昨年デビュー・アルバムをリリースしたバンド、Srv.Vinciの中心人物であり、大学の同窓にして若手天才ドラマーと名高い石若駿らとも親交を持ちながら、クラシック、ジャズ、ビート・ミュージック、ヒップホップなどあらゆる音楽を呑み込んだサウンドを鳴らす鬼才、常田大希。彼がソロ・プロジェクトとなるDaiki Tsuneta Millennium Parade(DTMP)としてのデビュー・アルバム『http://』を完成させた。
Daiki Tsuneta Millennium Paradeの『http://』は楽曲ごとに詰まった情報量が並大抵のものではなく、それらが混然一体となって耳に押し寄せるような怒涛のサウンドスケープを展開。まるで耳元で次々に情報がオーヴァーフロウしていくかのようなジャンル分け不能の全20曲を通して、進化を続ける欧米のビート・ミュージック・シーンに対する、アジアからの回答とも言うべき音楽性を提示している。
果たして彼が本作に込めたものとは、どんなものだったのだろう。そして、アカデミックな音楽要素と奔放なエネルギーとが不思議に同居した新作から見えてくるものとは? 常田大希本人に、アルバムの制作背景と彼の音楽観の源泉について語ってもらった。
Interview:Daiki Tsuneta
――今回のプロジェクトの前に、昨年Srv.Vinciでデビュー・アルバム『Mad me more softly』をリリースしていますね。そこからソロ・プロジェクトを立ち上げようと思ったのには何かきっかけがあったんですか?
とは言っても、あのバンドもCDを出した当時はまだ固定メンバーは自分だけだったんで、今回のDaiki Tsuneta Millennium Paradeも、前作の延長線上にある感覚なんですよ。結果的に、前作よりもソロ的なものになってはいますけど。今回名義を変えたのは、Srv.Vinciのバンドメンバーが固定して、方向性が変わってきたというのがひとつの理由ですね。
――あのSrv.Vinciというバンド名は「Srv.(=インターネットのサーバー)」と「Vinci(=レオナルド・ダ・ヴィンチ)」をかけあわせたものでした。
そうですね。それが小難しく見えちゃったと思う部分もあって、今回はバカっぽい名前をつけたくなったんです。それでDaiki Tsuneta Millennium Paradeという名前が出てきました。俺は『ミレニアム』シリーズ(スティーグ・ラーソンによる、『ドラゴン・タトゥーの女』などを含む三部作の推理小説)が好きなんですよ。そこから「Millennium」を取って、そこに「Parade」をつけて……。「Millennium Parade」って、すごくないですか?(笑)。そういう賑やかな感じにしたかったんです。それから、このプロジェクトでは、以前よりも日本の音楽シーンを意識しなくなったと思いますね。Srv.Vinciの時は、まだ日本の音楽シーンを意識していたところがあったと思うんですけど、今回はより自由になって――。
Daiki Tsuneta Millennium Parade – Prêt&Porter
――結果、楽曲の情報量が格段に増えています。今回の作品からは、インターネット上に存在する無数の情報や、様々な文化が混ざり合う東京の街並みのようなものを連想しました。
自分が考えていたのもそういうことなんですよ。「世界に目を向けた時に、アジアのミュージシャンが何をするべきか」ということを考えると、たとえば日本人がブラック・ミュージックをそのまんまやっても、ただの輸入しかならないわけで。「じゃあ、東京に暮らす俺には何が出来るんだ」と考えた時に、色々なカルチャーを何でも取り込むような和洋折衷な感じ、ある意味”軽薄”とも”自由”とも言えるようなエネルギーがアジアの強みじゃないかと思ったんです。今回はそういったものを意識して作っていきました。「もっとその面白味を外に発信しなければいけない」と思ったんですよ。
――じゃあ、常田さんが共感する海外のシーンというと?
たとえばブレインフィーダーはそうですね。(レーベルオーナーの)フライング・ロータスはもちろんのこと、ラパラックスやサンダーキャットのようなアーティストもそうです。Red Bull Music Academy(以下、RBMA)の一派も刺激になりましたね。
――とはいえ常田さんは、名門の東京藝術大学に進学したり(のちに中退)、19歳のときには小澤征爾さんのアカデミーに参加したりと、クラシックの素養もある人です。そう考えると本当に色んな音楽にアンテナを張っているように思えますが、小さい頃からそういうタイプだったんですか?
そうですね……。色んなジャンルを聴きながらも、サイケデリックなものが好きでした。たとえジャンルはバラバラでも、サイケデリックな匂いが共通していることってあると思うんですよ。それはジャズにもロックにも、クラシックにもある。たとえばクラシックなら、1900年代以降のものはぶっ飛んでサイケなものも数多くあると思いますし。
――その幅広さが分かるように、好きなアーティストをいくつか挙げてもらえますか?
なかなか難しいですけど、まずはストラヴィンスキー。一方で、音楽にのめり込むきっかけはジミ・ヘンドリックスのようなノイジーな音楽でした。自分にはジミヘンのサウンドにもストラヴィンスキーの音楽にも、ブレインフィーダーの音楽にも、共通項が感じられるんですよ。それぞれの音楽にあるサイケデリックな空間性がすごく好きで。他には……レディオヘッドもそう。“クリープ”みたいな曲も、『キッドA』以降の曲も好きです。最近で言うと、ケンドリック・ラマーやジェイムス・ブレイクもそうですね。また、ビートルズやゴリラズのような、映像も含んだトータルクリエーションにも影響を受けました。
――常田さんにとって今、クラシックはどういう存在なんですか?
クラシックって、ビート・ミュージックの世界ではまだあまり深まっていない領域だと思うんです。オーケストラのようなデカいサウンドを(ビート・ミュージック的な)ミニマルなアンサンブルでやるというのは、俺がやりたいことです。だから、その経験があるのは自分の強みだと思っていますね。19歳の頃に参加した小澤さんのアカデミーは、(オーケストラの)デカい響きを知るきっかけになりました。もちろん、小さい頃からラウドなギターを弾いていて、スケールのデカい音楽が好きだったんですけど、「ラウドな音」の中にも色々な種類があると身をもって感じました。粗さを際立たせるために、繊細なものを提示した方がいいこともあると思ったんですよ。
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