――次のアルバムのテーマはディスコだとも聞いています。いまディスコを引っ張り出してきた理由というのは?

吉永 それだけにフォーカスしたアルバムではないんですけどね。去年、金沢の21世紀美術館でピーター・マクドナルドというアーティストも参加したエキシビションがあって、その展示室で演奏をしたんだけど、その時のテーマがディスコで。その展示や空間がとても楽しくて、この楽しさを次のアルバムのテーマにしようって思って。

――作品に「書き込み可能な生のCD-R」が付属されているのもとてもユニークな試みだと思いました。改めてこのCD-Rを付属させようとした理由を教えてください。

山本 空っぽのCDが付いてたら、誰しもが「何だろう?」って考えるじゃないですか。そういう投げかけをしてみたかったんです。だから、具体的にこれを使って何かをして欲しいということではないんです。別にこれで自分流のベスト盤を作れってことだけでもないですし、今後、何かを配信してそれを入れるための器ってことには限定してないんです

――なにか龍の目を書かないというか、敢えて未完成な感じもありますよね。

山本 そこをリスナーの方々がそれぞれに見つけてくれればよくて。20周年のベスト盤なのに、完成していない感じがなんか好きで…「これで完成です」っていうパッケージにしたくなったんです。

――最後の質問になります。これはQeticで取材させてもらったアーティスの皆さん全員に答えていただいているものです。いま現在のみなさんの夢を教えてください。

大野 歳をとっても、ずっと音楽を続けていけたらいいなあ。ずっと演奏していたいですね。

山本 20年を振り返ると、ずっと夢の中にいたようだったなって思うんです。考えられないことがたくさん起きた。〈グランド・ロイヤル〉からリリースできたり、海外でツアーやったり、これだけ歳を重ねてもまだ音楽を続けていられるし。だから僕はもっと現実的になりたいですね。日常が夢みたいなので。もっと現実を現実として認識できる人間になりたい。それがいまの夢かなあ。そしたらまた違った世界が見えてくるような気がしますね。

吉永 夢ないなー(笑)。あ、でもこの前、夢が叶った。テイ・トウワさんのアルバムに参加したら、なんとポスターで草間彌生さんの隣に名前が載ったんですよ。わたし、本当に草間彌生さんが好きなので、もう本当に嬉しくて。そのポスターは自宅で額装してありますけどね。この前、あのクラフトワークのライヴで3日間騒ぐっていう夢もかなったしなあ。

大野 直近の夢ばかりじゃん(笑)。

吉永 えー、本当にないんだもん。なんだろうなー。あ、つまらないよ。白いオウムが飼いたい。ほら、つまらないでしょ(笑)。

――ありがとうございます。今日は本当にありがとうございました!

text by Naohiro Kato

Event Information

Summer Sonic 2013
2013.08.10(土)@QVCマリンフィールド&幕張メッセ
出演STAGE:RAINBOW STAGE

ONE Music Camp
2013.08.24(土)@兵庫県・三田アスレチック野外ステージ

Buffalo Daughter 20th Anniversary Live in Kyoto Metro
2013.08.25(日)@京都メトロ

Buffalo Daughter 20th Anniversary Live at UNIT Tokyo
2013.09.22(日・祝前日)@代官山UNIT
OPEN 18:00/START 19:00
ADV ¥4,000(ドリンク別)
※もれなく20周年記念特典付!

Ticket Information
2013.08.10(土)on sale!
チケットぴあ(Pコード:207-986)、ローチケ(Lコード:78864)、イープラス
問:代官山UNIT(03-5459-8630)

Release Information

2013.07.24 on sale!
Artist:Buffalo Daughter(バッファロー・ドーター)
Title:ReDiscoVer.Best,Re-recordings and Remixes of Buffalo Daughter(リディスカバー、ベスト、リレコーディングス、リミキシーズ・オブ・バッファロー・ドータ―)
U/M/A/A Inc.
UMA-1022-1023
¥ 2,600
★1CD+書き込み可能な生CD-R付★バンドヒストリーを綴った24P カラーブックレット+解説・歌詞・対訳付
★初回のみICカードステッカー*付

Track List
1. New Rock 20th featuring KAKATO (環ROY×鎮座DOPENESS)
2. Beautiful You 20th featuring 日暮愛葉&有島コレスケ
3. LI303VE
4. Great Five Lakes 20th featuring 小山田圭吾
5. Dr. Mooooooooog
6. Discothéque Du Paradis
7. Cold Summer
8. Peace Remix by Adrock
9. Socks, Drugs and Rock’n’roll Live (Sax, Drugs and Rock’n’roll) featuring 立花ハジメ
10. Volcanic Girl
11. A11 A10ne
12. Cyclic Live
13. バルーン Remix by Avec Avec
14. ほら穴